何度も何度も、もう何回同じ事を繰り返したか覚えてないくらいに、繰り返す。そりゃあ、魔王を倒して世界を救うっていうのは僕の使命みたいなものだってことは重々承知しているけれど、だからって、こんなこと、聞いてない。

目の前で数多の攻撃に耐えられずドロドロに溶け掛けた肉の塊。それがつい先程までは上から目線で偉そうにデク人形だの何だの語っていた魔王なのだから笑える。

あと一太刀で倒せる…そんな時に、前触れ無くそれは訪れるのだ。グラリと歪んだ空間に、沈み込むように剣の切っ先が消えていく。仲間の驚いた声が耳に痛い。次第に目の前もぐにゃぐにゃと歪んでいき、ついには何もなくなってしまった。

そして、気が付くと僕は潮の香漂う懐かしい故郷のベッドの上で横になっているのだ。

直ぐに起き上がって辺りを見回しても、あの魔王を倒すべく一緒に戦ってきた仲間は見当たらない。何一つ。手に馴染んだ武器や、長い間身を守ってくれた防具さえも。あるのは旅を始める前と何ら変わらない殺風景な自分の部屋。

まさに無限ループ。これで何度目なのか最初は今気強く数えていたが、ある数値を越えたときそんなことはどうでもよくなってきた。

どれだけ足掻いても結局は魔王に辿り着き、そしてやけくそになりながらも魔王を倒そうとすれば後一歩のところで原点に戻される。

幸いツいているのは、それまでの経験値は全て引き継がれていることだった。だから、もうとっくにダーマの職業はマスターし尽くしてしまっている。もう何もすることはないのだ。

母親の呼ぶ声がして、大きな溜め息を吐きながらも下の階に降りていく。また、長い長い旅が始まる。

運命というのは大きな渦のようなものだと最近考えるようになった。いくら手を動かして藻掻いても、遅かれ早かれ中心に飲み込まれて沈んでしまう。いくら逆らっても、逃れることのできない渦。それでも。

「アルス!」

極めて明るい声色に振り替えると、満面の笑みを浮かべたキーファが立っていた。自然と此方の気分も穏やかになっていき、つられて笑う。

「知ってるか?あそこをずーっと行ったところに古びた遺跡があってさ…スッゴいんだ!」

「…うん、知ってる。だから、僕は何処までも付いていくよ。……探検行くんでしょ?」

そう言うと、キョトンとしたキーファはパチパチ瞬きした後に、何だよいきなり、気持ち悪い奴だなってまた笑った。冗談じゃ、ないんだよ。

アルスは何でもお見通しなんだななんて言われても、あまり嬉しくなかったのはユバールでのことを思い出してしまったから。あんな思いは、もう二度としたくないのに、それは叶わない。

だから、こんな歪な形であってもあの時別れたっきり二度と会えない君と再び会えるのなら、いいかなって…思ってしまうんだ。



瞼に圧力/title 自慰
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -