開いた職員室の扉から零れる光に真っ黒なシルエットが浮かび上がり、それを見ただけで額からつま先までスッと冷たい何かが降りてきたような気がした。
ーやばい、見つかってしまう。
瞬時にそんな言葉が頭を過ったが、それは叱られるからやばいとかではなくて、純粋に生命の危機的な何かだった気がする。
…パチン。
その音が響いた瞬間、あたりは急に闇に包まれた。すこし遅れて、職員室の明かりが消されたスイッチの音だと理解する。見えない、黒い黒い、空間。なんどか瞬きを繰り返すもあまりに真っ暗なせいで自分が目を開けているのか閉じているのかさえ分からなくなってくる程。
そんななか、カツ…カツ…と誰かが歩く音だけが嫌に聞こえた。直感で、これは先生なんかじゃなくて、なにか別のものだと悟った。
音は確実にこちらに近づいてくるものだから、怖くて怖くて、喉の奥が変な音を立てて引きつったとき、相手の靴の音がピタリと止んだ。カタカタと体が震える中、ひゅっと、微かに風を感じた。
ガッ… そんな音が聞こえてきそうだった。
氷みたいに冷たいなにかが、わたしの首を勢いよく掴んだ。窒息死しそうなほどは強くないけど、圧迫感や吐き気がつきまとうような程度。それはだんだん痛みを伴ってきて、私はそこで初めて自分の首を締める何かに手を這わせた。
冷たい、氷のように冷たいけど、それは確かに人の手の形をしているような気がした。黒い筈の視界がチカチカと白く点滅し始めて、ぐらりと世界が揺れる。それに伴って首の力はググッと増してきた。ああ、殺される…!

冷たい手を探っていたわたしの手の力が抜けて、だらりと垂れ下がる。極限まで見開いていた目をゆっくりと閉じると、じんわりと指先からなにか暖かいものが這い上がってくる。もう息苦しくは感じなかった。





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