私はNに対して家族愛や友愛以外の愛情を向けたことはない。というかこの感情を愛情と呼ぶべきべきなのか、友情と呼ぶべきなのか…とにかく、恋愛対象ではないのは確かである。自室のベッドの上で寝返りを打ちながらぼんやりとそんなことを考えていた。
私はNが好きだから、あの時後輩に嫉妬したことは認める。だけど、だからと言ってそれを軽々しく恋愛と結び付けようとは考え辛い。仲の良い女友達が自分以外の人と遊んでいるから嫉妬する、ということもあるのだし、Nと私が異性だからと言ってそこから必ず恋愛に発展するとは限らないのだ。けれど、もしその後輩とNが仮に付き合うことになったとしたら…ただの友人である私はNの隣りにいられることはないだろう。Nが許しても相手は快く思わないだろうし、彼女が出来てしまったら私なんかよりその子と過ごすほうが楽しいと思うようになるに違いない。
…分かってはいるけど、それは悲しい。きっと私は耐えられなくなる。今までずっと一緒に生きてきたのに、ぱっと出の子には取られたくないという気持ちがある。私は誰よりもNのことを分かっているつもりだったし、また実際にそうだろうと思い込んでいたから尚更そうだった。ずっとNの隣りにいたい。離れたくない。

「嫌だな、私…気持ち悪い」

ぽつりと呟いた。そもそも、気が早過ぎるような。よくよく考えれば私は未だその後輩の性別さえ聞いていないのだから、こんなことを考えてもまったくの無意味である。
ふーっと息を吐いて仰向けになると蛍光灯の光が眩し過ぎて目を開けていられない。枕元に放っていたリモコンを手にとって、スイッチを押して電気を消した。明日からいつもと同じ日々が繰り返されていく。足元に転がっていたクッションを拾い上げて抱き締めた。物に疎いNからから珍しくプレゼントされた萌黄色の可愛らしいクッション。私はそれがお気に入りだった。暫くすると沈み込みそうになるような眠気が襲ってきて、私はゆっくりと意識を手放した。時計の秒針の音だけが、部屋にこだましている。




「あの手紙だけど、僕の知っている後輩から
ではなかったよ」

「そっか」

朝、登校中。いつも通り私とNは通学路を2人並んで歩いていた。涼しげを通り越して少し肌寒い空気に身を縮めながら、ほっと息を吐く。
…可笑しいな、ふと思った。昨夜あれだけ深刻に悩んだというのに今は何故か底冷えするくらいに心の中は冷静で、先程のNの言葉を聞いても何も感じなかった。違ったのか、そうかそうか…やけに、あっさりとしている。

「そういえば…来月テストだよね」

「…そうなのかい」

Nは此方を見てきょとんとしていた。先生の話を聞いていなかったのだろう。一昨日の朝のホームルームで間違いなく連絡していたと思うけれど。

「そうだよ。だからさ、今度数学教えてください…ピンチなの…この時期に赤点はヤバイ」

「構わないよ。…ただし、条件がある」

「…なに?」

あともう少しで校門が見えるはずだ。Nのふわふわとして柔らかそうな萌黄の髪が風に揺られているのを横目で見ながらそう問う。交換条件か、なるべく負担の少ないものだったらいいんだけど…

「国語を、教えてくれないかい」

ああ…そうだった。Nは理数は超人的だけど、国語の記述問題だけはまったくの点でダメなのだ。まあでも理論とかは完璧だから、あとの問題は心情の理解とか何かそういう感じの記述問題くらいで点数はそこそこなんだけど…。

「分かった、それじゃあ昼休みに教えてあげる!」

僕が先に教えなくていいのかいと聞くNに、他人に物事を教えるというのは暗記したことを記憶に定着させるのにとても効率の良いことだ…つまりどちらが先でも勉強になる、という意味を込めて言えばすぐに了承してくれた。私は勉強は大嫌いだけど、昼休みが楽しみだなぁとちょっとだけ嬉しくなった。





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