※照美と入れ替わるパロ/未完
授業が始まる5分前だというのに、私のクラスの女子はキャーキャーと黄色い声と言う名の奇声を発し続けている。
それがあまりにも煩いものだから男子はうんざりしたように顔を顰めて、現状を作った原因を忌々しく睨み付けた。その視線の先にいるのは、人間離れした美しさを誇る所謂高嶺の花─亜風炉照美。
彼のクラスはグラウンドで体育の授業でテニスをするみたいだ。テニスコートに向かって歩いていた足をピタリと止めて、我先にと窓から身を乗り出して亜風炉くん、照美くん、と叫んでいる女の子達に手を振っている。
少し困ったような顔をしながらも律儀に相手しているのはいいが、授業に遅れないのだろうかとそれだけが心配になった。しかし、そんな私の心配も杞憂だったようで彼は遅れて追い付いたらしい燃えるような赤い髪の男子に引っ張られて無事にテニスコートへ去っていった。
亜風炉くんの事は嫌いではないし寧ろ数少ない目の保養として凄く好き。しかし私には窓から彼を見ることは出来ても、奇声を上げるなんて羞恥心を捨てる勇気は無いし…どちらかといえば大人しく上品ぶっていたい。
それにまともに相手にしてもらえるはずがないのだから、今のように遠くから見ているだけで十分かな…と、私はつくづくそう思うし。
このクラスの女子がここまで騒ぐのには理由があり、全員が亜風炉くんのファンクラブ所属で、しかもその中には度を超えていると有名な…つまり、幹部3人とリーダーもいるためだ。他クラスにも勿論ファンクラブの人はいるけれど、まあこのクラスほどじゃないためにあまり騒がない。
そうこうしているうちに綺麗な紅の瞳と一瞬目が合ったような気がして心臓がドキリと高鳴ったが、多分私の思い違いだ。
つまらなそうにやっと各自の席の戻る女子の中に混じって席についてから机の上に既に準備している教科書を開いた。光に照らされて蜂蜜色に輝く彼の絹のように滑らかな髪と、真っ赤なルビーの瞳が脳裏に焼き付いて離れない。
同じ学校で同じ学年なのに、彼はこうも遠い存在なのかとちょっと悲しくなった。
その日の放課後─私は借りていた本を返すべく図書室に向かっていた。分厚い本二冊は片手で持つには少し大変で、両手で抱えながらゆっくりと階段を登る。
丁度角に差し掛かったとき偶々目に入った窓の外に丁度正門を出ていく亜風炉くんが見えたので、何だか良いものを見たなーなんてテンションが上がった。
じっと見るのは良くないと分かっていたけれど、自然と目が離せないアフロディマジック。
その時、一瞬だけど亜風炉くんの体がぐらりと…ほんの少しだけ傾いたのに気付いた私は息を呑んだ。よく見れば足取りも重い。
もしかして具合が悪いのかも知れない。思えば、サッカー部に所属しているはずの亜風炉くんが健康体(急用かもしれないが)でまだ明るいこの時間帯に帰るはずがないのだ。
それに気付いてしまうと居ても立ってもいられなくなって、彼からしてみればいい迷惑だろうと気付いていたけど、心配だし声を掛けてみようと思った。
幸い今日は珍しく亜風炉くんの周りに女の子はいないし、話し掛けてみるなら今かな…と考えを巡らす。
─何だか具合が悪そうに見えるけど、大丈夫?
これくらいなら、臆病で小心者の私にだって言えるはず。
詩的コロナ/title 空想アリア