※人型携帯パロ、病んでる、死ネタ


最近登場した人型携帯電話。それはまあ名前の通り分かりやすく言えば携帯が擬人化したようなものである。そして極め付けはドラえもんも驚愕するその機能。

私はそんな非現実的なものが自分が生きている間に開発されるなんて思っていなかったから、それがショップに並ぶと聞いたとき直ぐに見に行った。

そこでとある人型携帯を見て、あろうことか一目惚れしてしまった。なんということ。勿論その意味、携帯としてその機能が魅力的だったとかいうのじゃなくて、もっと違う別の感情…たかが携帯に恋心を抱いたのだ。うん、衝動買いしちゃった。

「初めまして、マイユーザー。」

綺麗な浅葱色した髪の毛がサラサラと揺れた。人間離れした端整な顔は嬉しそうに笑みを浮かべていて、ビー玉みたいな瞳はキラキラと輝いている。優しそうな店員さんが大切に扱ってあげてくださいねとか何とか私に言うが、ぶっちゃけ横でにこにこしている携帯の表情を見るのに忙しくてあまり聞いてなかった。でも名前はバッチリ聞いた。この携帯の名前は風丸一郎太っていうんだと。


ショップから出ると風丸は辺りを物珍しそうに見回し、やがて私の手を取って満面の笑みで口を開いた。

「俺を選んでくれて、ありがとう」

くらりと来た。携帯っていうから感情とか無くて無表情だったりするのかと心配していたけれど、風丸はよく笑うし杞憂だったみたいだ。相手は機械なのに握られた手は冷たさを感じることは無くて、寧ろ生きてる人間みたいに暖かい。これから私と一緒に色んな景色を見ようって言うと、風丸は楽しみだとまた笑った。




その、風丸が。今私にギラリと鈍く光る包丁を持って狂ったように笑っている。冒頭のように風丸と初めて出会ったのは確か2ヶ月程前のこと。それくらいしか経っていないのに、私は風丸をとても大切に扱い接したはずなのに…何でだろう、彼は壊れてしまったのか。

私は全身全霊彼に愛を注いでいるというのに。まさか、それが原因で今の状況になりましたというなら笑えない。

「なあ、名前は俺のこと、大好き…なんだろ?」

「うん、大好き…愛してるよ」

私は迷いなくそう言った。本当にそう思っているからこそ、迷い無いのだ。風丸はその答えにあの出会ったときみたいに嬉しそうに笑った。だけど、彼の手には相変わらず包丁が確り握られている。

「名前、でも俺…知ってるんだ」

風丸はさっきまでの嬉しそうな笑顔を止めて、次は悲しそうに包丁の切っ先を撫でた。いくら人間っぽいからといってもやっぱり機械だから、その弾力のある皮膚に傷が出来ることはない。

「俺達携帯はユーザーを一途に想い続ける…どんなことをされても。例えば、今名前が俺をこの包丁で刺したとしても、俺は名前のことが大好きなんだ」

そう言って風丸は静かに包丁を私に差し出した。彼の意図が全く分からないが、取り敢えずそれを受け取ると風丸は頷いた。

「…でも、人間は違うんだ。簡単に心変わりして、簡単に俺達を傷付ける。」

それから、風丸はまた綺麗に笑った。

「名前、俺を壊して」

「はあ…!?」

思わず叫んでしまった。だから私に包丁を持たせたのかと思うとゾッとする。言っておくが、私に風丸が壊せる筈が無い…だって、好きなのだし。

「名前が好きだから、心変わりされるなら、いっそ殺してしまおうとか…考えたくないのに…」

「……大丈夫だよ、風丸。人間誰でも心変わりするわけじゃないし、人間だって今の風丸みたいにおかしくなる人いるから」

そう、それを世間ではヤンデレと呼ぶ。そう言えば、風丸は笑った。でも、何だかいつもと違う。私、何か失敗しただろうか。

「名前、ごめん…っ」

グサリと、深々と。それは一瞬の出来事で、私の手の中にあった包丁はいつの間にか風丸が持っていた。振り上げられた包丁がいやな音を立てて私のお腹に埋められていく。

熱い、信じられないくらいに熱くて堪らない。だけど、頭が付いていけてないのか痛みを感じてはいなかった。視界が滲んで、涙がボロボロと零れていく。グリグリと抉るように包丁が食い込む腹から流れる血が風丸の手を真っ赤に染める。

「おねが…名前、が…、俺を、こわ…して」

最後に風丸自身が言った言葉はそれだけだった。私の意識が途切れたとかそういう意味じゃなくて。いきなり目を見開いた風丸は崩れるようにその場に倒れた。驚いて何事かと風丸を凝視していれば、その後に場に似合わない無機質な機械音が流れた。


──実に突然で申し訳ありませんが人型携帯電話はとある事情により危険だと判断されたため、起動を停止します。速やかに係のものが回収しに参りますので、暫くお待ちください──


「…か、ぜま…る、ま…さか、こうなるの、気付いてたの…?」

力が入らなくなった体が風丸みたいにその場に倒れる。そうして見た風丸は目を見開いたままで、何だか可哀想だったので手を伸ばしてそれを閉じてあげた。そうすると、穏やかな寝顔のようになったので私は酷く安心。風丸、私あなたの意図が今分かった。

風丸はこうなっちゃうことが分かってたから、風丸が壊された後時が経って私が他の人を好きになったりするのが怖くて、それでそうなるくらいなら自分が消える前に殺したいと思ったんだね。

それか、強制的にシャットダウンされるくらいならいっそ私に壊されてしまいたかったんだね。成る程。

もう遅いけれど、震える手で自分に刺さった包丁を抜いた。途端に強烈な痛みが走り、私はショックで死ぬかと思った。血もさっきよりダラタラ流れだして、意識も遠退いていく。

最後の力を振り絞って、私は血で滑る包丁を握り締めて風丸の胸辺りに突き立てた。金属に無理矢理刺すみたいな、嫌な音がした。そこから先は、残念ながら分からない。



公式AとBを用いて心を証明せよ/title ドロシー
浅葱色はこんな色








実際にもし人型携帯とかいう感情のあるものが出来たら本当に殺人とか今よりも増えそう。SF映画みたいなのにもなりそうで怖い…

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