誰だって、綺麗なものが好きだと思うの。例を挙げれば、その辺に転がっている石ころと真っ赤に輝く綺麗なルビー、どちらを選ぶ?と聞かれたときに、余程変人じゃない限りルビーを選ぶのと同じようにね。

私だって同じ。だからそこら辺にわんさか転がっているような10人並の顔した男よりも、綺麗な顔した男と遊びたいだとか、結婚したいと思うわけよ。綺麗なほうを、選びたい。

でもね、それっていくら望んでも私には叶うことが無いって最近気付いてしまった。だって私、綺麗じゃないから。私が男を選びたいと思うのと同じように、男だって女を選びたいと思っているのだから。それに、10人…ましてや100人並の私が選ばれるわけがない。

人は皆平等だなんて、一体誰が初めに言いだしたんだろうか。ちっとも平等なんかじゃない。人は生まれた瞬間から地位が決まっているし、整形でもしない限り醜いものは醜いままだ。

ああ私は綺麗な人間として生まれて、そして綺麗な男と結婚し、綺麗な人生を送りたかったよ。まだまだこれから先だろうなんて大人達は私達に言うけれど、奇跡が起こらないかぎり大体もう未来なんて決まっているも同然じゃん。

「お前は"綺麗"に拘りすぎなんだよ」

話を聞いていたトウヤが口を挟んだ。私の意見が納得できないと言いたげに顔を顰めているのに、その表情さえ悩ましげで綺麗だから憎らしい。何よ、綺麗な人には私みたいに醜い人の気持ちなんて分からないのよ。

そう言うとトウヤはまあ多分図星だったんだろう、黙った。醜い人間が綺麗なものに憧れるのは当たり前でしょう?それを拘り過ぎだなんていう言葉だけで片付けるなんて酷い。

「…そう言うけど、その綺麗な人間だって人間だからそれぞれ好みがあるんだし、必ずしも綺麗な人間と結ばれるわけじゃない」

「わー。じゃあ言わせてもらうけれど、私のまわりには綺麗な人間と醜い人間なんていうアンバランスな組み合わせの人達は居ないんだけど」

自分でも随分と捻くれた考え方と思うけど、どうしてもその考え方が間違ってると思えないんだから仕方がない。

「それは、偶然だと思うけど」

ああ、そうですか。偶然…偶然、ね。それなら私ってなんて不幸なんだろうね。そこまで言うなら、私の考えが間違ってるって証明してよ。飛び出した私の挑戦に、トウヤは少し悩んだようだったけど直ぐに口を開いた。

「…名前の中で、俺は綺麗な人だったよな?」

勿論。いきなり何を言いだすのか。トウヤ以上に綺麗な人を、私は見たことが無いというのに。頷いた私に、トウヤは満足気に笑った。

「俺が好きなのは、名前だよ」

ああ、嘘でしょ。



ニュクスの花瞼/title 亡霊



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