七ノ呪1
やぁやぁ、こんにちは! ボクの名前は…ってそんなことはどうでもいいか。とにかく、ボクはこの話における『先輩』、オカルト研究部の部長で、夕莉たちの先輩です。
なんだか話がどんどん複雑に、謎だらけになってるみたいだねぇ? 岩泉くんなんか、最近ずっと難しそうな顔してて、ちょっと心配になるくらいだよ。まあでも、そんなに頭を悩ませると身体に毒だし、今日は閑話休題ということで緩〜いお話を用意したんだ。そう、今回の語り部はボクってワケ!
…え? 緩〜いお話って何かって? やだなぁ、アハハ。オカルト研究部の部長たるこのボクが語るお話なんて、1つしかないじゃんか。
…そう、どこの学校にも伝わっている、ある意味では伝統的な怪談話。いわゆる『七不思議』のお話だよ。
「というワケで、今日はキミたちバレー部の阿吽コンビに、『青城の七不思議』について教えちゃおうと思いま〜す!」
「なにがというワケでなんですか!? 聞きたくないんですけど!! そもそもそんな七不思議とかあるの知らなかったんですけど!!」
夕莉と阿吽コンビが勢揃いのオカ研の部室で、ボクがそんなことを言い出したら、及川くんに怒られちゃった。おかしいなぁ、ボクの予定だと「わー! 待ってました!」と万雷の拍手が聞こえるはずだったのに。なんちゃって。
「どうせそのうちの2つは、先輩と夕莉ちゃんだったってオチでしょ!? わかってんですよ、先輩のやり口は!」
「あれ、知ってたの? なんだー、最後のオチにしようと思ってたのに」
「やっぱりか!!」
「本当に何なんだ、ウチのオカ研は…」
岩泉くんが頭を抱えちゃった。まあ確かに、七不思議のうち2つは不幸を呼ぶ『お菊さん』と、正体不明の『ナナシ先輩』、つまり夕莉とボクなんだけどね。いやこれ本当の話。
「でも先輩、七不思議というのは私も初耳です。そんなものがあったとは知りませんでした」
「えっ、夕莉ちゃんも知らないの?」
「それは当たり前だよ、教えたことないからね! まあでも、七不思議と言ってもそんな怖い話じゃないんだよ。霊的なモノが関わってるのは1つしかないからね」
「いやむしろ1つあるの!? 何なのそれ知りたくなかった!!」
「うるせえぞクソ川!! 耳元でギャアギャア叫ぶんじゃねえ!!」
怖がって岩泉くんに抱き付いた及川くんを、岩泉くんが脚で蹴飛ばして引き剥がした。うわあ、痛そうだぁ。でも蹴飛ばされてもピンピンしてるあたり、運動部ってさすがだなぁ。
「それじゃあ話してあげよっかな〜。『青城の七不思議』について!」
「ギャーッ!! 先輩待って!! 心の準備が!!」
「先輩が『それほど怖くはない』と言っていますから、大丈夫かと。先輩は嘘をつく人じゃありませんので」
「フォローありがとう夕莉ちゃん! 俺の精神的な問題だから気にしなくていいよ!」
「ビビんのかカッコつけんのかどっちかにしろ、チキン川」
相変わらず愉快な後輩たちだなぁ。さてさて、みんな席についたところで、ボクはカーテンを閉めて電気を消した。及川くんが目に見えて怖がり始めたけど、こういうのは雰囲気重視だからね。それじゃあ、語るとしますか。みんな大好き『七不思議』のお話を!
