ポケモンセンターにある真っ白で清潔な布団は家に置いてあるくたびれたものとは違って、とてもふんわりしていて気持ちが良い。それをぎゅっと抱き締めて微睡んでいると、気が付けば時刻は昼過ぎだった。

昨日ジョーイさんに一度もお礼を言うことなく部屋に入って寝てしまったから、今日はきちんとお礼を言いたかったし、とにかく私は誰かに頼りたかったのだ。

慌てて飛び起きて部屋から出ようと扉を開けた瞬間に、突如何かが私の足にぶつかった。結構な勢いのそれは何やら黒い生き物で、私には見たことのないポケモン。真ん丸くて大きな瞳で、とても愛らしい顔付きをしている。しかし何を考えているのか、その子は私の顔をじっと見つめて微動だにしなかった。

「あ、ごめん。ソイツ俺のポケモン」

見つめ合ったまま暫く時間が経過し、さすがに段々心配になってきていた私は、その声を聞いてハッと顔を上げた。その人はとても綺麗な顔をした、男の子だった。

「ほら、ゾロア。こっち」

その短い言葉だけで、じっと私を見ていたゾロアというらしい黒いポケモンはあっさりと視線を外して、男の子の元へ駆けていく。それが何だか少し悲しいような気もしたけれど、当初の目的を思い出した私は直ぐに足を動かした。


「あなたは母親として自分の考えがおかしいと、思わないんですか!?」

関係者以外立ち入り禁止、そうかかれた看板のある方向からジョーイさんの怒ったような、呆れたようなどっち付かずの大きな声が聞こえた。

反射的に足を止めた私は、母親、という言葉に強く引っ掛かりを感じた。いつぞやに感じたような嫌な予感がして、いっそこの先に行って真相を確かめたくなったけれど、立ち入り禁止の文字がそれを踏み止める。

「ハァ?家を出たまま2日帰ってこない娘心配して引き取りに来たって、おかしいことはないだろーが!」

聞こえてきたその声は、やっぱり間違いなく私の母親の声だった。その荒々しさに身も凍るようだったが、私が一番驚いたのは2日という言葉だった。

2日、つまり私が部屋を借りたのは一昨日、昨日は一日中寝ていたということになる。どうやら私は自分で思っていたよりもダメージを受けていたようだ。呆然とする私に、お母さんは更なる爆弾を投下した。

「ポケモントレーナーだなんて、くだらない。そんなことより、そのポケモン売って金にしたほうが100倍はマシだね。アンタが何したって、あの子のポケモンも売り捌いてやるから」

そう言って鼻で笑うお母さん。それを聞いて、私は弾かれたように走りだした。初めてできた私の友達。あんなに可愛い子を売られるなんて、私には想像すら付かなかった。

何度も通っていたのでチコリータの居る場所は分かっていたし、連れ出し方だって大体把握していた。途中で足を捻りそうになるくらいに全力で走りながら、やっとの思いで辿り着いた先ではチコリータは既に治療室から出て私を待っていた。

そうだ、今日が、チコリータの退院の日だったんだ。



なにが咲いたら春が来るの/title 秘曲



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