「ねぇ、名前。しようよ」
魅惑的な笑みを浮かべた紅覇さまは、寝起きの私の首に腕を絡ませながら囁いた。まあなんと、朝から御盛んなことで。シーツがゴソゴソと音を立て、気が付くともう危ない体制である。まあ、元々危なかったけど…しかしどうだろう。私は、昨日…と言っていいのか分からない夜明けまでの事情で、既にもうクタクタ。つまり、今日はゆっくり寝かせてほしいと思うのだ、切実に。あんだけ激しくした癖に、よくもまあまたヤろうという気になるものだ。
「無理ですよ、無理。だってまだ、腰痛いの」
貴方は私に掛かる負担を考えて下さいと暗に含ませて訴えれば、紅覇さまは詰まらなそうに唇を尖らせてから、ぽふんと隣に沈んだ。どうやら諦めてくれたらしい、良かった。それからというもの、じっと上を見つめて瞬き以外に動かない紅覇さまをずっと観察する。長い睫毛が上下しているのを見ていると、まるでバサバサと音が聞こえてくるようだった。
「ね、紅覇さま」
「…なぁに?」
漸く口が動いて、小さく問い掛けたトウヤが体を動かして此方を向いた。髪の毛が乱れて鬱陶しそうだったから手を伸ばして整えてあげると、紅覇さまは目を瞑ってその手に擦り寄った。猫みたいで可愛い。
「好きです」
「知ってる」
艶やかな愚行/title 告別