何を言えばよかったのか本当に分からない。ただ、俯いたまま何も言わない私を見て、途端に張り付けたような笑みが消え去ったトウヤは、漸く顔を上げた私を見て、再び微笑んだもののにこやかにこう言った。
「なんだかなぁ…折角来てくれてたのに悪いんだけど、出てって」


あーもう、とにかく意味分からない。じゃああの場でなんて言えば良かったのか切実に解答が欲しい。気持ち悪くなんかないよ!って言えばよかったわけ?ウエッ。ナニコノ偽善者マジウケルンデスケドーってなったに違いない。というか、大体気持ち悪いねなんて言うトウヤが悪いのだ。あんな重いものをいきなり見せられて心にダメージを負った私に追い打ちを掛けるようにあんなこというトウヤが悪い。そうに決まってる。悩むまでもないじゃん。しかし、今トウヤがどんな気持ちで病室に1人でいるのかと考えるとなんとも言えなくなってきた私は元来た道を引き返していった。何にも、策なんて無いけど。

こっそりと忍び寄った病室の中、トウヤは腕を抱えて蹲るようにしてまたさっきみたいにぴくりとも動かない。さっきまでは開いていたカーテンも、閉めてしまったせいで薄暗い。スライド式で音の立ちにくい扉を1センチくらい開いた私はトウヤにばれないように中を除いているのだ。だって、出てけって言われたのに何事もなかったかのように中に入って、やあトウヤ、さっきぶりだけどご機嫌いかが?…とか、無神経で厚かましいことは流石に無理かなと。

「…きもち、わるい」
蹲ったままのトウヤがぼそりと言った。あーなるほど、つまりトウヤは記憶が無いが故に過去の自分の行動をおぞましく感じたのね。そりゃそうだ。リストカットなんて、私が戸惑ったのと同じように軽々しく受け入れられるものじゃないもんね。
トウコ、助けて。不意に脳内でそんな声が頭の中に響いた。途端に、視界がブラックアウトして体がぐらんって傾く。一体私の身に何が起こったんだろう。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -