Love Closed !?〜から騒ぎも喫茶ポアロで


あのアメリカのカフェチェーン人気もひとまず落ち着いたのか、最近のポアロにはお客さんが戻ってきつつあった。今日は日曜日ということもあってランチタイムも忙しかったし、1時間の休憩のあとに再開したら、またすぐにカウンター席もグループ向けの席も満員御礼と相成った。笑いさざめく人の声に、カップや食器類が立てる音に、それはもう賑やかだ。これから喫茶店にとっていわば第二のピークといえるティータイムを迎えることだし、気を引き締めてかかろう。

「すみません、アイスカフェオレとケーキセット2つでお願いしまーす」
「はーいかしこまりました!」
「ねえねえあむぴ、さっき頼んだレモンスカッシュまだぁ?」
「少々お待ちください。ただいま」

常連の女子高生の一人が、テーブルを片付けた僕にあだ名で呼びかけてきたところへ、当たり障りのない返事をしてまたキッチンへ入る。梓さんは張り切って絶賛フル回転中、マスターも「これから不足しそうな材料を調達次第すぐ駆け付けるから今しばらく頼んだよ」とさっき連絡してきた。僕もオーダーされたものを作って食器を洗って大忙しだ。今日はまかないを多めに摂っておいてよかったな。

でも。そんな忙しい最中、パフェのクリームを絞ろうとする前にも、サンドイッチをカットした後も。つい目を何度もやってしまう――ちなみにこれで5度目――のは、入ってすぐ、一番窓際に位置する一人用テーブル席の……。

「……」

ガヤガヤしている店内で、愛理ちゃんが座るそこだけが静けさに包まれている。連れ合いもいないから物も言わず外の景色に目を凝らして、車道を行き交う車やオートバイのうち大型バイクの方ばかりを目で追う。でも、それが行ってしまうと長いまつ毛を切なげに伏せて、テーブルの上に広げた便せんにペンを走らせる。そしてある程度書いたら、また車道にオートバイを探して、見つかればそわそわした様子でそっちを見て……休憩の後の再オープンから間もなく入って来てからというもの、愛理ちゃんはそんなことを延々繰り返していた。

僕の方を向いてるわけじゃないから、表情は窓ガラスに映っているのを見るしかない。だが、愛理ちゃん本人が目の前にいるというのに、顔を見られないなんてもどかしくてたまらない。入って来た直後にテーブルに置いたお冷のグラスの中身は減っていない。いや、それどころか氷が全部溶けたせいで少し水かさが上がっていた。もちろん見えていたから、他のお客さんのグラスに注ぎ足そうとお冷のピッチャーを持って店内を一巡りしてから、息遣いが聞こえるほどの至近距離まで近づけば。

「はーぁ……」

また溜息だ。今日僕が耳にする限り7度目。

「溜息を吐いたら幸せが逃げてしまいますよ?まあ……」

テーブルの上に広げた便せんに目を落としている愛理ちゃんに話しかけた。置いてあったグラスを下げて、新しいものに交換するその間にもペンは止まらない。

「一目惚れした人が来るかもしれないから、ポアロでラブレターを書きながら姿を見たい、もし現れたらあわよくばその場で渡してしまいたい……なのに、その人が一向に姿を見せないとあっては、溜息を吐きたくもなってしまうのは解りますけどね」

愛理ちゃんの異変に気が付いてすぐ、どうしたんですかって訊いた時の答え。一字一句間違えずに再生しながら口の端がヒクッとなった。気持ちは解るが解りたくない。恋?どこのどいつに?聞きたくなかったよ、恋患いの話なんて。

一昨日のことだった。Rineで「今度の日曜日ってポアロに出ますか?」って予定を訊かれた。思わず舞い上がって「オープンからいますよ!ご来店お待ちしていますね」って返したら、この通りやって来たけど。

