※よくある幽霊パロ
私は本当に何処にでもいる普通の女子高生で、容姿も普通だし考え方だって凡人のそれと同じだって自分では思ってる。成績だって、普通に中の中くらいだし…何一つ特殊な部分は無い。
しかし私は高校2年に向けての準備期間である今年の春休みから、普通の人とは全く違うなんともファンタジーで不思議な体験を経験し、数奇な人生を歩むことになろうとは夢にも思わなかった。
そしてその事の引き金は春休み初日の3月の下旬。春の日差し差し込む明るい夜明けから始まった。
妙に肌寒いこの日、学校はもう無いし部活だって私は適当なものにしか入っていないので活動はない。こんな日は遅くまで寝るに限るのだが、早起きの習慣が抜けない私はふと目を覚ました。
寝起きの為か、視界はぼんやりと霞んでいて覚束ない。薄目を開けてパチパチと目を瞬たかせて見えたのは天井、明かりの付いていない照明。ちらつく水色は完全に無視していた。ああ、まだこんなに暗い…まだ寝たい。
しかし布団を掴み深く被ってごろんと寝返りを打ったとき、私はその水色が無視できなくなってしまった。目の前に、自分とそう年の変わらない人が眠っていたのだ。ぴたりと閉じられた瞳、超次元的な変わった髪色。パッと見た感じは女の子のように見えるのに、少し顔から視線を逸らせば意外としっかりとした体付きをしているその人は、間違えてはいけない。男…だ。
ゆったりと熟睡しているらしい彼は全く起きる様子は無くて、私は情報処理が出来なくて頭がパンクしそうだった。
「…はっ?…なん、え?」
自分でも何を言っているのか分からないが、ガバリと起き上がった私はズルズルと彼から離れるように後退りする。しかし勿論ベッドはそこまで広くない。ガクンッと後ろに下がっていた右手が勢い良く下に落ちて、私の体はグラリと傾いた。
ドタン!と派手な音を立ててベッドから落ちた私は、もう気が気じゃなかった。何が起こっているのか分からないが、水色の彼と自分が全くの他人であることは明白だ。自分がベッドから落ちたこともよく分からなくて、冷たい床に背中を付けたまま私まだ寝呆けてるんだ…と思った。
「…あれ、此処どこ…」
それから上から声がしたと思ったら、なんとまあタイミングの良いことにあの眠っていた人がむくりと起き上がった。未だ眠そうにごしごしと目を擦ったその人はそう呟いてからキョロキョロと部屋を見回すと、溜め息を吐いて下を向いた。それで、下に落ちてる私と目が合った。
「…なっ、…だ、大丈夫か?」
無様に床に落ちている私を目を丸くして見る彼は心配しているというよりは明らかに何コイツ…と言いたげで、身を乗り出して私に手を差し出した。え?この手を取って起き上がれってことですか。
しかし私、そんな優しさに恐怖しか感じなかった。差し出された手とその人物の顔を交互に見てから、そして大きく息を吸った。
「ぎ、ぎゃああああ!」
絶叫。
私が断末魔の叫びを喉から絞りだした後、暫くしてドタドタと慌ただしい音がしたかと思うとお母さんがフライパンを片手に扉を開けた。
「名前!?」
驚愕の表情のお母さんは私の絶叫で叩き起こされたっぽくて、整えられていない髪はボサボサだ。ぎゅっと握り締められたフライパンは、多分変質者撃退のための武器で、そんなお母さんが格好良く見えた。
「お、おかあさん…!」
目の前で青ざめている水色の人から離れるように急いで立ち上がり、お母さんのもとへ死に物狂いで駆け寄りしがみついた。勇者なお母さんはそんな私を背後に庇うと、警戒しながら部屋の中に足を踏み入れた。
「ベッド!知らない人がいる…!」
私の言葉を合図に、お母さんは鋭くベッドの上を睨み付けた。
「ちっ、違います!すいません、俺何で此処にいるのか分からないんですけど…すぐに出ていきますから!」
私が指を差す方向にいる水色の髪の人は慌てふためきながらあわあわと両手を振る。さながら俺は無実だと訴える容疑者のようである。
「そ、そんなこと言って…!どうやってうちに入ったの!?」
それに負けじと言い返す私はもう自棄になっていた。せっかくの春休みなのにこんなことってない。お母さんがきっと警察を呼んでくれる…そう思っていた私だったが、気付いたときにはお母さんが怪訝な表情で見ているのはベッドの上じゃなくて私だった。
「…名前、それはベッドの上に向かって言ってるの?」
「…え?」
ぽかんとした私に、お母さんが遂に爆弾を投下した。
「何もないけど…」
何もない。つまりは、私が今見ている男がお母さんには見えていないということなのだろうか。ベッドの上で必死になって弁解していた彼も、ビックリしたみたいで口を開いたまま固まっている。
「…名前、多分寝呆けてるのね…。あー慌てて来て損したわ…お母さんまだ寝るわね…」
1人納得したように頷きながらふあーと欠伸をしたお母さんは構えていたフライパンを下ろすと足早に去っていった。そして無情にも締まる両親の寝室の扉。因みにお父さんは出張で今日の夕方に帰ってくる。
私はああ言ったお母さんを引き留めることが出来ず、その場に茫然と立ちすくんだ。まさか私、見えてはいけないものが見えてしまっているのだろうか…?
漸く水色の髪の彼は開けっ放しの口を閉じて何か思い当たりがあるように苦笑した。そんな異様な彼を思わず凝視する私。それから彼はすこし言い淀んだ後に私が危惧していたことをキッパリと言い切った。
「そういえば…俺、多分幽霊なんだ」
アンスラクソライトに沈む摩訶不思議始動/title 吐く声