蜜月に差す翳り〜発端 5


爆発の瞬間までやり取りをしていた公安鑑識との通話を「回線の件はまた連絡する!」と切ったあと。零はしばしの間左手で手庇を作りながら、目の前の光景に目を見張っていた。

やられた……!ネット回線を悪用した爆破テロの可能性を考えていた矢先に!

火の手が上がる方、もとい国際会議場だった建物は、見るも無残に崩壊し、灼熱の炎に舐められ包み込まれようとしている。零の視界は、あの忌々しい色が見え隠れするオレンジ色に染まっていた。年の初めに愛理と訪れた神社で引いたおみくじの内容が、なぜこんなときに唐突に、そして鮮明に蘇ってくるのだろう――「赤にまつわるものに注意せよ」と書いてあったあれが。

爆発の瞬間に咄嗟にカバーしたとはいえ、轟音を至近距離で耳にしたせいで三半規管がいつも通り機能しそうにない。そこへ焼き切れ倒れてきた柱が零を現実に引き戻す。同時にそのせいか、右頬と右腕に鋭い痛みが走り始めた。特に腕には血が滲み始めている感触がする。スーツのジャケットとワイシャツまで裂かれたのだ。直撃していたらきっと……出血が収まるよう腕に手を当て即席の止血をしながらも、安全確保と状況確認のため走り出す。

勢いを増すばかりの火の手。舞い散る火の粉と襲い来る熱は、一瞬のうちに切り傷擦り傷などを負った零の肌を容赦なく焦がしヒリヒリさせて、彼はもともと浅黒い地肌の色がより濃くなっていくような錯覚にさえ陥った。これが灼熱地獄、いやもしかしたら地上に現れた煉獄だとでもいうのか。

「くそ、何が起こった!?」
「退避!退避ーッ!」

怒号、それと誰かが声を枯らして避難を促す声が、ゴウゴウと燃え焼け落ちていく建材の立てる音を割いて飛び交う。零はようやく正面出入口(今となっては、「正面出入口だったところ」と言った方が良さそうだ)に着いた。爆風で吹き飛ばされたのだろう数台の車が横転している横を抜ければ、風見をはじめ捜査員の一団が集まっているのが視認できたが、零は先ほどとは違う意味で目を見張った。

――皆、ひどい有様だった。足が明らかにおかしな方向に折れている者に肩を貸し、気を遣いながら移動する者が見える。誰かの上着の上へ寝かされた跡良日出子は血だらけで顔面蒼白。「しっかりしてください!」と周りが呼び掛けているがピクリとも動かない。あの様子では危ないだろう。そこへ建物の中から、一目で判るほどの火傷を負った者が手で口を押えながらどうにかフラフラと脱出してきて……。

そんな中、風見が零の視線をすかさず受け止めて彼のもとへ走り寄った。右腕は額と鼻を負傷したようだが、外にいた分ひとまず命に別状は無さそうだ。その無事に一瞬安堵した零だったが、いつまでもそうしていることは許されない。まして、このさなかでは。

「状況は」
「負傷者及び要救助者多数、捜査員並びに民間人数名が未だ屋内に取り残されている模様!所轄ならびに本庁の応援、消防と救急は要請しました!応急キットが車に積んでありますので降谷さんも早く手当てをっ」
「わかった。だが僕は後で良い、重傷者を先に!」
「は、はい!」

要救助者の大多数を占めるのは公安の人員だろう。いや、だが絵の搬入業者もいたはず……! 部下から聞き取った後、零は痛みを意識しないようにしつつ、それから風向きにも気を付けつつ建物と十分距離を取った。そうしないと煙で肺を、熱で気道をやられる。特に今回のように建材が燃えて発生したものだと有毒物質を多量に含んでいる可能性が高く、時限爆弾のように後からダメージが来るのだ。

