あれからちょこちょこポケモンセンターに通ってチコリータの様子を見に行くようになった。このチコリータは貴方と同じ女の子だから、あと少し怪我が良くなったら一緒にお風呂に入ってあげてねとジョーイさんが笑った。女の子、なんだ。
チコリータはあの時のトラウマのせいでやけに人に怯えるようになったけれど、私があの場から助けたことはしっかり覚えているみたいで私にはよく懐いてくれた。
可愛い声で鳴きながら、彼女は私の体に擦り寄ったり膝の上に頭を乗せて寛いだりするのが好きみたいで、可愛かった。
そんなチコリータの退院が二日後に迫った時、お母さんが言った。薬を買ってきて下さいと。この人は、人に物を頼む最初の一瞬だけは本当に低姿勢なのだ。敬語で、土下座。母親に土下座されるって、凄く悲しい。
そして私はまたお金を受け取り、あの路地裏に足を運ぶのだ。しかし、お金が足りなかった。今回渡されたお金は前回よりも少なくて、でも薬の請求額は前回より多いのに、なのに足りる筈が無い。
とぼとぼと家に戻った私にお母さんは言った。お金が無いの、それなら足りないぶんあんたが身売りでもして稼いでよ。とうとう私の耳もイカれたのかと思う程の威力だった。私はまだ、処女であった。
恐怖のあまりカタカタと体が震えだしたが、そんな私にでさえお母さんは何も感じないようで、挙げ句さっさと行けと急かした。平然とそんなことを言う母親が信じられなくて、咄嗟に私は家を飛び出した。
路地裏に行こうとは思わなくて、私が辿り着いたのはあの温かいポケモンセンターだった。震える私をいつもの綺麗な笑顔で迎えたジョーイさんは私の異変に気が付くと心配そうに肩に手をおいて大丈夫?と優しく聞いた。
「お願い、です…私、此処に泊まれますか」
ジョーイさんはぱちぱちと瞬きをしながら当然のようにこう言った。
「…ええ、勿論。もう名前ちゃんはトレーナーだから、無料で寝泊まり出来るわよ」
その瞬間体中の緊張が一気に緩んで、強張っていた肩の力は抜けた。ほっと息を吐いてジョーイさんにお部屋をお借りしても良いですかと聞くと、彼女は何も詮索することなく素早く部屋のキーを渡してくれた。
「名前ちゃん、いつでも私を頼ってね」
指定された部屋に向かおうとする私の背中に、ジョーイさんは何処までも優しかった。
迷宮には天使がすむと云う/title afaik