「マジバ、混んでるし…」
「そりゃあ今はお昼時だからね」
「どうしますか?」
ううん、と唸った結果、どうも空きそうにないので仕方なく私たちはとぼとぼとマジバを後にする。
マジバ以外のファーストフード店のほとんどが学生の財布には優しくない値段なので、どこへ行くでもなく私たちは駅に向かってふらふらしていた。
照りつける太陽にじわじわと汗がにじみ、歩いているのがしんどくなってきた。
どうやらそれは黒子くんも同じのようで、ワイシャツをはためかせて顔をしかめている。
その奥にいるアメリカ帰りの野生児も、今ばかりは日本の暑さにやられているようだ。
口数が少なくなってきて、段々暑さがいらいらに変わってきたころ、商店街の真ん中の方で小さな子供たちがわらわらと一ヶ所に集まっているのが見えてきた。
暑そう。
そんなことを考えながら横目にその光景を見ていると、輪から出てきた何人かが白く光る何かを持っているのが見えた。
わ。
思わず横にいた黒子くんの腕を掴んで引っ張ってしまう。
「かき氷だよ、かき氷」
「ああ、だからこんなに」
いちご、レモン、ブルーハワイ。
色とりどりのシロップが目にちかちかと眩しい。
商店街にある、いつもは近寄りがたい高そうな和菓子屋さんが企画したイベントらしく、がりがりと氷を削っている機械は今に珍しい手動のものだった。
機械に取り付けられている大きな氷は見ているだけでひんやりと涼しくなってくる。
「うまそう…」
「食べたい…」
「じゃあ並びますか」
小さな子供ばかりのその列のなかに私たちも混ざる。
私と黒子くんはとりあえず、火神くんは目立っているようで、小さな男の子につつかれたり引っ張られたりしてはわーわー怒っていた。
微笑ましい。
少し口元を緩ませていると、黒子くんは目線だけをこちらへ向けて、飽きませんね、と一言。
火神くんに向けたか私に向けたのか定かではないが、そうだね、とだけ相づちを打っておいた。
「火神くん、順番ですよ。なに味にするんですか?」
「わぁってるよ!コラ!離せ」
小さな男の子何人かに絡まれている火神くんは少し離れた場所でまだ到底来れそうにないので、先に私と黒子くんはメニュー表を見て悩んでいた。
「私はレモンにしようかな。黒子くんは何にする?」
「僕は宇治抹茶で」
「火神くん、火神くんはどうする?」
「オマエらマジで離れろ!あー、オレはあれだ、アレ!イチゴ!」
「イチゴとかたのんでるぞこいつ!」
「おんなみてー!」
うっせぇ、と吠えた火神くんを見て、男の子たちは楽しそうにけらけらと笑う。
一方で、私たちの目の前では大きな氷の塊が機械で削られていて、どことなく漂うひんやりとした冷気が心地よかった。
お金を渡すと、品の良さそうな和服のお婆さんがまるで信号機のようなそれを三つ渡してくれた。
小さな子をぶら下げた火神くんの元にそれを持っていくと、男の子たちはわあわあ騒ぎ始める。
「冷たい、おいしい」
「たまにはいいですね、こういうのも」
「うまいけどオマエら暑苦しい!」
「うっせー!おんなみたいなのたべやがってー」
「おれブルーハワイくったもんね!」
「おれぶどう!」
しんねーよ、とようやく男の子たちを振り切った火神くんも少し息をついてから赤いそれを食べ始めた。
赤、緑、黄色。
色とりどりのそれらが、きらきらと太陽に反射している。
ようやく男の子たちから解放された火神くんと並んでしゃくしゃくとかき氷を食べていると、向かいで宇治抹茶をさくさくと混ぜていた黒子くんが私たちをじ、と見てきた。
「…ぶどうにブルーハワイですか」
「どうしたの?」
「食いたいのか?」
私と火神くんが一緒に首をかしげると、黒子くんは小さく笑って、いいえ、と首を横に振った。
「少し、昔を思い出しただけですよ」
2012.0812