ぐっすりと熟睡していたのに、何やら廊下が騒がしいので目が覚めた。寝起きの霞む視界の中に映った時計を見るとまだ夜中の3時で、別に俺が寝坊したわけでは無いことが分かる。

うんざりしながら響いてくる声に耳を澄ませば討論しているのはNとトウコみたいで、お前等近所迷惑も大概にしろとかなんとか殴りたくなる。特にN。お前は何故此処にいる。

これは明け方まで続くな…と他人事のように思った俺は、怠い体を起こしてベッドから冷たい床へ足を下ろした。季節は夏なので、蒸し暑い空気と裏腹に足の裏に感じるひんやりとした心地いい冷たさが気持ちいい。

未だに激しい討論をしている2人を叱ろうと、自室のトビラを躊躇なく開ける。

「お前等人の部屋の前で夜中に煩いんだよ!どっか別の場所で騒げ」

2人は俺が起きるとは思ってなかったのか、騒いでいたトウコとNは暫く此方を凝視したあと、懲りずに再び争いだした。

「ちょっとN!アンタの声が馬鹿デカイから起きちゃったじゃない!私の可愛い可愛いトウヤ君に醜い隈が出来たらどうするのよ」

いや、お前の声も十分デカイから。あと、可愛いって何だよ可愛いって。

「何をいってるんだい?トウコ。君の声は僕よりもキンキン響いて耳にくるじゃないか。たとえ隈が出来たって、君のせいだよ。そして、トウヤは僕のだから」

Nがトウコを鼻で笑いながら言い返す。N…お前ゲーチスと戦い終えてから性格歪まなかったか…?

「何言ってるの?貴方ごときの器ではトウヤの左側は勤まらないわ!」

「それは、此方の台詞だよトウコ。」

バチバチと激しい火花が2人の間で散っているのが見えた気がした…危ない幻覚。これも2人がきちんと寝かせてくれないからだ。昨日は夜這い、一昨日は夜の散歩と言う名の誘拐事件。

「この際、どちらが相応しいのか…直接トウヤに決めてもらいましょうよ」

「は……?」

何だよ、挙げ句の果てにこの下らない論争に俺も巻き込むつもりなのか、そうなのか。お願いだから寝かしてくれ。昨日も一昨日も寝れてないんだ。

「トウコにしてはいい考えじゃないか。で、どっちなんだい?トウヤ」

期待したようなキラキラした瞳で俺を見つめながらジリジリと迫ってくる2人から逃れるように後退りする。

「勿論私でしょ。」

「いや、僕だろう。じゃないとわざわざ此処まで来た意味が無いじゃないか」

「フッ…私ならNの何倍もトウヤをどろどろにしてあげられるわ。でしょう?トウヤ」

どろどろってなんだよ。気色悪いな…

「寝言は死んでから言ってみればどうだい。やはり、溶かすならそれなりに弱点を知ってる同性の方がいい筈だよ。ね?トウヤ」

知らねーよ。

2人が同時にぬたりと怪しく口角を上げたとき、俺は今日こそ本気で貞操の危機を感じて素早くモンスターボールを投げた。

出て来たのはランクルスで、指示をしなくとも直ぐ様"催眠術"を放ってくれた。不意討ちの催眠術に、2人は驚いた表情を浮かべたままどさりとその場に膝をついた。

…この中で一番ポケモン強いの俺で良かったと切実に思った。そして、俺の逃亡劇〜安眠を求めての旅〜は幕をあげたのだった。因みにこういう時の被害者は、チェレンなんだけど。



憂鬱少年の喜劇/title 亡霊
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