ぱちぱちれんさい | ナノ
 (脳)筋デレラ その1



むかしむかしあるところに、巴というそれは美しい娘がいました。
ところがこの巴は、とんでもない体育会系思考の脳筋でした。


「巴ーっ!!!」


「げっ、こはく! どしたのさ、そんな大声出して」


「こはく言うな、お母様と呼べ! あんたはまた掃除もせずバレーばっかりやって! 寝てもバレー起きてもバレー、いい加減にしろっつーの!」


「「こはくママうっせー」」


性別上は女であることを忘れつつある巴を心配した継母のこはくは、巴に女性としての自覚を持たせようと掃除や料理などの家事をやらせていましたが、当の巴は面倒な家事をサボって大好きなバレーボールにすっかり夢中。
意地悪ではありませんが人をおちょくるのが大好きな2人の姉、沙羅と杏樹の双子姉妹はそんな巴とこはくのトムとジェリーごっこを楽しんでおりました。


「このままじゃ嫁の貰い手も見つからないまま、一生うちでバレーしてる羽目になるよ! 婆さんになっても1人楽しくボールを追っかけ回す未来なんか寒気がするでしょ!」


「うーん、確かに1人でバレーすんのも飽きたな。やっぱりスパイク打ちたいし、トス上げてくれる人は必要だな」


「もうやだ、この子はどうしてこんなにバレー脳なの? このままじゃ舞踏会なんてまた夢のまた夢だよ…」


「「舞踏会?」」


こはくは巴と双子に、王子様の花嫁選びの舞踏会が開かれることになり、その招待状が巴の家にも届いたことを話しました。
ただし普通の娘が眼を輝かせて喜ぶようなビッグニュースも、巴にとってはどうでもいい与太話でしかありません。


「ふーん。行ってらっしゃい、あたし留守番してるわ」


「はぁ!? 何言ってんのあんた、王子様だよ!? もしかしたらあんたが花嫁に選ばれるかもしれないんだよ!?」


「興味ないしどうでもいいわ。王子様よりセッターだよセッター!」


「もったいねー、お城の舞踏会なんて美味いごはん食い放題なのに」


「そうそう、この際だから高い牛肉とか食い漁っときゃいいのに」


「あんたらも巴のこと言えんわ! なんでうちの娘はこんな残念思考の奴らばっかりなんだ…せっかくドレスも用意したのに…」


頭を抱えるこはくを尻目に、巴は沙羅と杏樹とパスを始めました。









そしてとうとう舞踏会の日がやってきました。


「巴ー。このネックレス私のじゃない、これ杏樹の」


「どっちがどっち付けてても同じようなもんじゃん」


「っていうか、ほんとに行かないの? きつねうどんはないかもしんないけど、ステーキとか寿司とかいっぱいあるよ?」


沙羅と杏樹がドレスに着替える中、巴はいつものボロの練習着姿のまま。
こはくが用意したドレスなど見向きもせず、舞踏会にも全く興味のない巴はお留守番です。


「うん、めんどくせーし」


「はぁ…。せっかく巴に似合うドレス見つけてきたのに。せめて一回くらい着てくれたっていいじゃんよ」


「やだ、動きにくそうだし。っていうかドレスより練習着買ってよ」


「だからいい加減にバレーも程々にしろっつーの! 練習着なんか買ったら巴のことだから、朝から晩まで練習するでしょ!」


「こはくー。タッパーどこだっけ、タッパー」


「さすがに可哀想だから、お土産になんか美味そうなもの持って帰ってきてあげるよ」


「舞踏会にタッパーなんか持ってくな!」


「いってらっしゃーい」


こうしてこはく、沙羅、杏樹の3人は舞踏会へ出発しました。


「よっしゃ、練習練習!」


「待て待てこの筋デレラ。そうは問屋が卸さないっつーの」


巴は鬼の居ぬ間、こはくの居ぬ間に存分にバレーボールをしすることにしましたが、なんとか元ネタ通りのストーリーにしなければと、魔法使い天童が現れました。


「あのね、これ一応シンデレラネタなの。だからちゃんと舞踏会行ってもらわなきゃ困るんだよね〜」


「なんだよ、行くか行かないかはあたしの勝手じゃん! そもそもあたしがシンデレラ役って時点で無理があるっつーの!」


そういう身も蓋もないこと言わないでくれる? ま、巴のドレス姿とか目の毒だしそこはアレンジを効かせて…ビビディバビディブ〜」


天童が呪文を唱えると、巴が着ていたボロの練習着が、あっという間に魔法でユニフォームに変わりました。
機能性抜群の白鳥沢ユニフォームに、巴は大喜びです。


「おぉ! すごいすごい、やるじゃん天童! でも余計な一言がムカついたから殴らせろ」ボカッ


「いっだ!」


「でも舞踏会とかめんどくせーし、王子様とかどうでもいいし、やっぱり行かないかんね」


「ふ〜ん、王子様が凄腕セッターだったとしても?」


「えっ!? マジで!?」


天童の言葉に巴は驚きました。王子様がセッターと聞いては、バレー専門サイヤ人の巴は黙ってはいられません。
巴はさっそく舞踏会が開かれているお城まで走って向かうことにしました。


「ちょっとちょっと、12時になったら魔法解けちゃうから戻ってきてよ! っていうか走ってくのかよ、馬車とか乗ってかないのかよ」







続く!




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