今日は学校の電気の一斉点検があるというので、久しぶりにどの部活も委員会も休みになった。

私はもともと部活には入っていないし、委員会も水曜日だけだからあまり関係ないけど。

いつもと同じように帰ろうと昇降口から外へ出ると、たくさんの生徒に混じっているいやに目立つ大きな赤い頭を見つけて、ほんのいたずら心から思わず背中を思いきりはたいてしまった。



「いっ、てぇ!」

「ああ、名字さん」


「あ、黒子くん」


「盛大な挨拶くれといてオレのことは無視かコノヤロウ」

「わ、暴力反対」


すすす、と黒子くんの後ろに隠れてじりじりと攻防戦を張っていると、火神くんはそんなのお構いなしに黒子くんを飛び越えてその手を伸ばしてくる。

わしわし、と頭をぐしゃぐしゃに掴まれて、ぶんぶんと振り回される。
いたいいたい。
間に挟まれている黒子くんは非常に迷惑だと言ったような声音でやめなさい、と火神くんのお腹に手刀を入れる。


「、ぐ、…」


「ただでさえ暑いんですから、余計に暑くさせるようなことしないでください。とっとと帰りますよ。あ、名字さんも一緒にどうですか?」


「え、いいの?」

「火神くんが何か奢ってくれるそうですよ」


腹を押さえている火神くんを尻目に、さらりと言い放った黒子くん。
便乗するようにヤッター、とにやにやしながら火神くんを見てみると、誰が奢るか、とチョップをくらいそうになったが、あまりに痛そうだったのでなんとか避けきった。


その後、暑い暑いと主に私と火神くんがごねながら駅の方に向かって歩いていると、商店街に差し掛かり、涼しげなコンビニやらファーストフード店が次々に私たちを誘惑してくる。



「…それにしても暑いですね。これはシェイクでも飲みたい気分ですよ、火神くん」

「わ、私抹茶フラペチーノ!」


「何言ってんだよオマエらは」


黒子くんがぽそりとケチ、と呟いたのでまたも便乗してみると、またも何故か私だけがみがみ怒られた。


贔屓だ贔屓。
ぶつぶつ言ってくる火神くんから逃れるようにして黒子くんを間に挟んでこれでもかと言うほどに誘惑してくる商店街を抜け出そうと足早に歩いていると、リン、と涼しげな音が耳を掠める。

ん、と少し立ち止まって耳を澄ませてみると、どうやらそれは商店街の路地の奥からしているようだった。
吸い込まれるように路地裏に入ると、後からあわてて着いてきた火神くんにうろちょろすんな、と少し怒られる。





「…わあ」

「これは」


路地裏を少し進むと、そこには見慣れない骨董品屋さんがあって、店頭にさまざまなアンティーク調の家具や古きよき日本の昔ながらの家具に混じり、数えきれないくらいにたくさんの風鈴がかけられていた。

思わずわあ、と簡単の声をあげると、奥から白髪のおじいさんが出てきて、いらっしゃい、とうちわで仰ぎながら声をかけてくる。


「す、すごいですねこの数」

「趣味で集めたものなんだけどね、最近はあまり売れないんだよ」


「…趣味でこんなに」

「そう。もし欲しかったら呼んどくれ。外は暑くてかなわんからね」


それだけ言うとおじいさんはうちわで仰ぎながらすぐさま奥に引っ込んでしまった。

はあ、ともう一度簡単の声をあげて、りんりんと鳴り響くそれらを見上げる。
黒子くんもそのあまりの数の多さに驚いているようで、しばらく無言でそれらを見上げていた。

そんな中でも火神くんはうるさいと唸っているようだった。
赴きのわからないやつめ。


「…綺麗だね」

「そうですね。これだけあると、一つほしくなってしまいます、ねぇ火神くん」


「またオレか!うるさいだけじゃねぇか、こんなの」

「風流のわからん奴め」


ピシャリ、と言いはなってやれば、火神くんは青筋をたててひくひくと眉を動かす。

まあ無視でいこう。
それにしても、本当にほしくなっちゃうな。
千円くらいなら一つ買っちゃおうかな。


軽い気持ちで、風でめくれ上がった値札を見てみると、そこにはペンで五千円、とだけ乱暴に書かれていた。



「う、五千円」

「高校生には痛手な出費ですね」

「五千円あったらバーガー何個買えんだよ」


そこら辺の高校生が安易に手を出せないような値段のそれを三人でぼんやり見上げながらその凛とした音を聴いていた。

まるで時でも止まったかのような感覚に、ゆっくりと目を閉じようとすると、何故か火神くんにバチン、と額を一度弾かれる。


「?、痛いんだけど、」

「暑さにやられたかと思ったんだよ」


「、な、風流を味わってたんだよ」


む、と抗議すると火神くんはへーへーといい加減な返事をする。

隣にいる黒子くんはぱたぱたとワイシャツをあおいではためかせながらこちらを見ていた。



「でも、本当にこの暑さは洒落になりませんね」

「確かにな。マジバでも行くか?」



「火神くん、僕はバニラシェイクで」

「じゃあ私はヨーグルトシェイク!夏限定!」


「誰が買うか!」


少し騒ぎながら、おびただしい数の風鈴の音を背に、路地裏を抜け出して私たち三人は商店街へ向かった。


2012.0806
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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