愛って、一体なんだろうか。それはとても不確かなもので、勿論目でそれが存在するかどうか確認することはできないし、手で触って感触を楽しむことも出来ない。感触、というか、感覚はあるかもしれない。でもそれも例えば好んで嗜むようなことが出来るほど美味しいわけでもなく、時には甘過ぎたり苦過ぎたり、辛過ぎたり酸っぱ過ぎたり…微妙な変化で日々味が変わっていく。それを口に運ぶことはやっぱり勇気が必要で、恐ろしい。だけどそれが、ある意味スリリングな面もあっていいのかもしれない。
…、別にこれが愛についてのそれだと説く気はない。そういうデリケートなものって、人それぞれ考え方も感じ方も違うわけだし、ただ、自分はそんな風に思っているのだと言いたいだけ。
「それで、トウヤは私を愛してる?」
少しの沈黙のあとに、静かにトウヤは頷いた。薄暗い部屋の中に二人だけ、微妙な暗さのせいで私にはトウヤのシルエットしか見ることが出来ない。だから、今トウヤがどんな表情を浮かべているのかだなんて全くわからなかったけど、別にどうでも良かった。
私は、トウヤが泣いていようが怒っていようが、ただ与える問いに素直に頷いてくれればそれでいいのだ。今日も、私を愛してくれているトウヤの頭を撫でる。フワフワしていて気持ちがいい。
「トウコ、俺外に出たいよ」
ポツリと零された言葉に、私はピタリと動きを止めた。最近トウヤがよく言うことで、私はどうにもこれが気に食わなかった。だって、外に出たいって、私から離れたいってことでしょ?咄嗟に腕を振り上げると、トウヤは小さく悲鳴を上げて身を庇うように腕を顔の前でクロスさせて身構えた。最初はこんな面倒な反応しなかったのに、条件反射というやつらしい。つまり、私はそれだけトウヤを殴っているということなのかもしれない。
「…トウヤ、殴らないわよ。手を退けて」
ゆっくりと腕を下ろしてそういえば、トウヤは恐る恐ると言った様子で腕を解いた。ほうっと溜息を吐いてから、ごめんね。もう言わないからと私に謝る。でも、何回このやり取りしたのか、もう数えきれないくらいなのにね。
トウヤ、あのね、ほんとうはこんなことしたくないの。だけど、トウヤって少し目を離しただけですぐに私とは違う女の人に着いて行っちゃうから。一々嫉妬するのに、疲れちゃったのよ。こうしちゃえば、トウヤはいつでも私と一緒でしょ?
愛なんて、相手に正しく伝わることは永遠に無いと俺は取り敢えず断言しておく。それはいつだって何処かしら一方通行だから、やっぱり双子だからって俺たちはどうせ他人なんだって悲しくなってくるし、虚しくもなる。
そう、俺がどれだけトウコのことを愛してるかなんて、俺にしか理解することは出来ない。
例えば、監禁とかいうシチュエーションは俺にはとっても嬉しいものだけど、薄暗い部屋よりも明るい部屋がいいだとか。だって、トウコの顔がよく見えないし、俺の幸せそうな顔だって、トウコには見えてないんだから。
多分薄暗いのはトウコが、監禁という行為に少なからず罪悪感を抱いているから俺と面と向かうことができないとかいうのが理由だろうとか推測しておくけど。
というか、そもそも監禁という展開に仕向けたのは言うまでもなく俺だ。いろんな人間に、適当に尻尾振っておけば嫉妬深いトウコがこうすることは予測済みだった。俺はある意味トウコの愛を悪用したのだ。結果、俺が監禁されたことでトウコは俺から離れなくなったし、煩わしい俗世間との関わりも今はゼロに等しい。
外に出たいと言う言葉だって、所謂トウコの愛を確かめるためだけに使っているようなもので意味はない。トウコが腕を上げたりそれを頑なに拒否すれば俺は愛されているし、それで傷が増えても別にどうでもよかった。
俺の言葉や一動にいちいち振り回されてくれるトウコを見るのが心底楽しくて堪らないし、とても愛おしく感じる。狂ってるとか、そういうのも別にどうでもいい。今が幸せなら、他のことは全て投げやってしまって構わなかった。
この薄汚い感情に愛と名付けたのは私/title 告別