『青城の七不思議』
1.第二体育館の教官室の止まった壁時計
バスケ部が練習している第二体育館の教官室には、何故か17時29分を指したまま動くことのない、故障した壁掛け時計がある。
今から十五年前、監督の行き過ぎた指導に耐えかねた1人の生徒が、金属バットで監督を殴り殺したという事件があった。
この時計は監督がその生徒に殺された、その瞬間の時刻を指しているらしい。
2.不老不死の金魚『テトラ』
現校長が就任した時、校長と一緒に青城へやってきた金魚の『テトラ』。
金魚の平均寿命は3〜4年とされているが、テトラは校長が就任した当時、つまり30年前から生きているのだ。
テトラは今も校長室の水槽で、悠々自適に泳いでいる。もしかしたら、いつかこの青城が廃校になる時も、テトラは生きているのかも。
3.正体不明の『ナナシ先輩』
オカルト研究部の部長の名前を知っている者は誰もいない。
生徒はおろか、教師でさえ、その人物が何という名前で、どこのクラスの生徒なのか、そもそも女子なのか男子なのか、知っている者は1人もいないのだ。
あまりにも謎の存在であるが故に、実は幽霊なのではないかという噂さえある。
4.不幸を呼ぶ『お菊さん』
お菊人形のような黒い長髪、夏でも一切の肌を見せないその異様な風貌、闇の深淵のような真っ黒な瞳。
もしも、そのような女子生徒を運悪くも見てしまったら、あなたには不幸が訪れるだろう。
しかし、禍を転じて福と為すという言葉もある。もしもあなたが誰かに呪われたのなら、『お菊さん』に助けを求めると、相手を呪い返して助けてくれるかもしれない。
5.屋内プールの第4レーンの呪い
主に水泳部が練習で使っているため、一般生徒が使うことはまず無いとされる屋内プールにも、ある呪いの話が伝わっている。
水泳部の部員ではない生徒が屋内プールの第4レーンで泳ぐと、必ず溺れるというのだ。
第4レーンは代々、水泳部のエース専用の練習場所とされており、代々のエースたちの情念とプライドが、水泳部以外の生徒を拒むからだとされている。
6.美術室の絵画『血の林檎』
数年前の県内絵画コンクールで最優秀賞を得た絵画『不和の林檎』。
ギリシャ神話の『不和の林檎』のエピソードを基に、1つの赤い林檎を落とす女の姿が描かれた絵画である。
この林檎の絶妙な赤い色は、描き手が手首を切って流した血を、絵の具に混ぜて作られたとされており、この絵に魅入られた生徒はたちまち自傷行為に走るという。
この絵を描いた当時の美術部部員は、卒業後に再び手首を切り、既にこの世にはいない。
7.第一体育館の女子トイレの一番奥の個室
その昔、この個室で1人の女子生徒の遺体が見つかった。
女子生徒はいじめに遭っており、彼女をいじめる生徒たちに追いかけられ、この個室に逃げ込んだ。
いじめっ子がトイレから出て行っても、恐ろしさのあまり彼女は個室から出ることができず、やがて餓死するまで外へ出ることはなかった。
この個室の扉を開けようとしてはならない。もしも開けようものなら、いじめっ子が来たと勘違いした女子生徒の幽霊に、呪い殺されるやもしれない。
「…とまあ、これが『青城の七不思議』! ほらね、あんまり怖くなかったでしょ?」
「どの口が言うかーっ!! 怖くなかったの、金魚と先輩と夕莉ちゃんの話ぐらいでしょうが!!」
ボクが語り終わると、何故か夕莉に抱き付いている及川くんから、非難の声を上げられた。あれれ、そんなに怖かったかな? まあ確かに、やけに人が死んだり呪われてたり、まあまあ血なまぐさい七不思議ではあるけど。
「落ち着いてください、及川さん。金魚の話は不思議というほどではありません。金魚の平均寿命が短いのは、水温の変化など飼育環境の問題で早死にする個体が多いというのが関係していて、長く生きた金魚では43年生きたという個体もいます。校長先生はとても手厚く金魚を飼育しているのでしょう」
「そこなの!? まず最初にツッコむところそこなの、夕莉ちゃん!?」
「っつーかよく知ってんなそんなこと…」
あはは、夕莉は相変わらず天然だなぁ。まあ正直な話、テトラの七不思議は夕莉の言う通りで、校長先生がすごく丁寧に金魚の世話をしてるから、長生きしているだけってのが真相なんだよね。でも金魚ってやっぱり早死にさせちゃう人が多いのか、騙される人は本当に騙されるんだよねぇ、この話。
「あと、温水プールの話も嘘だな」
「え? 岩ちゃん、なんでそう思うのさ?」
「俺があそこのレーンで泳いだことあるからな。あのプール、普通のプールに比べると、中央の部分が特に深くなってるんだよ。だから溺れる奴らが多いんじゃねえの?」
「なるほど、泳ぎに慣れた水泳部の人ならともかく、そうでない人はプールの深さに馴染めず、溺れるというわけですね」
あらあら、思ってたよりも早く謎が解かれちゃった。その通り、第4レーンの呪いっていうのは誰かが言い始めた嘘っぱちで、実際は第4レーンの部分だけ底が深くて溺れやすい、っていうのが真相なんだよね。でも実際、あそこで溺れた人は多くて、3年前なんか勝手にプールに忍び込んだ不良生徒くんが溺れちゃって、危うく死にかけたこともあるんだよ。…なんでそんなこと知ってるのかってことは、まあ置いといて。
「…で、先輩。結局『霊的なモノが関わってる』七不思議ってどれなんですか!?」
「およよ? わかんない?」
「今ので七不思議が4つ潰れましたけど、残りの3つはどれもこれもオバケ的なアレが関係してそうな話じゃないですか! 人が死んでるし、殺されてるし、死んでるし!」
「『死んでるし』って2回言ってるよ、及川くん。まあまあ、それはホラ、自分で真相を解き明かしてみせてよ〜! そういうのが楽しいんじゃない、七不思議って!」
「はぁぁぁぁぁ!?」
及川くんが「嘘だろアンタ」みたいな眼でボクを見てくる。言わずもがな、岩泉くんも「何考えてんだコイツ」みたいな眼で見てくる。夕莉は…さすがに何考えてるのかはボクにもわからないや。
「もしも謎を解き明かしてくれたのなら、ご褒美あげるからさ! ね、ね、頑張ってよ〜」
「ご褒美って…飴玉1つレベルの話だったら俺めっちゃキレますよ!?」
「も〜そんなケチくさいこと言わないってば!」
「めっちゃ胡散臭え…」
岩泉くんに呆れたような眼で見られちゃった。うーん、ボクってそんなに胡散臭いかなぁ? 自分ではちょっとミステリアスな、でも親しみやすくて面白い先輩ポジションを目指してるんだけど。後輩との関係って難しいなぁ。
「七不思議の真相を解き明かせばいいのでしょうか」
「え!? 夕莉ちゃんやる気なの!?」
「先輩から指示されたということは、オカルト研究部の研究活動ということですから。私も部員ですので、何かしら活動をして部に貢献しないと」
「えぇ〜っ、夕莉ちゃんがやるなら俺もやる! 夕莉ちゃんに何かあったら、回り回って俺に何かあった時に助けてもらえないし!」
「お前マジでどうしようもねえクソだな」
「なにさ、岩ちゃんはやらないワケ? 怖いワケ? オバケなんて非科学的なモノが? ぷぷぷっ」
「あ゛ぁ!? テメーと一緒にすんじゃねえぞチビリ川! 上等じゃねえか、やってやらぁ!」
「待って、ビビリ川ならともかくチビリ川ってなに!? チビってないからね!? いくら怖がってもチビったことはないからね!?」
さっすが夕莉、ボクの一番の後輩! これで阿吽コンビが乗り気になってきた。青城で一番の人気を誇る及川くんと、隠れたファンの多い岩泉くんが七不思議に夢中となれば、この七不思議が学校内にぐっと広がって、オカ研に興味を持つ子も増えるかもしれないからね〜。そうすれば部員も増えて、廃部の危機のオカ研も安泰というワケなんだな!
「それじゃ張り切って、『青城の七不思議』解体の旅へ、レッツゴー!」
「なんでそんな乗り気なんスか、アンタ…」
またもや岩泉くんに呆れ顔で見られちゃった。うーん、あんまそういうの気にしないとはいえボク、これでも先輩なんだけどなぁ。及川くんも岩泉くんも、もう少し敬ってくれたっていいと思うけどなぁ? …アンタ何年生なんだってのはまあ、置いといて、ね。
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