そしてスマホを取りだすや素早くプッシュしたのは、裏の理事官の番号。状況の第一報を入れるとともに、今後の指示を仰ぐために。

“私だ”
「12時14分際会議場にて原因不明の爆発発生、死傷者多数の模様。民間人数名も……」

コール音が鳴るや否や応答があった。だがそのごく短い間に、零は唇を無意識のうちに強く噛んでいた。だから、その通話の最中淀みなく報告をしたけれど、それからしばらくの間も、あの色をした味が口の中を染め上げる不快感と、この国を脅かした者への怒りがこみあげてくるのを止められなかったのだ。




一方、爆発から十数分後の米花市はメゾンモクバ。愛理の何でもなかった春の休日は、降って湧いた非日常に踏みにじられようとしていた。

“愛理さん、今から僕の言うことを聞いてすぐに動いてくれ!もう一度言うがすぐにだ!”
「え?あの、どなた……」

戸惑いながら愛理は問うた。先ほどナンバーディスプレイには【透さん】と表示されたのを見てから出たのに、聞きなれた声のいつもとは全く違う口調だったからだ。

“……!〜〜〜!!”
「透さん、ちょっと聞こえないんだけど」
“〜〜、――する……”
「聞こえてますか?ねえ、透さんってばー」

愛理は何度も呼び掛けた。透の電話のバックがとても騒がしくてよく聞き取れない。けたたましいサイレンの音が止んだと思えばまた聞こえてきて、通話の間に何度も割って入る。消防車、それから救急車にパトカー。サイレンを鳴らす車が全部揃い踏みしているようだ。それも何重にも聞こえてくることや音量からして、一台二台ではなく何台も来ている様子で。

“〜〜〜!!!”
“要救助者多数!”

加えて何人もの人々がバタバタと慌ただしく行き来して立てる足音、ほとんど怒鳴り声のようなボリュームで交わされるやり取りも通話を掻き消してしまう。

どういうことなの?愛理は自分でも気が付かないうちに汗をかいていた。聞いているだけでも緊迫した状況が伝わって来る。ただならぬことが起こったのだ、まだ詳しい情報が判らなくてもそれだけは嫌でも解ってしまったから。

「透さん、ひょっとして探偵のお仕事中に何かすごいことに巻き込まれて助けてって言ってるの?ねえ、どういうこと!?」

叫ぶように訊いたけれど、ちゃんと届いてはいないかもしれないことを愛理は心のどこかで解っていた。同じタイミングで何かが崩れたかのような轟音に遮られてしまったからではなくて、もっと、別の……。

“いや説明している時間が無い!とにかく僕の言った通りにできるね?というより絶対にそうするんだよ!”

愛理が二の句を継ぐ前に、透もとい零は矢継ぎ早に指示を飛ばす。

“まず、家の鍵や財布やスマホや制服に教科書とか、とにかく手元に無いと困るものを纏めてハロも連れてメゾンモクバを出ること!今何かしていたならそれを中断してでも!”
「え?え?ねえ透さん?」
“そして梅濤の家の方にすぐに移ってしばらくそこで暮らすんだ、メゾンモクバには当分近寄らないで!”
「そ、そんな急に言われても。それに運転手さんママと国際会議場行ってるし」

愛理は困ってしまった。ただごとではなさそうな様子に緊張感を覚えたらいいやら、喜んでいいやら。透さんの声が電話でも聞けたのは嬉しいけど、そんな話なんて聞きたくなかった……。

だが、そこへ透のバックから聞こえてきたあるやり取りに、思わず愛理は息をのみスマホを取り落としてしまった。

“本部本部。港東区国際会議場よりアトラヒデコさん搬送します、聖マ女医学部附属病院が受け入れ態勢……”
「!?」

心臓がバクバクと鳴り始める。国際会議場。ママと運転手さんが今日そこに行ってるのは知ってる。だけどママの名前がどうして透さんの電話越しに聞こえたの?搬送って、国際会議場でママに何かあった?聖マ女って言ってたけど、それってうちの大学の医学部附属病院のこと?でも同じ名前の違うひとなんでしょ?ねえ、お願いだからそうだって言って……誰に向かってぶつけていいのかもわからない疑問が、次々と愛理の頭の中へ噴き出しては、声にならないまま消える。

“……さん!愛理さん!?聞こえるかい!”

