あたたかな毒鰭









どうしてこうなった。
何故か中学の同級生と、そのチームメイトが家、というか仮住まいにどういう訳か泊まることになってしまった。
同居人ともなんとなく慣れ始めてきた頃に、これか。

そもそも、なぜ緑間っち。
これが黒子っちと火神っちならまだしも、なぜそのチョイス。
なんだかなあ。


名字さんが鍋にしよう、と呟き、それを直ぐ様拾った高尾クンがキムチ鍋、と言い出し、今のこのスーパーでの夕飯の買い出しに至る。
まさかあのときの約束がこんな形で実現されるとは。

どことなく、そわそわしてにやけながら楽しそうにしている名字さんの手前、下手な態度も取れずに、外面用の愛想笑いを浮かべることしかできなかった。


「黄瀬くんは、キムチとか平気?」

「うん。平気」


「そっか、良かった。…ご、ごめんなさい、勝手に取り付けちゃって」

「いえいえ、いいっスよ。名字さん珍しく譲らなかったし」


笑いながら言うと、少し恥ずかしそうにした名字さんは小さく、はじめてなの、と溢してから、緑間のところ行ってくる、とかごを持って走っていってしまう。

あ、と声をかけるよりも先に名字さんは野菜コーナーで一人キャベツと睨み合いをしている緑間っちに駆け寄っていってしまった。
はじめて、ってどういうことだろうか。


、て、ことは。
隣には、先程シバく宣言をしてきた話したこともない奴しかいない訳だ。
正直、こういう自分と似たようなタイプの奴は食えないので、少し苦手だ。
しかし外面の準備は万端だ、かかってくるならかかってこい。



「いやー、びっくりした、あの名字が男と、しかもモデルさんと同居とか」

「いやいや、同居じゃないっスよ。それにこっちが無理言ったようなもんだし」


「そうだよな、じゃなきゃ名字も断るだろうしなー」

「はは、そりゃ最初は断られたっスよ」


なんだ。
遠回しな嫌味か。
出方を伺いつつ、向こうに合わせるようにして話していると、名字はね、と彼の声があからさまにワントーン下がったような気がした。



「あれでいてほんとはすっげぇ友達作りとか下手くそで、人と話すのも苦手なんだって」


まあ、分からなくもない。
自分から話し掛けたり、騒いだりするようなタイプではないよな、あの人。
静かで大人しくて、しかしある程度の普通のコミュニケーションが図れるのでなんとも思っていなかったが。

それで、それが、と言うような視線で彼を見ていれば、向こうもこちらを見て、いやー、別に、と。
仕事柄どうしてもわかってしまうけど、この作り笑いはいったい何なのだろうか。



「真ちゃんもさあそういうところあるじゃん?」

「まあ、そうっスね、きっと」


黄瀬くんの方が付き合いも長いし、知ったようなことは言えないけど。

どうだろうか。
恐らく、名字さんしかり緑間っちしかり、多分オレよりもそっちの方が断然詳しいと思うんだが。
緑間っちに関しては向こうもああいう態度で接してきた訳だし、勝手に苦手意識すら持っていたし。

ところで。
本題をはっきり言えばいい。
何をこんなに回りくどく。


「真ちゃんの昔のことはあんまり知らないし、話してもくれないけど、あの性格上、今まであんなに近くにいた女の子っていないと思うんだよね」


まー、桃っちとか他のマネージャーとか、話してはいたけど、別に仲良しって訳じゃないし、性格も性格だし。
過去のことを思い出してから、なんとなく向こうの言わんとしていることが段々分かってきた。


要するにあれだ、牽制されている訳だ。

別にあの子を女の子として意識していない訳じゃないし、普通にいい子だとは思う。
しかし、今のところ恋愛感情的なものはこれっぽっちもわいていないわけだ。
もやりと、少し頭の中が陰る。


「ああ、そういうことっスか。別に取ったりとかしないから安心してください」


ここ最近で一番嫌味を込めて笑ってやる。


「ほんと?分かってくれて助かるわ」


にっこり。
むかつくくらい分かりやすい笑い方だ。
これだからこういうタイプは。
人のこと言えないけどさあ。

お鍋に何いれたい、と駆け寄ってきた名字さんに二人して笑ってから着いていく。
その際にちらりと高尾クンと目が合った。
済ましたような、その表情。


んんん。
なんかちょっとむかつくかもしれない。
今まで見たこともないくらいに楽しそうにしている名字さんに、小さくため息をついた。


2012.1107
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