トウヤくんは優しい。私の隣を歩く彼の横顔を見つめながら、私は幸せな気分に浸っていた。ザアザアと土砂降りの雨、その湿気で髪はボサボサになるし濡れるし跳ねるしで災難しかないけれど、それでも好きになれる気がする。私は今、トウヤくんと相合傘をしているのだ。

「トウヤくん、ありがと」

「別に」

私がにっこりと笑みを浮かべてお礼を述べると、トウヤくんはぶっきらぼうにそれだけ言って外方を向いた。その時に見えた、びっしょりと濡れたトウヤくんの右肩を見て、あ、これって少女漫画とかでよく見るやつだ、と的外れな感動を覚えた後、きゅんとした。さりげなく道路側を歩いてくれていることにもきゅんとする。

「…ふふっ」

思わず笑みが漏れてしまい、そんな私をトウヤくんが怪訝そうに睨んだ。猫のようなアーモンド型の目は、長い睫毛に縁取られていて作り物めいているけど、瞳は暖かい。キラキラと輝くような鳶色のそれには、幸せそうな私が映り込んでいた。

「…なんですか」

「ううん。あのね、トウヤくんって実は私のこと結構好きでしょ?」

「……はあ?」

ふるり、とトウヤくんの手が揺れて、傘が傾いた。淡い水色のその傘は、絶え間無く端から雫を落としていたのだが、傾くと同時に片寄った方に水滴をボトボトと落とした。うわ、冷たい。思わずビクリと体が跳ねてしまい、水が跳ねたところを見るとシャツが少しだけ透けて肌色が濃くなっていた。ちょっとズレただけでこうなるなんて、トウヤくんの肩大丈夫かな。

「そういうの、自意識過剰って言うんですよ」

暫くしてトウヤくんがいつもの調子で口を開き、そして傘の傾きは元に戻った。再びボトボトと水滴が端から零れていく。動揺していた割にトウヤくんの声色は淀みなくて、ちょっとだけ面白くない。

「えー、違うの?…期待してたのに」

「残念でしたね」

でも、そう答えるトウヤくんの顔をシャツから目を離してチラッと伺うと思いの外ほんのりと赤くて驚いた。声色に変化は無かったけど、彼は確り照れていた。またきゅんと胸が疼いて、此方まで顔が火照ってくる。トウヤくん、可愛い。

「あはは、顔赤いよ!」

「…っ、先輩の気のせいです」

指摘すると、余計に顔を赤くして片手で顔半分覆い隠したトウヤくんは不機嫌そうにフイッとまたそっぽを向いてしまった。でも、そんな彼が可愛くてもっと弄りたくなってしまう。照れて私の顔をよく見れないらしいトウヤくんは、私の顔がトウヤくん以上に赤いことに気がついてない。

「ふーん、そう?じゃあさ、好きか嫌いかで言うとどっちなの?」

「…こうやって後輩を追い詰めようとする性悪な先輩は嫌いです」

ついに弄り過ぎて臍を曲げてしまった彼はそれから黙りを決め込んでしまって一言も喋らなくなってしまったけれど、私を雨の中置いて行ったりはせず歩幅を合わせてくれている。いつもはからかい過ぎたらスタスタ前を歩いて先に帰ってしまうのに、やっぱりトウヤくんは優しい。

コンクリートに落ちる雫の波紋が少しずつ弱まっていくのを見ながら、こんな雨の日だったらいつでも大歓迎だな、と頬が緩んだ。


彼女は魔女になりたがっていた/title 告別



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