しばし応答が無くなったが、大方驚いた愛理がスマホを床に落としたんだろう。零は電話越しに立った音に見当が付いていた。ハロがいたずらでそういうことをした時と同じ音がしたから。

そして、当然予想してもいた。ああ、ハロにも愛理にも。この状況ではきっと当分……。

「透さん待ってママと一緒なの?!なんだかすごいことになってるみたいだけどママどうなったの!?ねえもしかして透さんエッジ・オブ・オーシャンにいるのっ?なんで、何があったのっ」
“あと申し訳ないけれど、当分連絡は取れないし愛理さんもしないでくれ!とにかく今すぐにさっき言った通りのことをするように、運転手さんがいないならタクシーでも何でも捕まえて、繰り返すがさっき言った通りのことを!じゃあ切るよ!”
「透さんってば!」

ママは国際会議場でどうなったの、透さんは今どうしてるの、それに当分っていつなの……切れた番号にリダイアルして聞きたいけれど、そうしてはいけない気がする。今ばかりは素直に透の指示を聞いて言うとおりにするべきだと、直感が告げていた。

部屋で一番大きな、ベランダに面した窓から外をチラッと見やった。いつも通り平穏無事な米花町(ちょうど目の前の道路を、全身真っ黒な出で立ちでポメラニアンを散歩させている人が通り過ぎて行った)が見えるだけ。ほらやっぱり、何も起きてないでしょ……メゾンモクバから国際会議場の方向は見えないことに、愛理は目を逸らしていた。

だが、それはそうと準備をしなくては。耳に残した透の声に急き立てられるように始めたが、うるさく騒ぎ続ける愛理の心臓は彼の声さえ上書きしようとしているかのようだ。

「えっと、透さんなんて言ってたっけ。スマホにお財布に、制服と教科書……あと鍵……」

持って行かなくてはならないものを呟きながら、愛理は一番大きなカバンに手当たり次第にあれこれ詰めていく。母が見ていたら「みっともないわよ、ちゃんと整頓なさい」と言われただろうけれど、いつもなら鬱陶しくて反発するその声はしてこない……もしかしたら、二度と、聞けないの? 愛理は怖気をふるった。

それに、声といえば。愛理が知る透のそれはいつだって甘く優しく、時には真摯に艶っぽく、また別の日にはちょっといたずらなテノールだった。「愛理さん」と呼び掛け、囁き、色々な知識を披露したり、褒めてくれたり、不安をかき消したりしてくれた(あと、わざと意地悪を言ってからかったりも)。だというのに、先ほどの電話ですっかりそうした声が塗りつぶされてしまったように感じる。

そこでそうだ、ママに電話したら早いかも……そう思って愛理は母の番号に掛けたが、応答したのは“お掛けになった電話は、現在電源が入っておりません”という機械音声だけだった。基本的にRineでやり取りをして、緊急の時だけは電話で連絡という取り決めになっているのに、これではどうしようもない。

するとそこにまた着信が。今度は母の秘書からだ。

“お嬢様ですか!あのっ先生が、跡良先生がっ!”

いつも冷静に母を支える敏腕秘書が、いつになく慌てている。彼女は荒い息を整え深呼吸をしたあと――残酷なことに、透が先ほど告げてきたのと同じ内容を伝えてきて、母に一大事が起こったことを愛理に突き付けたのだ。

“絵の搬入に行った国際会議場のあたりで何かの事故に巻き込まれたんです!聖マドレーヌ女学園の医学部附属病院に意識不明の重体で運ばれてっ、もしもし!”

