「名前先輩って、N先輩と物凄く仲が良いですよね…!」

何処か他の学年の名前も知らない女の子からなぜか呼び止められて、いきなりこう言われた。今は昼休み。図書室から借りていた本の返却期限が迫ってきたので、返却しに行こうとしていたところだったのだが何事だろうか。廊下のど真ん中で話す私たちに、通りかかる人達がしれっと聞き耳を立てているのはすぐにわかった。

「…へ?まあ、良いかなぁ」

仲が良いと言われるのは満更でもないし、むしろ嬉しいくらいだ。事実、私とNは親友といっても過言ではないくらい親しいはずである。私の答えに女の子の雰囲気はパアッと明るくなり、おまけに嬉しそうにガッツポーズまでされた。だからなに?そう言うと、女の子は慌てたように一枚の封筒を差し出した。

「これ、N先輩に渡して欲しいんです!」

女の子から差し出されたそれは可愛らしい、センスの良さそうな花柄の封筒で、差し出されたものは利害関係なく受け取ってしまう癖のある私はこれは何だと問う前に成り行きでそのまま受け取ってしまった。それからの女の子の行動は素早かった。
何も聞かれたくないと思っているのかもしれない。私が間違いなく受け取ったのを見受けると、素晴らしいほど鮮やかに踵を翻して脱兎の如く逃げて行き、此方が呼び止める暇は一秒さえもなかった。まあ、聞かなくても分かる。これは所謂ラブレターと呼ばれるものだろう。今までこんな風に使いっ走りのような役目を背負わされたことは何度もある。それというのも、Nは綺麗だけど同時に綺麗さゆえの近寄り難い雰囲気も四六時中纏っているので、そんな彼と親しい私がこういう風な扱いを受けるのはまあ当然と言えば当然だった。ただ問題なのは面倒だな、ということと渡し忘れるかも…ということだけ。暫く某然と立ち尽くしていた私はそうだ、図書室…と元々の用事を思い出して重々しい足取りで歩き出した。




「N、これ…後輩からみたいなんだけど」

時は放課後。帰路を辿りながら、隣りを歩くNに例の封筒を渡した。なぜ図書室から戻ってからすぐに渡さなかったのかと言うと、理由は簡単でただ単に忘れていたからである。封筒を受け取ったNはそれを裏表にひっくり返しながらしげしげと眺めてこう言った。差出人の名前がない。確かに私から見ても封筒は何も書かれていなくて真っ白だった。でも別にラブレターに何にも書かれていないなんてよくあることだから別段気にしなくてもいいだろうと私は言ったが、Nは納得いかない表情のまま口を開いた。

「後輩に知っている子がいるんだ。だからその子からかもしれないと思ったんだけど…これじゃあ分からない」

Nに後輩の知り合いがいるなんて初めて聞いたから衝撃的だった。その途端もやっとした何かがして気持ち悪くなり、急にこんな封筒なんて渡さなければよかったと思ってしまった。今までどんな人からの手紙だって、そんな風なこと言わなかったのに…ってなんだ、私ってちょっと独占欲強過ぎじゃない?Nが誰と交友関係を持とうが、私とNの関係は変わらないはずなのに。

「…名前?」

名前を呼ばれてハッとした。気が付くとNが不思議そうな顔をして此方を見ていて、慌てた私は何でもないよと言いたくて直様笑顔を繕った。人の感情に疎いNにはこんな無理矢理の表情でも十分に通用する。

「N、あのね…私達ずっと仲良しだよね」

「…?当たり前じゃないか」


言わなくても分かってる/title 自慰


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