長い睫毛が蝋のように白い肌に薄く影を作る。まるで精巧に創られた人形みたいに綺麗なトウヤを見ていると、あたしの心は浄化されたみたいにすっきりとする。

綺麗、なんて綺麗。静かに眠っているトウヤは死んでいるみたいにピクリとも動かない。だけど規則正しい寝息が微かに聞こえるからやっぱり生きている。生きて、いる?

鳶色の、ふわふわした髪の毛は触るととても気持ちが良さそうだけどあたしなんかが触っていいようなものじゃない気がして、伸ばしていた手を慌てて引っ込めた。

そう、あたしにとってトウヤはどこまでも清らかな存在で、どこまでも崇高な存在。

「ベル…?」

トウヤがうっすらと花瞼を開けた。そこから覗く瞳は末恐ろしいほどにどこまでも澄み切っていて、ああ、トウヤはきっと人間なんていう低俗な生き物じゃなくて…天使、そう。天使、みたいだ。

あたしの名を紡ぐ声の、なんて美しいこと。この人の口から出た言ノ葉は、全部美しく聞こえるのだ。

「どうした?、ベル」

ゆっくりと起き上がったトウヤからスッと伸ばされた華奢な手が、戸惑いなくあたしの頬に優しく触れる。気が付くと何故だかあたしは泣いていた。あたしが貴方に触れるのはとてつもない葛藤の末なのに、貴方があたしに触れるときはこんなにもあっさりとしている。

触れた頬からじんわりと伝わる熱はほんのりと温かで、どこまでも優しい。

「どうしてかな、今はとっても泣きたい気分」

ポロポロと零れる涙がトウヤの指先を濡らしていく。止まれ止まれと思ってもそれは止まってくれないから尚更悲しくなってきて止まらない。

「ベル、俺は生きてるよ」

唐突にトウヤがそう言った。あたしの涙は驚くことにぴたりと引っ込んでしまった。時々こんなことが起こる。あたしの考えを全て見抜いているみたいにトウヤは適切な言葉を選び、そしてあたしの不安を拭い去る。

「うん」

「そして、ベルと同じように人間だ」

トウヤは微笑んだ。それはそれは綺麗で、あたしの心のわだかまりは段々と解れていく。そう、間違ってはいけない。どんなにトウヤが人間離れしたように清らかでも、間違いなく人間だってこと。

「だからベル。俺に触れることに躊躇することは、ないんだよ」

トウヤがあたしの両手をギュッと握った。全身の強ばった緊張が一気に解けたと同時に、あたしの涙腺は再び崩壊してしまったのだ。


あいを、あいを/title 自慰
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