架空適応教室

 拘置所を思わせる檻に囲まれた部屋の隅、タケルは陰鬱な気分で目を覚ました。
 彼の名前は秋本猛。歳は17にして、鋭い顔立ちと筋肉質な身体が美しい。反抗的に染められた金髪は刺々しい程に明るく、耳の軟骨にはピアスが光る。しかし、身を包む廉価な灰色のスウェットも相俟って、不良児らしいだらしなさと野良犬のような薄汚さが滲んでいた。何より、力の失せた目には疲弊が色濃く浮き出ていた。
 今日は、彼が此処に囚われて丁度5日目となる朝だった。

 5日前までの彼は、地元でそこそこ頭が悪い事で知られた工業高校の2年生として、土木科に通っていた。無断欠席が多い所為か成績は底辺だったが、そこそこに友達は多い、普通の落ち零れだった。
 しかし不幸にも、借金で首が回らなくなった両親に売り飛ばされる等の紆余曲折を経て、性奴隷として生きる事が定められてしまったのである。無論、タケルは散々に抵抗したが、彼の整った顔と精悍な身体に商品価値を見出した大人達がそれを許さなかった。タケルは誘拐と言って良い形で捉えられ、今の拘置生活に至る。

 現在、タケルの身柄を預かっている組織は、所謂奴隷の卸売り業者のようなものだった。
 彼等は、タケルに、奴隷として生きる他にないと諦めさせた後、より質の良い高値で売れる奴隷になれるよう教育を施す機関へと入学させる心算らしい。
 拘留中のタケルの面倒を見ている人間たちは、この檻の中を「適応教室」と呼んでいた。まずは奴隷としての高等な躾を受ける環境へと適応させようという訳である。今まで娑婆で培った、世間一般の真っ当な常識を此処で完全に捨てよというのだ。タケルは、息子を借金の返済に充てた両親の非情さを怨んだ。


 タケルが無気力に転がったまま暫くすると、天井に取り付けられた音響装置からベルが鳴り響いた。これが起床時間の合図であり、タケルが時間を認識する唯一の手段だった。
 タケルにとって此処は寝食のスペースたる宿であり、逃走の叶わぬ牢でもあるが、教室と呼ばれるからには、教育が施される。教員と呼ばれる男達が毎朝決まった時刻に檻の中に訪れ、タケルを指導していくのだ。
「おはよう、よく眠れたか」
この日は、タケルの檻の前に作業着の男性が3人並んだ。

 挨拶をしてきた男は、タケルの担当教員を名乗る男だ。中肉中背の瓶底眼鏡で、少し背の丸まってきた中老。丁度タケルが元いた高校の担任もこの位の歳だった。ただ、残る二人は始めて見る顔だった。二人は三脚やカメラ等の撮影機材を担いでいた。警戒心が先行して挨拶を忘れたタケルに、初対面の男の鋭い平手が打ち下ろされる。
「返事!」
タケルの口の端が切れた。威圧的な怒鳴り声が空気を鋭く振るわせ、上下関係を強調する。この手の体罰は初日にもよく行われていた遣り取りだった。
「……っはい」
タケルは切れた口の端を動かさないよう返事をした。威圧的な男は、3人の中でも特に若く、筋肉で張り詰めた身体をしていた。
「声が小さい!」
「はいっ」
もう一発平手を受け、タケルは内心で軍隊かよと毒づいた。嫌な感情が顔に出たらしく、「態度が生意気だ」と更に一発食らう。タケルの中でこの男の渾名が鬼軍曹になった瞬間だった。タケルは元々不良特有の縦社会に身を置いていた所為か、上下関係の飲み込みは早かった。しかし今日は、その面従腹背な謙りすら許しはしないという圧力があった。