「わかりました、今行きますっ」と応じた後、危うく忘れかけていたが忘れてはいけないことを思い出す。

「ハロ、おいで。しばらく私の本宅で暮らすの」
「クアンッ!」

恋人の愛犬は、日なたで微睡んでいたけれど愛理の声を聞くや跳ね起きた。一旦奥の部屋へ駆け込んだかと思えば自分のリードを咥えて来て愛理に渡し、彼女が促すよりも先に、すぐにペットキャリーに大人しく収まってくれた。「いつでも大丈夫」と言ってくれているのだろうか。おかげで愛理はほんの少しだけ心が安らいだ。

ただ、ハロのために持ち込まれたもののうち、リードなどはさておき、開封済みのフーズやらペットカメラ、トイレなどまでは愛理一人ではとても持っていけなさそうだ。落ち着いたらすぐに同じものを取り寄せなくては。愛理はフーズなどのパッケージを撮影し、バタバタと部屋を出た。ドアを施錠してあわただしく1階までの階段を下りきったとき、はたと思い出す。

「あっ……あのブックカバー!忘れてきちゃった」

クリスマスプレゼントに透からもらったあれを荷物に入れていない。愛理はガックリと肩を落とした。

するとその横を駆け抜けた人がいた。日売テレビのロゴ入りジャンパーを着たクルーだ。何かの取材だろうか。しかし無精ひげを生やした若いADと思しき男性は、ベストポジションであろう場所を確保し、脚立を立てるのに夢中で愛理に気が付かない。ついでに、そばを通りかかった通行人の迷惑そうな顔にも。

「どこまで?ちょっと早くしてくれるかな」

すぐ近くを通ったところを拾ったタクシーの運転手は、タバコのヤニまみれのだみ声で無愛想に急かす。家に仕える運転手は、愛理にはいつだって恭しいのに。

「え、えっと。渋谷区梅濤……」
「はいはい、ったくいい身分だねえ嬢ちゃんよぉ、そんくらいの距離でさ。え?」

住所を告げ終わるかどうかのうちに運転手は遮るように言い、車を急発進させた。まだキャリーを固定していないのにそうされたせいで、可愛そうなことにハロは「キャン!」と悲鳴を上げた。

そして、その間にもメゾンモクバは段々と遠ざかり――ついに、見えなくなった。




時を同じくして国際会議場では、消防の懸命の消火活動により間もなく鎮火の見込みが立っていた。重症の捜査員や民間人を搬送する救急車も、数台が連なって走り去っていく。今となっては建物が燃え盛る音よりも、実況見分のため走り回る応援要員らの足音の方が代わりによく聞こえるようになっていた。

「本当によくやってくれた……風見。ほかの人員や跡良先生も助けて君も生還するとは」
「恐縮です」

比較的軽傷だった風見は、すぐに動くことができた。跡良日出子(彼女は爆発が発生した時点では建物の割と奥まったあたりにいたが、車をも吹き飛ばす威力の爆風だったから出入口手前あたりまで吹き飛ばされてきたのだ)をはじめ、数人を助け出していたのだ。

しかし、心肺停止状態の数人が先ほど搬送されていく様子を見たからだろう。零に掛けられた労いに、風見は硬い表情のまま言葉少なに応えた。確かあの中には、風見の同期もいたんだったよな……零は部下の内心を慮りながら、別の人員からようやく応急手当を受けつつ、これまでの状況の整理とこれからの「違法作業」の計画を考案していた。

被害状況や人的被害の確認も概ねまとまり、報告も済ませたところだ。そしてそれを受けた〈上〉が決定したことがいくつかある。

まず、跡良日出子はじめ民間人に被害が出たことは「公安的配慮」により第一報の段階で伏せて(と書いて、「隠蔽」して)おくことになった。すなわち「国際会議場で爆発事故に遭った」のではなく、「“国際会議場の近辺”で“何らかの事故に”巻き込まれた」というシナリオがもう出来上がっている。当然、このことはジ〈刑事部〉はじめ他の部にも秘匿する……などなど。

それにそのあと、零は風見に命じ、高圧ケーブルの格納扉に「あること」をさせた。それから、安室透として愛理への連絡も済ませていた。跡良日出子だけでなく今日出入りする民間人のスマホは、国際会議場へ入場するにあたり電源を切らせている。だから、別の部下に跡良日出子の秘書に連絡を取らせ、そこを経由して娘である愛理へ伝えるよう取り計らっておいたのだ。

