担任の先生が、お前はやれば出来る子だなんて有りがちな台詞を言いながら慰めるように肩を叩いた。そんな私の手の中には、一枚の"紙切れ"…こんな風に言うと何だか大したことないようだけれど、問題はその紙切れに書かれている内容だった。それには、いくつもの赤い数字の羅列。先生がやけに哀れむような目をしていたことが、この結果の悲惨さを物語っている。嘘…どうしよう、まさか留年とか…ないよね。私の呟きは結果に騒めく他の生徒の声に掻き消されて聞こえなかった。




「馬鹿ですか。ああ、馬鹿でしたね」

トウヤくんは紙切れを見てそう溢した。凄い冷めた目をしているので、本気でそう思っているのだと気付いて居心地が悪くなる。はい、私は馬鹿です。大馬鹿者です。非を認めるように頷くとトウヤくんは呆れたように溜め息を吐いた。

「赤点。1、2、…3つ。有り得ないです。いくら何でも頭悪過ぎて寧ろ笑える」

そう言っているのに、トウヤくんが本当に笑うことは一瞬たりとも無かった。そう、お察しだろうが例の紙切れというのは私の期末テストの結果の書いてある忌々しい成績表のことである。

「今時馬鹿でもこんな点数採りませんよ。一桁って…先輩、…進学大丈夫ですか?」

「…いいもん。トウヤくんのお嫁さんになるから心配ない!」

トウヤくんが心配してくれたことが嬉しくて、少し元気が出てきた。冗談混じりにそう切り返せば、トウヤくんはそんな私を余裕の笑みさえ浮かべながら鼻で笑ってあしらった。

「は、先輩の未来計画に勝手に俺まで巻き込まないで下さい」

酷い。地味に傷付く言葉になんとも言えない表情をしている私の様子なんて見向きもせずに、トウヤくんは深刻そうに成績表を見つめてから、ふと口を開いた。

「ねぇ、先輩。勉強、教えてあげましょうか?」

「えっ!?いいの?」

思いがけないほど有難い提案である。直ぐ様表情を明るくした私に、トウヤくんは満足そうな表情で頷いた。しかし考えてみよう。私と彼の関係は、彼氏彼女以前に先輩後輩なのだ。

「…私とトウヤくんって学年違うけど」

「そこは心配ありません。俺、知り合いにとんでもない奴が居るんで…理数は出来るんです」

見たところ、先輩は理数が駄目みたいですし。

「えっ?でも英語…」

「…は?先輩知らなかったんですか?」

「何を…?」

「俺、帰国子女ですよ。」



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