 タケルが一通り叩かれた後、担当教員は新しい単元の授業に入る時のように告知した。
「いつもの訓練に加えて、今日から君の買い手を募集する為の宣材写真と動画を取る。改めて二人に挨拶しなさい。カメラマンの善立泉と、助手の鬼頭だ」
静かな声音だが、覆らぬ決定事項である事が伝わってくる強さがあった。ここではその手続きが当たり前なのだと、その口振りから窺えた。タケルは嫌々ながらも膝を付き、奴隷が行うべき挨拶の姿勢を取った。まず善立泉の靴先に接吻し、同様に鬼頭の靴にも唇を寄せる。
「この子、やっぱりまだ早いんじゃあないですか」
善立泉と呼ばれた男が、担当教員に意見を仰ぐ。如何にも陰気な顔立ちで長い黒髪を鬱陶しそうに耳にかけた男だが、外見に反して声の通りは良い。撮影の予定がある所為か、叩かれたばかりのタケルが頬を腫らしているのも気にしている様子だった。
「勿論、未熟過ぎる。だが、見られる事を意識しなけりゃ改善のしようもないでしょう」
担当教員は、そう言って善立泉にカメラをセッティングさせた。まずは撮られる事にも慣れさせよという方針らしい。

 「じゃあまず、いつも通り。オムツ替えから」
担当教員の指示で、タケルはズボンを下ろす。すらりとした少年と青年の中間の身体には不似合いな、白い紙オムツが尻を覆っていた。尻側には、既に青いラインが浮き出ている。これは、水分に反応すると青く色付く仕組みで、謂わば排泄済みのサインだった。
 ズボンはゴムを通しただけの緩いものだったが、脚を抜くのに手間取った。ここでもたつけば、やはり鬼軍曹の鬼頭が折檻しにかかるだろう。そう思うと羞恥に焦りも上塗りされて、動きが一層ぎこちなくなる。
 何とかズボンを脱いで畳んだタケルは、仰向けになってオムツを替えて貰う赤子と同じポーズをとった。白く柔らかなオムツと健康的に割れた腹筋のミスマッチが生む倒錯を見逃さず、善立泉はその格好を記録した。
「お、おねがいします。寝小便をしてしまったので、オムツを替えてください」
いつもなら、担当教員はここでオムツを替えてくれただろう。だが、タケルは直感的に失敗したと分かった。その証拠に、鬼頭が青筋を立てている。
「おねがいしますっ! 寝小便をして、しまったので!! オムツを替えて、もらえないでしょうかっ!」
鬼頭が怒鳴り始めるのに被せるように、タケルは声を張り上げた。惨めだった。
「及第点だな」
「全然色気が無いですよ」
好き勝手な感想を漏らす二人に、担当教員は「これでも言えるようになった方だ」とフォローを入れた。
 事実、5日間の調教の中で、タケルが最も嫌がり、心を折られたのがオムツだった。オムツを替えて貰う為の姿勢は、腹を見せる犬と潰れた蛙の悪い部分を合わせたような屈辱的なポーズに思える。ガニ股で恥部と排泄物が晒されるのを待っている瞬間など、絶望的だ。
 青年期になって他人に下の世話をされるなど屈辱の極みでしかない。それもオムツなど、物心が付いた時には取れている筈の物ではないか。しかし、飲料水すら餌皿1枚で済まされる檻の中には、トイレや流し場も無く、教員に始末を頼むしかなかった。そして何よりタケルを打ちのめしたのは夜尿だ。
 ストレスで自律神経がおかしくなっているのか、起きると決まってオムツが重く水を吸っているのだ。ストレスの原因には幾らでも思い当たる現状だ。実の息子を売った親、急転した日常、己への無力感。理不尽な性的搾取、連日の調教、折檻の痛み。男性性の毀損。叱責。屈辱。担当教員が言うには、性奴隷になったばかりの者のお漏らしはよくある事であるらしい。自身が性の奴隷である事を受け入れ、その事実と上手に付き合っていけるようになる頃には自然と治るというが、そんな日は一生来ない気もするし、来てほしいとも思えなかった。
「今日も小便だけ、と」
担当教員がオムツを開けば、善立泉がカメラを股間に寄せた。黒々と茂る陰毛とオムツが如何にもミスマッチだ。しっかり皮の剥けた陰茎は同年代の平均よりは上等な形だったが、開放感と気化熱の涼しさでやや縮んでいる所為か元気がない。黄色に染まったオムツの中身と合わせて、項垂れる陰茎が接写される。それを確認した後、担当教員はタケルの尻の下に新しいオムツを敷いた。

 担当教員の指が連日拡張訓練を受けているタケルの菊門を突く。これを合図に、タケルは下腹に力を込めて門を緩めた。すると、担当教員は手馴れた手付きでイチジク浣腸のノズルをアナルに挿した。
「お浣腸、ありがとうございます」
教えられた通りに礼を唱えれば、タケルの直腸にゆっくりと浣腸液が流れ込んでくる。

