私の愛すべき後輩であるトウヤくんには、双子の姉がいる。その子の名前はトウコちゃんと言って、バレー部所属で明るくスポーティーで活発な女の子。彼女は何故だか私にとても懐いていて、始終付き纏ってくるのだけど…この日だけは違った。そわそわと何かを待つように、私を遠巻きに見るのである。

何も知らない私はそれを嫌われたかと勘違いしてしまい、何だか泣き出したい気分になってしまう。例えば、飼っていた愛犬が脱走して悲しいみたいな…そんな心境。落ち込む私を見兼ねたのか、普段は決して自分から来てくれることのないトウヤくんが近付いてきたのだからよっぽどだったのかも。

「ああ、なんだ。」

そんな私の悩みを、彼はただそれだけで納得したように頷いた。真相の未だ分からない私はもしかして帰宅後に2人して私の悪口でも言い合ってるのかとびくびくしてしまう。怖いよ、怖い。しかしそんな私の予想に反して、事態は至って単純だった。

「今日、誕生日だから。先輩からのプレゼントでも欲しいんじゃないですか?多分。」

何それ聞いてない!硬直した私に、トウヤくんは今更みたいな感じで知らなかったんですか?なんて呆れたように見てくるが、いや私は悪くない筈だ。仕方ない。プレゼントは後日で、今日はお祝いの言葉だけでも言っておこう。しかし私はそこで気が付いた。トウコちゃんとトウヤくんは双子…ということは、誕生日が一緒。だというのに、比較的いつもと変わらない対応の彼と、全く違うトウコちゃん。性格の差って凄いなぁと改めて思った。…というか、彼にとって私に祝福されるということは別に重要ではないのか、根本的にどうでもいいのか。

「え、トウヤくん…は、誕生日…だよね?」

思わず確認したくなるくらい。いよいよ本当に呆れましたみたいな顔をしたトウヤくんは、聞くまでもないでしょう。当たり前じゃないですかと早口に告げた。うん、そうだよね。ごめん、謝れば溜め息を吐かれて、流石の私も申し訳なくなった。

「えっと、じゃあ。誕生日おめでとう」

じゃあって何ですか、不満げにそう言ったトウヤくんに再び謝れば、彼は遂に不貞腐れたようにそっぽを向いた。それは申し分なく可愛いのだけど、申し訳なさすぎてそんなこと言ってられない。どうやったら機嫌が良くなるのかとか考えてみても、頭の悪い私の考えなんてたかが知れていて。

「あー…、プレゼント、何が良い?」

迷った末にそう聞くことにした。漸く此方を向いたトウヤくんの機嫌はまだ宜しくない。そんなの、先輩が自分で考えて下さいなんて、私のセンスは皆無なのに無茶だ。しかし聞く私も私である。…よくよく考えれば顔から火が出るほどの羞恥に苛まれるのだが、この時私は何を血迷ったのかこう提案したのだ。

「じゃあ、私自身…なんてどう?」

言った瞬間後悔した。なんて馬鹿なことを言ってしまったんだと。きょとんとしたトウヤくんの目が驚いたように大きく開かれて、なんとも言えない沈黙。最早後戻りできないほどしっかりと発言したことを誤魔化すために漸く私は口を開こうとしたが、トウヤくんが話すほうが早かった。

「…先輩にしては、随分と粋な提案ですね」

そして私はその言葉の意味を理解しようとするまもなく、大人の階段を上りかけるのである。



いのちにときめきを求める/title 告別




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