あーだっるい。あーきっつい。あー暇、暇、暇。くるくる、ばたん、がつん。回る椅子に座ったゴールドは俺と同じように本を読んでいた筈だった、のに、何故こんなに煩いのか。キーキーと椅子の軋む音やら、何かを蹴り飛ばす音が狭い室内に響く。そして、仕舞にはだらだらとだらしなく不満が漏れる緩い口。黙れ、と言いたいのにそれさえも面倒で、本の字を眼で追いながら極力関わらないように専念しようと多少の不便には目を瞑る。

「なーなーシルバー、俺超暇なんだけど…他になんか無いわけ?ゲームとかゲームとかゲームとか!…てかさ、構えよー」

ゴロゴロとローラーが床を滑る音がして、何やらゴールドが此方に向かってくるのに気が付いた。それでも俺は読書に集中していたかったから、無視してその場から動かずにずっと文字を見ていた。気にしたら負けという文字が文面に浮かび上がったような気がした。

「…うわっ!」

がばり、背後から奇襲が掛かった。素早く首に腕を回されて息がうっと詰まりそうになる。態勢が崩れて本の字がぐわんとブレて、つまり抱き付かれた。背中にじんわりと広がる熱は冬ならまあ心地好かったかもしれないが、いかんせん今は夏であって、クーラーの効いた涼しい部屋であってもさすがに鬱陶しい。そうでなくても、俺は何というか人と接するのが苦手というか照れ臭いというか、鬱陶しいのと同時に恥ずかしさも込み上げてくる。かーっと身体中の熱が何倍にも膨れ上がって、何としてもこの状況から抜け出したくて堪らない。一応抱きつかれたままだが元の態勢を辛うじて取り戻して本を読むことは出来るようにはなったけど、内容は頭に入ってこなくなった。あー、もう、嫌だコイツ!

「…前から思ってたけどシルバーって、髪柔らかいなよあ。あれだ、猫毛?ふわふわー」

なのに此方の気も知らずにコイツはこういうことを何の戸惑いもなくさらりと言うもんだから、余計に熱を煽る。するすると髪を触られたり撫でられたり、もうとにかく言い知れぬ何かが遂に弾けた。熱い熱い熱い熱い、熱い!

「…だーっ!うるせーんだよお前はっ!さっさと離れてそっちで大人しくしてろアホ!馬鹿!触るな!」

勢い良く立ち上がった俺に、弾かれたように離れるゴールド。一気にまくし立てればううっと詰まったような顔をして口籠もった。

「な、何もそこまでいわなくたって…」

「黙れこの変態!」

「…はい」

せっかく休みの日だっていうのに、どうしてコイツはこんなにも落ち着きが無いんだろうか。変態という言葉にショックを受けているゴールドを見ると、なんだか色々な意味で残念に思えてきた。まあ別に、嫌ではない、けど…、さ。仕方ない、後でゲーセンにでも付き合ってやろう。



甘くないのはどうしてかなあ/title 藍日
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