 カメラを構えていた善立泉が、すかさず浣腸器のノズルが刺さったアナルを接写した。
「肛門周りだけ脱毛が済んでるんですね」
浣腸液を入れ終えると、タケルは再びオムツを履かされた。
「もともと半端にしか生えてなかったからな」
残してても面白みが無い程度だったからヴィジュアル的な面白味よりも衛生面を取ったのだと担当教員が明かす。

 「じゃあ30分我慢して。その間に、フェラの練習」
タケルはまたも体育系の返事をさせられた。30分より早くオムツに青いラインが浮き出たら、折檻を受けなくてはならないのだ。とはいえ、時計の無い部屋では、時間の設定など教員の心次第と同義だった。

 タケルはオムツだけの格好で四つ這いになり、フェラチオの練習をさせられた。
 哺乳瓶の乳首が陰茎の形になったものが、最近のタケルの練習器具だった。シリコンゴムの陰茎を咥え込んで、口全体で瓶の中身が無くなるまで絞るのだ。瓶の中身は、プロテインと豆乳とバナナのシェイクである。この5日間、タケルの朝食替わりだった。これを拒否すると、昼餉も夕餉も没収されてしまうので、タケルはこれを毎朝嫌々咥えていた。

 当面の課題は、異物を喉でしっかり咥えるようになる事と、頬の内側や舌を有効に使って吸い付けるようになる事だった。シェイクが甘いので絵面的な最悪さを乗り越えられれば抵抗は少ないが、これがいずれ本物の陰茎になり、饐えた臭いや青臭い味に変わる事を想像するとげんなりするタケルだった。
「音立てろ、下品に頭を上下させてしゃぶり付くんだよ」
鬼頭の指導が入り、タケルは一層シェイクを深く吸う。売り出される身であるから、男達はタケルに直接ペニスを触らせたりしないらしい。そのままごとじみたルールは親切なようだが、乱れるのがタケル1人である分だけ滑稽さが際立った。
「ずじゅぶっ! ンずじゅっ! ずぢゅっ!」
鼻の下をうんと伸ばし、ヒョットコのような無様な顔になった瞬間を狙って、善立泉がシャッターを切る。
「そうだ。上手い、いいぞ」
担当教員はタケルを褒めて伸ばすが、鬼頭は要求水準が高い。もっとだ、とシリコンのペニスで喉の奥を突く。突然のイラマチオに、タケルの鼻からシェイクが漏れる。
「ンぶぐっ! ぉあグヴッぶ」
鬼頭はタケルが洟提灯を作っていても、喉を突くのを止めなかった。何とか呼吸を確保しようと喉を開くと、模造のペニスが更に侵入してくる。髪を掴まれて頭を激しく揺すられたタケルは、口の端からシェイクの混じった涎を出しながら何度も嘔吐いた。その苦悶の横顔に、何度もフラッシュが焚かれる。
 しかし、喉にばかり気をとられていると、尻の穴が緩んで便意も危うくなってくる。下腹がグルリと鳴って、額にどっと汗が浮いた。
「っブじゅ、げぶブッヴ」
嘔吐きながらも、肛門が酷く熱い気がしたタケルは腰を揺らした。苦しさと痛みで涙が零れる。鬼頭の前での粗相は避けたい。その思いで、括約筋を必死に締め付けた。アナルに集中したいが、喉の奥を犯される嘔吐反射がそれも許さない。撓った背がガクガク揺れて、項を汗がしとどに濡らす。
 必然的に内股になるタケルの格好は、女の子のそれだった。

