早く今日を笑う日になれ










「も、もしもし、琴川さん?」

『ハイハイ。あ、涼太くん。どうよ、私のチョイス。急にしては中々っしょ』


「…あ、ハイ」

『でしょ!もう外も中も超私好み!そんなとこ住んでるイケメンとか間違いなく惚れる!』


「琴川さん彼氏いるじゃないスか、…じゃなくて!」


今日あったことを事細かに琴川さんに話せば、琴川さんはえー、と心底不服そうに唸ってから他のスタッフさんにその不動産屋に連絡をつけさせているようだった。

電話口の向こうでえっちゃんと呼ばれているスタイリストさんが琴川さんを呼んで、何やら伝えているようだが、えー、とますます機嫌を損ねている様子からいい結果は望めないらしい。


『…やられた』

「え」


『ごめん涼太くん、完全にトンズラこかれた』

「ええ、」



『振り込んだ金も全部おじゃん』


えー。
琴川さんは本当に悔しそうな声を出してくそう、と電話口で唸る。

どうすんだろう。
今から他のところ探すわけにもいかないだろうし、まあ、一月くらいなら事務所とかその辺のホテルとかで十分だろうし。
そこまで気にすることでも。
そんな旨を琴川さんに伝えてみれば、琴川さんは駄目よ、と即答した。


『そんな費用もう無いし、おじゃんにしたなんて上に言えるわけも無いし、涼太くんには意地でもそこに住んでもらう』

「意地って、もう新しい人入ってるんスよ、しかも女の子」


『…どんな子』


どんな子って、ちらりとその子を見てみれば、まあ、どこにでもいるような普通の女の子だ。
特に目立ちそうな訳でも、突出して地味そうな訳でも無いし。
年下、という訳ではないだろう。
きっと高校生だろうから、同い年か、少し上か。

オレのこと見て特に騒がなかったから、気付いていないのか、興味がないのか、


そこまで言ったところで琴川さんはそこよ、と大きな声を出した。
キン、と高い声が耳を突く。


『満点!文句の付け所がないくらい満点だよその子!』

「えー、普通の子っスよ」


『十分十分、申し分無し。涼太くん、一月くらいなら我慢できるよね』

「我慢?」





『ルームシェアしてみない?その子と』


は?
家賃はこっちが持つって条件でさぁ、それにイケメン付きとか何それ最高の立地条件、即決!

いや、まてまてまて。
それこそそんなばかな。
漫画じゃあるまい。
曲がりなりにも年頃の男女。
何を頓狂なことを言っているんだこの人は。


『私の肩持つってことでさぁ、あ、それと涼太くんのやりたがってたブランドに話つけといてあげる!』

「…う、それを持ち出すのは反則っスよ、つか、そもそも向こうが了解してくれるわけないじゃないスか」


『え、私なら即決だけど?』

「それは琴川さんでしょ!」


『ま、聞くだけ聞いてみてよ』


ばかな。
ばいなー、とふざけた挨拶で電話を強制的に終わらせた琴川さんに少なからず腹が立ったものの、まあ、あの人は会った当初からこうだった、となんとか落ち着き、大家さんと話し込んでいる女の子の方を見る。

手招きしてみれば、私?とでも言うかのように首を傾げられたので、何度か頷いて見せると、女の子は一瞬怪訝そうな顔をしてからこちらに寄ってきた。

い、一緒に住んでくれませんか、って、初対面の女の子に、どんだけ変人だよ、それ。
けど、ああなった琴川さん止めらんないし、琴川さんの面子もあるし、正直ブランドの話も惹かれたし。


ダメ元だ、ダメ元。
ふう、と息を吐いてその子の肩を掴み、思いきって口を開いた。






「ルームシェア、しませんか?」


2012.0704
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