俺は昔強姦に遭ったことがある。男だから大丈夫だろうと何も考えずに暗い夜道を歩いていたら、突然街灯の光も届かないような暗がりに引き摺り込まれて襲われた。

あまりの衝撃に周りの状況を確認する余裕もなくて、押さえ付けられて服を破られそうになったときにやっと恐喝なんていうものじゃなく別のことをされるのだと理解した。その瞬間言い様のない恐怖が身を包み、目の前で息を荒くする大人はまるで別の生き物のように見えた。

泣き叫んで喚いても助けは来なくて、とにかく無茶苦茶に扱われた。まだ中学生だった俺が大人数人の力に適うはずがなくて、為す術もなくされるがまま。ただひたすら呪文のように"これは夢だ"と唱えて現実逃避をしつつ我を失わないように歯を食い縛る。

そうこうしているうちにその行為は幕を閉じて、大人達は力なく横たわる俺の上に申し訳程度に衣類をバサリと掛けると、足早に去っていった。

お金等が奪われることは最後まで無かったが、こんなことになるくらいなら有り金を全て取られたほうがまだマシだと思える。というか断言する。

腰は痛いし体は怠いし、無理に暴れたせいで手足首もどこもかしこも痛い。心も痛い。動く気力は無くて、だけどこのまま横たわっているのも嫌だと思った。俺は確かに男なのに、こんな目に遭うのは女だけだと思っていた。そして突然世界は白に染まった。

この頃からだろうか…俺の人格は不安定なバランスで分裂し、俺という人格の他に…今ではトウコという同い年の女の子の人格が存在している。つまり、二重人格というやつ。

トウコは目に見えない不確かな存在で、あやふやで、曖昧で。だけどそれと同時に俺のことを一番理解してくれる素晴らしい存在だった。彼女の他にはもう何もいらないと思えるほどに、俺は依存していた。

あの日の出来事のせいで気が付くと俺は対人恐怖症に陥ってしまったが、理由を知らない皆は俺に訳のわからないことばかり言ってくる。前みたいに私達をきちんと見て、

前って、一体いつのこと?分からない。理由があるなら教えてって言うけれど、話す気にはなれない。あの惨劇を口に出すのは嫌だし、それにもうトウコにその時の記憶を預けてしまった。だからあの日の穢れた出来事はトウコだけの秘密。

鏡の中を見つめると、俺越しにトウコの姿が見えた気がした。いつでも一緒の素晴らしい存在。仕舞いに皆はこんな俺をおかしいとかイカれてるとか言い出したけれど、もう気にしない。

俺にとって、今は間違いなく充実しているのだから。



ハートレスの喪失/title 亡霊
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