 鬼頭のイラマチオ訓練が終わったのは、瓶の中のシェイクが無くなって暫くしてからだった。
 シェイクの量からしても精々数十分程度の筈であろうが、タケルにはそれが永遠のようにすら感じていた。やっと真っ当な呼吸が叶う事に安堵に、タケルはつい脱力した。それが失敗だった。
 タケルは菊座が生温く濡れていく感覚に、小さく悲鳴を漏らした。粗相があったことを報せる臀部のラインが、青く浮き上がる。これ以上漏らすまいと下肢の筋肉を目一杯緊張させたタケルだが、堪えようとすればする程に腹が痛んだ。下腹が大腸ごと捩り出されそうな激痛に、眦に波涙が溜まる。一度出てしまったら後は止められる筈も無い。耐えられない便意にタケルは腹を抱えるようにして蹲るが、オムツの後方がどんどん膨らんで質量を増やしていく様子は傍目からも分かった。
「ほら、顔上げて」
善立泉に顎を掬われ、オムツを大便で膨らませながら泣く様子が写真に収められた。金髪にピアスの典型的な不良児の外見をした男が、赤子そのものの格好でファインダーに映る。プライドも何もあったものではない。けれど、改めて惨めな姿を鑑賞され記録に残されると、粉々だった矜持が更に痛めつけられていく感覚があった。
「何だその顔は!」
惨めさに顔を歪めたタケルの頬を、鬼頭の厚い掌が強かに打つ。
「お前が言われた事も出来なかっただけだろう」
鬼頭に叱責され、タケルは痛む頬を押さえながら謝った。鬼頭の舌打ちが、タケルの耳に届く。
 鬼頭は徐にタケルに覆い被さると、下腹を思い切り押した。
「あ゛ぐううっい゛い゛ッ」
仰向けに押し倒されたタケルが呻く。強い圧力を受けて、未だ腸に残っていた僅かな便まで出ていった。その感覚にタケルは脚の爪先を丸めて震えた。残らずオムツの中に捻り出された糞便が、オムツのギャザーに阻まれて行き場を失い、尻の形に沿うように広がっていく。
「出してもらったら何て言うんだ」
高圧的な仁王立ちで、鬼頭はタケルを睥睨していた。人間以下の扱いで、徹底的に奴隷の立場というものを理解させにかかっていた。乱れた息のままタケルは謝礼の言葉を吐き出したが、嫌々言わされている程度の屈服ぶりで許容されるほど此処は甘くないのだ。
「クソ塗れのオムツ替えてるとこ写真に撮ってもらえ。わざわざ撮って貰うんだ、愛想良くしろ」
鬼頭はタケルに作り笑いを強要した。奴隷には己を惨めだと哀れむ事すら許されないのだ。ガニ股で軟便塗れのオムツを開かれ、茶色く汚れた尻を晒しながら、タケルは諂い笑いを浮かべる。
「はい、ピース」
善立泉の暢気な掛け声に、タケルの口角が引き攣る。極めつけのダブルピースで、タケルの尊厳はまたひとつ削られていく。


 鬼頭が使用済みのオムツを片付ける間、タケルは担当教員に尻を洗われた。
 残便が無くなるまで仕上げの浣腸をしてはバケツへ排泄を繰り返し、仕上げに尻朶に付着した排泄物を拭き清められる。

 善立泉の指示で、タケルは仰臥した状態で自ら脚を持って股を広げた写真を撮られた。
「前も剃っちゃえばいいじゃあないですか。その方がオムツも楽ですよ。最近のトレンドですし」
洗われたばかりの菊門と、柔らかい睾丸の上に垂れ下がるペニスがカメラのレンズに映る。やはり善立泉は、タケルのアンダーヘアの処理に納得がいっていないようである。
「この面でパイパンは似合わんだろ」
鬼頭は善立泉に反論する片手間に、タケルの尻にローションを垂らした。粘性のある透明な液体が、菊門の襞を伝っていく。その冷たさに身震いしたタケルは、またも謝礼の言葉を忘れて叩かれた。
「金髪なのに下の毛が黒い方が変でしょう。カメラ映り悪いんですよ」
己の身体だというのに、自身の意向は排除されて男達の嗜好を満たす為に整えられようとしている。その屈辱に、タケルは唇を噛んで俯いた。
「まあその辺は主人が付いてから弄れば良いさ」
担当教員が二人の口論を治める。瓶底眼鏡の奥から覗く老眼が、真っ直ぐタケルを捉えていた。それだけで、この男の躾を受けたタケルの身体が、勝手に肛門をひくつかせた。
「まずは使える身体にするのが先だ」

