※中2くらい、パロ/未完


私が呼ばれたのは森の中のとっても大きなお屋敷で、今まで庶民として住宅街の団地に住んでいた私にとって、その厳かな雰囲気は恐怖だった。ゲーチスという人は私の前を悠然と歩いていく。

「此処が、貴女の部屋です」

豪華な装飾の施された扉の前、そこでゲーチスさんは歩みを止めた。ドアノブまで煌びやかなそれをおそるおそる開くと、中は女の子なら誰でも憧れるような…まるでお姫様のような一室。

途端に恐怖など何処かに消え去った私は、歓声を上げながら部屋に駆け込み、天幕付きのフカフカのベッドに飛び込んだ。信じられないくらいに柔らかくて、良い匂いのする布団に顔を埋めて私はほっと息を吐いた。

うっとりと目を細めながらベッドに横たわる私の背後で、パタン、と静かな音を立てて扉はいつの間にか閉められていた。




私の父親は、何処にでも居るサラリーマンだった。お母さんは、パートで家計を支えて…所謂共働きというやつだ。決して裕福では無かったけれど、それなりに夫婦円満で幸せな家庭だったと私は思う。しかしそれに罅が出来たのが凡そ一年前…

母親が浮気をしたのだ。きっと日頃のストレス故のちょっとした出来心だったのだろうが、父親は嫉妬に狂い暴力を奮うようになった。

母親は恐怖ですぐに浮気を止めたが、父親はそれだけでは飽き足らず暴力を止めなかった。心身共に疲れ果てた母親は遂に離婚を切り出した。

…そして、無事に母子2人の平穏な日々に戻れた…かのように思えたが、まだ続きがあった。父親は母親を諦めていなかったのである。

同意の下で離婚したはずだと訴える母親に、父親は包丁を振りかざした。目を見開く母親、鬼のような形相の父親…全て、私の目の前で起こったことである。

母親の喉を切り裂いた包丁と父親の腕は真っ赤に染まり、飛沫した血が壁を血塗れにした。勿論、私の顔にも多少それは降り掛かり、父親はそれを見て恐れ戦き逃げ出した。

しかし血塗れの状態では直ぐに捕まり、彼は刑務所へと入れられた。そうして私は、母方の遠い親戚であるというゲーチスさんのところに来たのである。

丁度私と同じ年ごろの息子がいるらしいと、お祖母ちゃんが言っていたがそんな彼女も正確には把握出来ていないようだった。

何故私がお婆ちゃんに引き取られなかったかというと、経済的に苦しいからと断られたせい。

娘の忘れ形見なら面倒を見てくれてもいいだろうと思うが、多分私が母親の葬式で一筋の涙も流さなかったのも原因であると思う。言い訳のようだが、何せ目の前で殺人が起これば神経が麻痺するのも可笑しくないと思う。




初めて見た本場のメイドさんが持ってきたご飯はとても美味しかった。しかしてっきりみんな揃って食べるものだと思っていた私は食べ終わったお皿を片付けに来たメイドさんに尋ねた。

「ねえ、皆で食べないの?」

メイドさんは話し掛けられると思っていなかったのか一瞬此方を凝視した後に、曖昧に微笑みを繕って早足で駆けていった。



1人部屋に取り残された私は、寂しさでいてもたってもいられなくなっていた。思えばこの部屋には窓が無くて、下手したらノイローゼになってしまう。

静かにベッドから降りた私は、ゆっくりとドアノブに手を伸ばしてほんの少しだけ開いた。

お祖母ちゃんの言っていた、私と同じ年ごろの息子…。彼に、会ってみたい。そして、友達になれたらいいな…と。

少し開いた隙間から体を滑り込ませて外に出た私は、目的の彼を探すために広くて暗い廊下をまるで忍者のように走りだした。

そして、ある部屋の前でふと立ち止まった。不思議なオルゴールの音色聞えたからだ。

きちんと防音されているはずなのに聞こえるのは、私の一種の能力のようなものだった。どうしても気になった私は、その扉を少しだけ開いて中を伺うことにした。そうして見つけた、萌黄色の髪の少年。

彼は私の存在に気付くと、はっと息を呑んだ。青みがかった灰色の、ビー玉のような瞳が零れんばかりに此方を見詰められた時、私は時が止まったような錯覚に陥った。

部屋を覗く私に向かって少年は、僕と同じくらいの年の子を初めて見たと目を瞬きながら呟いた。私はそれがどうにも信じられなくて、じゃあ貴方は学校に行ってないの?と聞いた。

すると彼は、学校って何?と言ってきたのである。それにはさすがの私も目眩がした。この人は、もしや部屋から出たことが無いのでは…と。

オルゴールの音色が鳴り響く空間は何とも異様な空気を放っていて、取り敢えずずっと廊下から覗いているのも気味悪かった私は少年に許可を取って部屋に入った。

中に入れば、外から見るよりもしっかりと中を見ることが出来、それは贅沢過ぎるほどの子供部屋で、私の部屋と同じく窓は無かった。

「私は名前、あなたは?」

「僕は、N。」

「Nって…変な名前」

私の言葉にNはきょとんとした表情を浮かべて、そうなの?と首を傾げた。本当に分からない様子のNに、私は思わず本当の名前を聞きたくなったがグッと堪えた。失礼だと思ったのだ。

「そうだ、N。私、今日から此処に住むことになったの。よろしくね」

私がそう言うと、Nはぱっと花が咲くような笑みを浮かべて嬉しそうに言った。

「じゃあ、これから毎日君に会えるんだね」



手札に潜むQ/title 吐く声






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