〈上〉の言うことには、事件の第一報が入ってすぐ、警視庁の警察官に死傷者が出たとの情報も警視庁記者クラブに流されたらしい。また民放テレビ各局にも、足並みを揃えた速報を入れるよう指示をしたというので、間もなく人々にも知られるところとなるだろう……民間人の被害者はいなかった、という体のニュースが。

とはいえ、話はどこから漏れるかわからないもの。もし跡良日出子が被害に遭ったことが何かの理由で知れたら、娘である愛理のコメントを求め、無神経極まりない取材クルーがメゾンモクバに詰め掛けかねない。母親が重大な事故に巻き込まれたという、ただでさえショックを受けるはずの事態。その上マスコミに追い回されるなど、とても10代の少女一人で受け止められるものではない。本宅のある梅濤にも報道陣が行くかもしれないが、ハロや跡良家の使用人たちがいる分心細さも少しばかりは紛れるだろうとの考えもあったのは否定しない(風見を動かす以上、ペット見守りサービス……もといハロの世話に割ける人員の余裕はとても無いだろうから、愛理に預かってもらっていたのは結果的に好都合だった)。

――だが。あの連絡の何よりの目的は、公安警察官・降谷零としての務めを果たすためのものだ。愛理を思いやっているかのような「ハロを連れて梅濤の本宅へ行くように」というあの連絡には、彼のとある思惑が隠されてもいる。

そもそも、公安の捜査官は「安全第一」ならぬ「秘匿第一」を旨としている。偽名を名乗るのは当たり前、対象にヅかれて(感付かれて)面が割れるのを防ぐため、マスクやサングラスにパーツウィッグなどなど、顔を覆い隠し変装するためのアイテムはいつも携帯している。それに、人目に付きやすい場所に素顔で赴くのは控える。正体を、もっと言えば存在さえも知られないよう細心の注意を常に払っている。

しかし、今の状況では。もしも、報道陣が被害者家族たる愛理に取材を試みようとメゾンモクバ周辺に詰め掛けたら。零がそこに住んでいることは裏の理事官や〈上〉も把握している。メゾンモクバを零が契約した直後から、その周辺一帯での取材は行わないよう圧力を掛けてきたところだ。とはいえそれに素直に従うばかりではないのがメディア関係者というもの。もし透や代理の人員がメゾンモクバに、例えば着替えなど取りに行こうものなら、報道陣のカメラに映り込んでしまい、不特定多数に顔を見られかねない。当然その不特定多数には公安のマーク対象や、コードネーム持ちだろうと末端だろうと組織の関係者も含まれているはずだから、何としても避けなければいけない事態だ。

零が警察官を拝命するずっと前の話だが、ある過激派組織の幹部を逮捕するべく突入した直後、どこからか嗅ぎ付けてその現場にやって来たテレビクルーにカメラを向けられたことがあったそうだ。彼らは捜査関係者の制止を聞こうともせず好き勝手に取材を続けた。結果として、多くの公安捜査官の顔が全国に中継されてしまい、彼らはその件の捜査がまだ半ばだったにもかかわらず実働部隊を降りざるを得なくなったので、その後の捜査に差し支えた。

「よって、面が割れることは公安にとっての何よりの敵、最上の恥と思え」

……公安講習ではそう習っていた。だから零は、これまで築いてきた全てが御破算になりかねない事態の回避に努めてきたのだ。

さて、今取り得る手は全て取った。これからはこの先を考えなくてはならない――爆弾の前に文字通り「散った」二人、心臓を打ち抜いたヒロ、あっけなく逝った班長。あいつらを亡くした日だって、そうしてきたじゃないか。

降谷零という本来の顔〈フェイス〉のまま、彼は脳裏に過る人々との懐かしい記憶に別れを告げた。そして、サイレンの音を耳にしつつ、風見らに指示を出しつつしながら、頭の回転をさらに加速させていく。

どこに圧力をかける?協力者は誰を投入する?風見たちや他の部をどう動かす?そして、ほんの子供なのに自分より怖いあの少年の本気の力を、いかに引き出したものか――? 

全ては恋人たるこの国を、自分と愛理が生きるこの愛する日本を脅かした何者かに、下すべきを執行するべく。



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