 担当教員はタケルに道具を渡し、自分で肛門に挿入するように指示した。
 T字のシルエットで挿入部が親指よりやや長いめのそれは、医療用の前立腺マッサージ器だった。元より患者が一人でマッサージできるよう設計されている物であるから、性奴隷の調教を受け持つ彼等にしてみれば可愛いサイズである。けれど、タケルにしてみれば、肛門に物を入れること自体が常識の外の行為である。
 かけてもらったローションを指で掬っては器具に塗り付たタケルは、息を詰めて恐る恐る肛門に器具を入れた。以前から自分で出来るようにと担当教員に躾を受けていたが、3人もの視線とカメラのレンズを前にするのは初めてで、動作がうんとぎこちない。
「ンン……ン」
半分まで押し込むと、一番直径が太い部分を越えた事を感じた。そこも越えると、肛門が緩慢に異物を飲み込んでいく。前立腺に押し当たる器具の緩やかな膨らみが、タケルの呼吸に合わせてゆっくり動いていく。
 その度に、ゾワゾワとした感覚がタケルの背骨を駆ける。排泄欲求と紙一重で、擽ったさにも似た感覚だ。担当教員に快感として定義付けるよう教えられてきたが、曖昧さと焦れったさが強過ぎる。これを快楽として素直に処理するには、未だ経験が浅いのだ。既存の快楽の味とは異なる感触に、身体が萎縮している。
「もっと脚開け。尻穴は力み過ぎないようにゆっくり締めたり緩めたりしろ」
「ン、はい」
鬼頭の指示で、タケルはオムツを替えられる時と同じ姿勢になった。緩慢に括約筋を開閉させていくと、徐々に陰茎が頭をもたげていった。
「そうだ。上出来だ」
タケルは初めて鬼頭から褒められた。それが妙に可笑しくて、肩の力が抜けたのを感じた。前立腺を撫でられ続けていると、尿道から糸を引くようにカウパーが出始める。吐く息も、徐々に甘くなる。
 陰茎が勃起すると、前立腺が硬さを増して存在を主張し、より器具に当たる感覚が鮮明になる。身体が快感を拾いだすと、無意識の内に腰が揺らめく。その動きで器具がゆっくり動いて、前立腺を一層刺激する。意識せずとも、性感を得る手続きが循環していく。際限ない刺激のループの中で、快楽が蓄積されていく。
 タケルの呼吸は、確実に速く浅いものになっていく。睾丸が張り詰め、若い陰茎が腹に付きそうな程に反り返る。しかし、タケルは未だ肛門の性感だけで達する事を覚えていなかった。出口の無い快楽が下腹部に蟠る。
「声を我慢するな。盛り上がる自分で雰囲気を作っていけ」
張り詰めた睾丸に反して射精のイメージが掴めないもどかしさに、タケルは苦しさすら覚え始めていた。実際に感じている快感が、それを処理する回路と上手く繋がらないのだ。陰茎を擦るよりよりも身体の内側に響いて居座る性質の悪い酩酊が、体中を執拗に撫で回す。骨まで甘く痺れて皮膚が粟立つ。未知の快感から気を逸らさんとする防衛本能か、刺激に耐えるように足先に力が入っていた。快楽に身体を御しきれなくなる事を、タケルの無意識が酷く恐れているのだ。いつもなら、ほどほどに前立腺を刺激したところで、苦痛や恐れに変わる前に担当教員が前の勃起を擦ってくれる。見知った快楽と一緒の箱に収めてくれる。けれど今回、鬼頭は未だそれを許さなかった。張り詰めた陰茎が人恋しく反り返り、解放さねぬ熱に煮えたぎる睾丸が痛い程にせり上がっていた。

