うまくいかなくたっていいよね









き、気まずすぎた。
蕎麦を作りながら思う。

恐らく向こうはかなり人馴れしてる。
きっと仕事上自然とそうなるのだろうけど。
あのお兄さん、基黄瀬さん。

きっと人に見られることも、話し掛けることも、そこまで気には止めていないのだろう。
だとしたら、私は正反対の、根っからの人見知りである。
見られることも、話し掛けることも、私がどれだけ心拍数を上げたことか。

と言うか、これから一月も同じ空間にいると言うのに、こんなことではそれこそ先が思いやられる。
きっと面倒で愛想のないつまらない奴だと思われてしまう。
どうしよう。
緑間が、緑間が恋しい。
緑間なら一緒にいて楽なのに。
なんて息苦しい。

どうしても引っ越し蕎麦が食べたくて、前日に母に用意してもらった蕎麦を盛り付けながら緑間のことを考えた。
…いやでも彼と同じ空間で生活をするのは少し精神的に堪えそうだ。
なら高尾もつけて、

我ながらなんて下らない現実逃避。
蕎麦をテーブルに運ぶと、テレビを見ていた黄瀬さんが立ち上がって綺麗に笑いながらどうも、と言ってきた。
これがモデル力か。
いえ、と言うなんとも素っ気ない返事をして席についたところで気付く。


向かい合って蕎麦食べるのか。
き、気まずいにも程があるだろう。
なにか、なにか話題を。
でも絶対話題とか合わなそうだ。
しかも私、モデルとか言われても、分からないし。
それを言ったら失礼だし。

は、そうだ。
これからの参考までに年だけでも聞いておこう。
煙草とか吸うのか吸わないのか。

よし、と意を決して口を開く。


「「、あの」」


あ。
思わぬ出来事に、瞬きを何度かしてから、黄瀬さんを見ると、向こうも少し驚いたような顔をしていた。


「あ、そ、そちらからどうぞ」

「いや、いっスよ、そっちからで」


「いえいえ、どうぞ」

「いやいや、」



「「じゃあ、」」


思わず顔を合わせてしまった。
私は口を開けたまま阿呆面を晒し、黄瀬さんの方も口を開けて少し間の抜けたような顔をしていた。

あ。
これは耐えきれない。
吹き出しそうになったのを何とか堪え、咄嗟に口元を押さえて顔を背ける。
腹の底からふつふつと溢れる笑いを必死に押さえようとくつくつ笑いを堪えていると戸惑ったようなあの、という声が耳を弾き、びくり、と肩が跳ねた。
口元を押さえながらゆっくりと振り向く。
目尻には少し涙が滲んでいた。


「す、すみません、あんまり、タイミングが良いもので、耐えきれなくて」

「ハハ、確かにぴったりだったっスね」


笑いは一向に止まらず、未だ肩を震わせていると、今度は黄瀬さんの方まで笑いだす。
その姿を見て、は、と我に帰り、ふぅ、と小さく息をついた。


「それで、お話のことですが、」

「あ、そうだった」


思いきり忘れてしまうところだった。
じゃあ、私から話して、いいのかな?

言葉を切り出そうと、すう、と小さく息を吸い込んでみた。



「「あの、」」


結局、初対面の人を目の前にして吹き出すという全くもって無礼な行為を私は思いきり仕出かしてしまったのであった。


2012.0716
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