全身がふわふわと浮いているような感覚がする中、おでこにひんやりと何か冷たいものが乗せられた。それはさわさわと前髪を撫ぜるように弄び、そしてすぐに離れて行った。瞬間、私の体はストンと固い何かの上に着地した。気分は飛行石で空をフワフワ浮いた後に地面に横たわったような感じだ。目の前の霧が晴れるように、夢の中から覚醒した。
…生きている。
体の感覚もしっかりしているし、眼球もきちんと動く。試しに指先をすこし動かしてみると、何事も問題なく動いた。それからゆっくりと瞼を持ち上げるとぼんやりと淡い光が目に入り、先ほどとは違う場所なのが分かる。少なくとも私は冷たい廊下に倒れていたりするわけではなく、すこし硬めのシーツの上にいるようだ。鼻につく消毒液の匂い。なんだ、病院か。
そうだ、普通に考えてみればあれが現実であるはずがない。真っ暗闇、私の首を締める冷たくて硬いあの手。チカチカと点滅する視界…今思い出しても寒気がする。そう、現実であるはずが…

「やっと、起きたのかよ」

ぴしりと身体が硬直する。自分の他に人がいるような気配はなにひとつなかったのに…。背後からかかった声は多分私に向けられたもので、それは明らかに少年の声である。青淡くて白い光の中、ふと、これは蛍光灯の光とはなんだか違うものだと気がついた。恐る恐る後ろを振り向くと、確かに背後には少年がいた。しかし、その人は可笑しかった。

「あ、貴方…

なんで、光ってるの?」

こちらをにやにやと伺う少年は青白い光を纏い、確かに私の前にいた。
鳶色のすこし跳ねた髪の毛、フランス人形のようにぱっちりとした目。青白く発光している肌は、まるで死人のように色味が無い。しかしそれでもきめ細かで若々しい様子は衰えることなく、触れば柔らかそうだ。その作り物めいた端正な顔立ちが、余計に少年を不気味で非現実的に見せていた。
私の疑問に少年はキョトンとした顔をすると、それも一瞬で、次は興味深そうな様子で楽しそうに口を開いた。

「へぇ…この世の人間からみれば、俺達のような存在は光って見えるのかな」

「…どういうこと?それじゃあ、貴方みたいな存在は私たちとは別の存在だっていうの?」

私の問いに、少年は再びにやにやと不気味な笑顔を浮かべ始めた。自然と私は両手に力を込めていたみたいで、手のひらに食い込んだ爪が皮膚を突き破るような鋭い痛みを感じて慌てて力を緩めた。少年が、口を開く。

「そうだなぁ…まあ、守護霊…みたいなものだと思ってくれていいよ」

「守護、霊…幽霊?」

首を傾げる私に、少年は微妙な顔をしながら頷いた。幽霊、という言葉がお気に召さなかったらしい。しかし、特にそれを指摘してくるわけでもなく、そんな表情はすぐに元に戻った。

「普通、俺達は人前に姿を表すことはしないんだ。だけど、今回は特例だ」

そういうと、少年はひゅっと指先で空を切った。途端に、青白い光がすこしだけ分散して何かを形作り始める。それは、何本にも別れた木の枝先の様なものだった。

「お前は今、本来在るべき次元ではない場所を彷徨ってるんだ」

枝先の光の筋に、赤く点滅する光が一つだけ
あちこちに行ったり来たりしているのがなんだか不気味で、私はごくりと唾を飲み込んだ。心臓がばくばくとやけにうるさい。

「この赤い光がお前。常に点々と次元を移動しているのが分かるか?お前を元の次元に戻すことが俺の目的なんだ。背後霊に任せようにも、多次元に干渉できるほどの高位のものはお前にはいないし」

少年はそう言ってから再びひゅっと指先を振った。広がっていた根のような光の筋は靄のように散っていった。
非現実的すぎる話と目の前の不思議な現象に私はどう反応すればいいのか分からなくて、ただぽかんと間抜けに口を開けたまま固まった。







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