 鬼頭の声に従って、タケルは恐々としながらも唇を意識的に開く。
「ああっンォ……おあ゛っぁあっ」
支配欲を擽る悩ましい吐息に、甘い声が乗った。その欲情しきった浅ましい声音に、タケルは堪らない官能を感じて慄いた。尻の穴が恥じ入るように深く窄まり、一層器具を深く食む。
 自分の喉から出たとは認めたくない、興奮しきった汚い喘ぎ声。関節が白くなる程きつく丸まめられた爪先が、跳ねるように揺れた。脱力するに従って、快感が更に深くなる。深過ぎるのは、怖い。その未知の昂揚を完全に受け入れた先を、タケルはまだ知らないからだ。
 知るの屈辱だ。そんな所で気持ちよくなるなんて、真っ当な男は知らなくても良い筈だ。タケルが此処に放り込まれた最初の日は、尻に指を入れただけで気持ち悪さで喚いたと言うのに。今では悦がって自ら腰をくねらせている。汚い喘ぎ声なんて、出すほどに惨めになるというのに。けれど腰が芯から痺れて、痙攣した腹筋は横隔膜を勝手に上下させて上擦った声をタケルにあげさせた。こんな声、一人で自慰をしていた頃は出なかった。彼女を相手に腰を振っていた時も、奥歯を食い締めて声を我慢できた。けれど、身体の内側から悪どく長引く快楽を与えられては、身体がどろりと重く、与えられる刺激に酷い感度で反応してしまう。
「ヴンッ、ああ、ひ、ぐっぅっ」
戦慄く手が、硬い床を掻く。とっくに泣いている陰茎が、一切触られない事がもどかしくて仕方が無い。なのにペニスの血管を脈動させる血潮すら気持ちいい気すらして、恐ろしい。この熱が早く終わって欲しいと理性の残骸が囁くが、この高揚感に自分で始末を付けられるイメージ見つけられない。
「そうだチンポは我慢しろ」
射精への欲求が限界に来ている事を察した鬼頭が、厳しい声で釘を刺した。射精欲で溶けたタケルの頭が嫌だと喚いたが、鬼頭の折檻を食らった身体は勝手にはいと返事をしていた。これは違う。そう思って反抗の意思さんとしたタケルだが、厳格な口振りとは打って変わって優しい声音で鬼頭に我慢を褒められて、手の行き場が無くなる。思考力が崩れて体が切羽詰っている時ほど、飴と鞭の教育法は有効なのだ。
 すっかり指導に屈して前立腺の快楽だけに身を任せる姿勢になったタケルを、善立泉が撮影する。真赤に熟れたペニスを放置して拳を握る姿が、フィルムに収まった。
「良い子だ。乳首なら弄ってやる。これも自分でできるようにするんだぞ」
従順さを見せたタケルに、担当教員は褒美を与えるように乳首を愛撫した。
「アひィッ!」
脂肪の少ない胸は、乳首の勃起がよく映えた。その無防備な突起を指先で摘むと、タケルは素っ頓狂に嬌声をあげた。腰に蟠る熱に気を取られている最中の乳頭への刺激は、背骨に電流が走ったような強烈さだった。タケルは喉を反らして、打ち上げられた魚のように腰を跳ねさせた。善立泉がすかさず、その様子を連写する。
「おお、これは才能があるぞ」
反応の良さに、鬼頭の声も芳しい。
「主人がついたら、乳首にも耳と揃いのピアスを付けてもらえよ」
担当教員は、乳頭を縊り出すように摘んでは引っ張ったり押し潰したりと、殊更に可愛がった。快感に腰が跳ねては、前立腺に押し当たる器具を食い締めて、一層の快楽が襲い来る。
「や、やだぁっああんっやああっ」
思わず乳首を庇う手が出るが、それも3人を相手にしていては分が悪い。両腕を鬼頭に取られて、タケルは啜り泣いた。鼻にかかった声は、満更でもなさそうなメスの嬌声にしか聞えなかった。


 適応教室に、タケルの嬌声とシャッターの音が響く。
「来週には通常教室に入れそうですね」
「制服も用意してやらんとなあ」
タケルは快楽を教え込まれる悦びに、明るい金髪を振り乱して噎び泣く。鋭い顔立ちと雄として魅力的な筋肉質な身体が、男に弄ばれる為の素養を獲得していく。美しい奴隷だった。

 数日後、学園の会員制ホームページから、出資者達に向けて新たな奴隷の入荷を知らせる広告が発信された。
 新たな奴隷のリストの中に、タケルの文字もあった。個別の紹介ページには、彼の本名と身長体重の他、体脂肪率等の数字の羅列が続く。
「本名は秋本猛。B型の17歳。至って健康体。陰部は未剃毛。乳首弄りが大好きな子です。元不良児故に気が強いタイプですが、上下関係を覚えさせたら大変御しやすい気質です。大変飲み込みの早い子です。目下、イラマチオを練習中。処女非童貞ですので、優しく可愛がってあげてください」
そして最後の欄には、最近の訓練の様子が数分の映像として貼りつけられていた。そこに映るタケルにはもう、野良犬のような薄汚さは無かった。ペットショップで主人を待つ子犬のように、美しい身体を益々整えられていた。煌く耳軟骨のピアスが、出資者達の欲情を誘う。
 タケルをもっと知りたいという連絡が学園に来たのは、告知から間も無くのことだった。

series top




back
top
[bookmark]



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -