※照美と入れ代わるパロ/
詩的コロナの続き/未完
図書室には寄らずに本を鞄に詰めて走った結果…なんとか亜風炉くんに追い付いたのはいいものの、現在私は躊躇していた。
彼の放つ独特なオーラは、やっぱり案の定私のような人間が気安く話し掛けられるようなものじゃなかったからだ。
そう分かっていながらそれでも何処か期待をしているわけで、なかなか諦めきれない私はまるでストーカーのように亜風炉くんから少し離れた後ろをコソコソと歩き、溜め息を吐いた。ああ、私の家とは反対方向なんだな…と周りの景色を見ながら気付く。
時々ゆらりと傾いたりして危うい足取りで前を歩く亜風炉くんを追い掛けて、このままいっそストーカーになってしまおうかなんて気持ちの悪い思考を巡らしたところで亜風炉くんが歩みを止めた。赤信号。何台かの車が目の前を通り過ぎていき、暫くして信号は青へと色を変えた。
1、2秒くらい遅れて亜風炉くんの歩みがまた始まり、私もそれにあわせて動きだそうとした。だけど、止めた。
いくら話し掛けられない故の流れだとしても、これ以上付き纏って良いことがあるだろうか?あるとしても、きっと酷い罪悪感に苛まれるだろうし、亜風炉くんの気持ちを考えると…。
そう思いつつもゆっくりと歩く亜風炉くんが、横断歩道を渡り切るまでなら見ていても良いかな…と自分に甘い私はその場から離れずに未練がましく彼を目で追った。
その時だった。明らかにスピード違反をしているトラックが、亜風炉くんに向かってぐんぐん近付いてきた。慌てて信号を見るも、まだ赤じゃない、チカチカもしていない。一向にスピードを緩めずに寧ろ加速していくトラックに亜風炉くんは気付いているのかいないのか、おそらく後者だろうがゆっくりと変わらぬペースで歩き続ける。
このままでは彼がひかれてしまう…とまあ兎に角、それに気付いた私はとっくの昔に走りだして亜風炉くんを突き飛ばしていた。
驚いた表情を浮かべて振り返った彼の色素の薄い髪の毛が、私の頬を擽った。
力一杯押したせいで私も一緒に倒れこみ、なんとまあ恐れ多いことに私は亜風炉くんの上に覆い被さってしまう。固いコンクリートに全身を打ち付けた亜風炉くんが痛みで顔を歪める。
どうしよう、怪我とか、大丈夫だろうか?はらはらしていると、突然目の前が真っ暗になり、そして凄まじい頭痛がした。
思わず固く目を瞑った私は気が遠退くのを感じた。ヤバイ、死ぬかもしれない。
重い、体が痛い…それに寒気や吐気等の典型的な風邪の症状…それらが意識を取り戻した私を襲う。おかしいな、風邪を拗らしていたのは亜風炉くんだったけど。
真っ暗だった視界は目蓋越しでも分かりやすいくらいに次第に光を取り戻していき、あの鋭い頭痛も嘘のように引っ込んでいった。
一体何だったのか…それはよく分からないけれど倒れたままの体を起こそうと目を開いた時、私の思考は止まった。
いつも鏡で見ている自分の顔が今、目の前にあった。お世辞にも可愛いとは言えないような私の顔…それが、目を見開いて此方を凝視している。
からからに渇いた喉がヒュッ…と引きつった音を鳴らした。
え、何、何で、どうして…?
私は亜風炉くんの体の上に乗っかっていた筈なのに、下はコンクリート。擦ったらしい肘やら頬やらがヒリヒリする。
目の前の私がぱちぱちと瞬きを繰り返した後に体を起こして私の上から退いた。
今まで感じていた重みは無くなり、私も体を動かすことが出来る。おそるおそるコンクリートに手をついて起き上がると、コンクリートの上に散らばっていた金糸のように輝く髪の毛もさらさらと動いた。
手の色も、白くて綺麗で、どう考えても私自身の手ではない。
……つまり立場逆転、私が亜風炉くんで亜風炉くんが私…?何で、どうして…普通に考えて理解できない!
「あ、亜風炉くん…?」
おそるおそる声を出してみると、やはりと言うべきかとてつもない違和感に身震いした。やっぱり私の声じゃない。
神様はたぶん慈悲のつもりで/title afaik