「トトトトウコ!無理!俺には絶対に無理!」

外では燦々と太陽が輝く休日、神様は俺に試練を与えたらしい。何とも言えない嫌な笑顔を携えメイド服を片手に近寄るトウコは、自室の隅に縮こまる羊のような俺にはまるで食に餓えた狼のように見えた。

揺れる黒と白のフリルとレースがふんだんにあしらわれた本当に可愛らしいメイド服。胸元の無駄に大きいリボンは熟れた林檎のように赤い、光沢のある素材で出来ている。

「可愛いでしょ?コレ!」

ずいっとメイド服を見せ付けながら自信満々に胸を張るトウコ。嫌な予感しかしなくてぶんぶんと首を振りながら拒否する俺に"着ろって!勿論拒否権なんてあるわけないでしょ"と軽々と言ってのけた。コイツ鬼だ。

実は…近々行われる文化祭の出し物。俺達のクラスは多数決の結果一番票が多かったメイド喫茶をすることになった。そのため女子は各自メイド服を調達(友達に作ってもらう、自作、購入)することになっているのだが、トウコのこの様子だと多分自作だ。意外といいセンスしてるんだなーとか無駄に感心してしまう。

メイド喫茶、なんてありがちな…とか思いつつも、やっぱり結構楽しみな俺。だって、トウコがメイド服着たら絶対に可愛い。

──長い髪を揺らしながら、にっこりと微笑んでお帰りなさいご主人様!なんつって。自分の妄想上のトウコにそう言わせると、もう…何というか、そう、萌え?

そうしてニヤニヤしていると、なぜかトウコが同じくらいニヤニヤしながら俺に近付いてきた。突然現れたので驚きのあまり椅子から転げそうになった。そして、悲しくも現在に至る。

「無理だってトウコ!俺なんかよりもトウコとかベルが着たほうがが絶対目に優しい!」

フリッフリのフリルがついた、可愛らしいメイド服が、癒しになるはずのメイド服が、俺にとって最悪に嫌なものへと化した。最早泣きそう。何で男の自分が着なくちゃいけないのか分からない。自給自足?流石に無理。

後ろに下がろうと思ったのに、既に隅にいる俺は逃げられない。そんな可哀相な俺を嘲笑うかのように心底楽しそうに距離を縮めていくトウコ。もう一度言う、コイツは鬼だ。

「そんなこと無いわよ。トウヤはどんな姿でも目の保養よ!その上、トウヤ+メイド服なんて、神の領域!」

「あ、そう?素直に嬉し…じゃなくて!」

興奮しているため息の荒いトウコに、冷や汗が流れる。嬉しくない、嬉しくない。メイド服着たくらいで神の領域なら世の中神だらけだという矛盾を指摘する気力もない。

「そうね、これ着てくれたら、着てくれた数だけ。私に出来ることはなんでもしてあげる。」

少し考えるような素振りを見せたトウコが出した無茶苦茶な交換条件。何言ってんだと思いつつ、不覚にも胸が高鳴った。

「…、なんでも?」

取り敢えず、確認するかのように口に出して繰り返すとトウコがもう勝負は決った!とでも言うかのようにフッと笑った。しつこいようだが、コイツは鬼だ。

「勿論、あーんなことやこーんなことまで全部OKよ。」

追い討ち、そして捕食された羊の俺…見事ゲームオーバー。



行方不明のキャンディドロップ/title ドロシー
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