あれは、私の記憶上確か部活が終わった放課後の帰宅途中だった。河川敷近くを通っていた私は、目の前に転がってきたサッカーボールを見て立ち止まってしまった。

そのまま通り過ぎてしまえば良かったのに、いつもだったら無視していたのに、この日だけは何故か。どんなやんちゃなお子さまがやってんのかなーなんて考えながらボールを拾い上げた私のところに、持ち主であるのだろう人が近付いてきた。

「悪い!怪我しなかったか?」

「全然大丈夫だ…、よ」

振り向いた先にいたのは、私の予想を遥かに越えた…女の私でも思わず恋に落ちずにはいられないほどの超絶美少女だった。

ピンクのサラサラした髪、猫目で妖艶な目元に涼しげなアクアブルーの大きな瞳、長い睫毛…白くて肌理細やかな肌…取り敢えず全てが魅力的な彼女は、ありがとうと言ってから私の手からボールを受け取ると颯爽とグラウンドへ戻っていった。

女にしては些かハスキーな美声が、いつまでも耳に響いている気がする。ちらりとみたサッカー部指定っぽいユニフォームには輝く稲妻マーク…彼女が、ここらで知らない者はいないであろう名門雷門中学校のサッカー部であることを示していた。





「女の子好きになるなんて、マジウケるんだけど!ははは、あんたそっちの気あったんだね」

翌日の朝休み。この出来事を友人に相談すると、爆笑された。此方は真剣だというのに、冗談だと思っているのかどれだけ静めようとしても笑うのを止めない。

挙げ句の果てには私の隣の席の男子に"なんか名前狂っちゃってるから男の良さ教えてやってよ"なんて言いやがった。

事情を詳しく聞いていない彼にしてみればいい迷惑である。取り敢えず悪乗りしたらしい男子はそのまま友人と騒ぎだす。……今気付いた。私は相談する相手を間違ったんだね。

「ねー、名前。もし今本当に好きなら近所だし雷門中に行ってみれば?一時の気の迷いだったかもしれないんだからさー」

未だふざけている友人だったが、それは良い案だと思った。お礼を言うと、友人は別に良いよと適当に返事をしてから男子と一緒に屋上に消えていった。

あの短い時間の中で2人がどんな会話をしていたのか気になるところだが、とにかく今日の授業はサボるらしい。





思い立ったら直ぐ行動、そんな私は現在雷門中正門前に来ていた。今の時刻はまあ、部活真っ盛りな時間帯。他校の生徒である私が堂々と平日に行くのは抵抗があったため、今日は週末の土曜日。

部活動生の威勢の良い声が響くこの学校はサッカー部だけでなく陸上部やテニス部も結構な強豪チームでつくづく凄いと思い知らされる。

「あ、名前!」

聞き覚えのある声がしたと思い振り替えれば、小学校で同級生だった松風くんだった。彼がここに通っていたとは…知らなかった。

「わー久しぶり、てかサッカー部なんだ」

黄色に青いラインのユニフォーム、稲妻マーク。間違いなく雷門中のサッカー部の出で立ちをしている天馬くんはサッカー部だと言われて嬉しいのか胸を張って"そうなんだ!"と言った。誇らしげなその表情、今の生活が充実していることが凄くよく伝わる。

「名前は何しに来たの?」

天馬くんが不思議そうに聞いた。至極全うな質問だと思いながら、取り敢えず"人に会いに"とだけ答えると、案の定人の良い天馬くんは"俺も手伝うよ!"とにこやかに言ってのけた。
少年よ、部活は大丈夫なのか?

「サッカー部の人なんだ」

私がそう言うと、天馬くんは目をキラキラと輝やかせて名前は?特徴は?とひっきりなしに聞いてくる。自分の知っている人物が出てきそうなため、嬉しいのだと思う。

「ピンクの髪の美人さん」

「ああ、分かった!」

天馬くんは分かりやすくポン!と手をたたいてから満足そうに笑った。それにしても今の情報だけで特定できるなんて美人パワーと天馬くんの認識半端無いなと思った。(それともピンクの髪の人物が他にいないのか)

「霧野先輩だよね!」

「多分。雷門サッカー部って女子部員もいるんだって初めて知ったよ…ユニフォーム着てたからマネージャーじゃないみたいだったし」

何か可笑しなことを言ってしまったのだろうか。天馬くんは私の顔をパチパチ瞬きをしながら数秒間見つめた後、慌てたように手を振り回しながら"違う!"と何かを否定した。何を。

「あっ、天馬。何してるんだ」

噂をすればなんとやら、天馬くんを呼んだのはピンクの髪の美少女…霧野?先輩だった。あの日と同じようにサッカーボールを抱えた彼女は私と天馬くんを交互に見た後、妙にニヤけた表情で"松風の彼女か?"と言った。

先程よりも激しく慌てながら否定する天馬くんの顔は赤くなっていて、それが面白いのか霧野先輩は綺麗に笑った。

「悪いけど今は大事な時期なんだ。急ぐ用じゃなかったら、あと少し休憩までそこのベンチで待っててくれ」

す、とベンチのある方向を指差した霧野先輩はにこやかに私に対応しつつも天馬くんに試合が近いんだから真面目にやれだのなんだの注意をしてから去っていった。

あ、スイマセン私が用がある人は貴方ですとか言う暇無かったのが悔しい。

いやはや天馬くんには申し訳ないことをしてしまった。それにしても霧野先輩は動作のひとつひとつが女性的というか優美というか。

思わずうっとりした視線で霧野先輩の去った方向を見ていると、天馬くんが恐る恐るといった様子で聞いてきた。

「ねえ、名前」

「何?」

「名前は霧野先輩女だと思ってるんだよね?」

「え、違うの?」

まさか。あんな美少女を男だと間違えるほうが失礼でしょう…そんな意味もこめてそう帰せば、天馬くんの表情は引きつった。

「うん…先輩は男だよ」

絶句。取り敢えず、友人に全力で報告したい。私は辛うじてノーマルをキープしましたと。





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