突然で申し訳ないけど、私にはとっても可愛い後輩がいる。白くて綺麗な肌に、色素の薄くて柔らかそうなふわふわの茶髪。私の目の前で不機嫌そうに眉間に皺を寄せている彼だが、仏頂面にも関わらずその美しさが損なわれることはなかった。

「…は」

気の抜けたような、感情の籠もっていない音だけのような意味のない一音。それは確かに彼から発されていた。窓の開いた教室はいっそ煩わしいくらいに風の通りが良くて、舞い上がったカーテンがバサバサと音を立てた。

「…ふざけてるんですか、」

キッと鋭く睨まれて、私は思わずぐっと言葉に詰まった。勿論だが、今この状況の中…私はひとかけらもふざけているつもりはない。

「ふざけてなんかないよ。私はトウヤくんが、本当に好きなんだもん」

トウヤくんが面倒臭そうに、益々眉間に皺を寄せた。まさか異性からの告白を受けて、こんな嫌そうな顔をする人間がいるなんて知らなかったから、私は一体いつの間にこんなに嫌われているのか分からないと心底疑問に思った。

「…で?先輩は一体何がしたいんですか?」

そう、トウヤくんは一つ下の学年の、後輩。私は、年下にも関わらず年齢よりも落ち着いていて大人な雰囲気を漂わせる彼に、落ちた。何がしたいか、なんて決まっているじゃないか。

「私と、付き合ってほしいな」

どきどきどき、教室にある時計のコチコチと時を刻む音がやけに大きく聞こえると同時に、私の心臓も高鳴っていく。情けないくらいに顔に熱が集まって、今まで生きてきた中でこれほど緊張したことがあるだろうかとぼんやり思った。

「…俺のどこが好きなんですか?」

てっきり告白の返事を告げられると思っていた私は、その問い掛けに言葉に詰まった。トウヤくん、の、どこが、好き…?何処だろう。全部好き…だなんていう言葉がしっくりと当て嵌まるような気がしたけれど、でも、それはとても安っぽいような気がした。

そんな短い言葉では括れない程、私は私なりにトウヤくんのどこがどうで好きだとか、きちんと確定しているのだ。今気付いたけど。でも、その確定は、的確に相手に説明できるほど私の中で言葉になってはくれなかった。

「…やっぱ、いいです」

ぼそりと、私が真剣に考えていた問い掛けが、無かったことにされてしまった。私の目を見てはくれない、何処か寂しげな瞳。

「どうせ、先輩も。俺の顔なんじゃないですか?そう言う奴は、今まで沢山見てきたし今更なんで、気にしませんから」

じゃあ、なんでそんな瞳をするの?心に浮かんだ疑問は、ゆらゆらと不安定に揺れて萎んだ。呆気にとられた私に、自嘲するような笑みを口元に浮かべたトウヤくんがその後いっそ吐き気がするくらいに綺麗に繕った笑顔を浮かべて口を開いた。

「良いですよ、別に付き合っても」

その瞳は何処までも澄んでいるのに、でも何故だか淀んで見えた。貴方は一体何を求めているのか、私には分からない。でも、酷く何かを渇望しているという隠された欲望を感じ取ることができるくらいには私はトウヤくんをきちんと見ていると思うと何処か嬉しかった。

気持ち悪い?そんなの今更。

結果としては、私はトウヤくんに付き合ってもらえることになったのだから、告白は成功だと、思った。



世界は狭くなっても胸は苦しくないね/title 花脣



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