階段を上ってトウヤの部屋の扉を開けた。勿論ノックなんてしていないけど、別にいまさらって感じで何とも思わない。あったとしてもベルをこのくそ暑いなか一時間も待たせる奴が悪い、私は無罪である。

「さっさと表出ろやこの女たらしベルがまってんだろーが」
バーンって乱暴に扉を開けるとトウヤがうんざりしたように私を睨んだ。ベッドに座ったトウヤの傍にはムシャーナがふわふわ漂っている。しかし、このトウヤの体制デジャヴを感じるんだけど。
「は…うざ。そんなの俺聞いてないんだけど」
何です…と!?だいたいきちんと聞いてたら可愛いベルをこの俺が待たすわけ無いじゃんってまさにその通りだ、私はトウヤを侮っていた畜生。
「あ、そうだ」
「…まだ何かあんの?」

「手首、見せてよ」
何コイツ。そんな何処までも蔑んだような目をしたトウヤに見せろ見せろと強請った。なんかね、なんとなく。なにかあったりするんじゃないのかなーって淡い期待が無くも無い。
「ほら」
袖をぐっとたくし上げてあの時みたいに差し出された手は、あの時とは違って綺麗なものだった。…なんだ、あれはやっぱり只の夢だったんだ。真っ白で、傷一つ無い造り物じみた手首。良かったような、悪かったような、よく分からない気分。どうにも腑に落ちない気分。ムシャーナのほわわんって腑抜けたような鳴き声にはっと気を取り戻した。

「気、済んだ?」
「うん」
…じゃあ俺外に出るから。たくし上げていた袖をずるりと下ろしたトウヤはムシャーナをボールに戻して部屋から出ていく。ガチャリと扉が開いて、トウヤが部屋から出ていってしまう。何、何かが…。



あ、そうだった

がしり、咄嗟に掴んだ手首。はっと息を呑んで動きを止めたトウヤが苦汁を飲んだような顔をする。ゆっくりと閉じられた瞼。
「忘れてた。ムシャーナの、幻でしょう」
掴んだ手首をゆるゆると放せば、トウヤは参ったとでもいうように重いため息を吐いた。
「気持ち悪い、だろ」
再び曝け出された手首は、夢に見たように傷だらけだった。それどころか、もっと酷いかもしれない。あの時と、同じ。自嘲するような、言葉。

「…トウヤ、助けてあげる」
それが、あの時答えられなかった私の答え。


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テーマ「人外ファンタジー」
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