「安室さんが今日ポアロに出るなら、お隣さんのよしみで混んでるときに長居しても怒られないかもって思って」

お気に入りのホットロイヤルミルクティーを出す時、そう言われて狙いを知った。意外にちゃっかりしてるんだなという新たな一面も。

その間も黙々と手紙を書き進めていた愛理ちゃんは、とうとう「書けた!」と小声で言ってから、白い喉をコクコクと鳴らしてミルクティーを飲んでいく。随分温くなったはずだ、湯気もすっかり消えているし。ピンクの花柄の可愛らしい便せんを、綺麗な字で「一目惚れしました」とかなんとか書いて埋めるまでにはそうなるくらいの時間がかかっていたということだ。

実は、僕は手が空いた隙に何度か「どんなことを書いてるんです?」なんて、わざと気付かれるように呟きながら覗き込んでいた。「見ちゃダメですっ!」なんて怒って……僕の方にほんの少しだけでもいいから顔と意識を向けてくれないだろうか、そんな期待をして。

でも愛理ちゃんは僕の問いかけに毎回「お手紙です」と、答えになっているようでなっていないことを返しこそしても、僕の方を見てはくれずじまい。窓の外を見ているか、便せんにペンを走らせているかのどちらかだった。

……いい加減空しくなってきた。別の作戦を考えるべきだな。それにしても気づいてすらもらえないとは。その一目惚れ相手とやらのことで頭がいっぱいのようだ。

「長く居ても怒りませんし、むしろ大歓迎ですよ。特に窓際の席に人がいると繁盛しているように見えてもっとお客さんが呼び込めますからね。ほら、コンビニで雑誌コーナーって大体窓際に置かれていますよね?あれと同じ理屈で……」

目線ももらえないというのなら、僕の声を一方的に耳に入れてしまえ。ここにまだまだいても大丈夫という安心感を与えつつ存在をアピールするんだ。

「だけど、同じ方向を見てばかりいると首や肩が痛くなってこないか心配です……そうだ、たまには違う方向を向いてみるのはどうでしょう?例えば僕の方とか」
「だめですよ。その間に見逃しちゃったらどうするんですか?そうなるくらいなら我慢します」
「え、ああ、まあ……一理ありますね」

愛理ちゃんは(集中しているからなんだと思いたいが)、僕の提案に顔も上げず素っ気なく言い返すだけだった。推敲のつもりなのか、便せんを手に取って目を走らせながら。まるで「アプローチ」って書いた紙きれが丸められて屑籠に放られたけど、その淵で引っかかって中に入らずポトッと落ちたみたいだ……。

そんな光景をイメージしたその直後、別のテーブルから追加のオーダーを頼まれて、名残惜しく思いながら愛理ちゃんのそばを離れた。


今日の愛理ちゃんは妙だった。まずポアロに入って来るなり、梓さんが「お好きな席にどうぞ」って案内するより先に窓に面した席にサッと陣取った。あの子は喫茶店だとかに行って好きな席を選べるとしたら、少し迷ってから選びたいって話を聞きだした昨日の今日に。面食らいながらもオーダーを取りにいけば、すぐさま早口で「ホットロイヤルミルクティーをお願いします」と告げながら、テーブルの上には鞄から取り出した花柄のレターセットとペンケースを広げていて。

そして、窓の外を見つめるのが7、その合間に手紙を書くのが2.5、そして話しかけてくる僕に応えるのが0.5くらいの割合、ちなみに化粧室に立ったのが2回、そんな割合で数時間を過ごして今に至る、というわけだ。

アイスコーヒー2つ、3名様ご来店。鶴山さんのミックスサンドは、この間「お医者様から葉酸っていうのを多く摂りなさいって言われてねえ」と話していたから常連さんへのサービスとして少しだけレタスを増量……オーダーの入ったメニューを作って接客する間にも、愛理ちゃんは遠くを見つめたまま。だからもちろん僕の方を見てはくれない。腹立たしい。ポアロにまた訪れるかどうかさえわからないっていうのに、愛理ちゃんの目線も心も奪った相手がいるんだと思うと。

「ねえまたあの子、安室さんにベタベタして……」
「マジムカつくわー」

常連の女子高生たちがひそひそ囁き交わすのにもお構いなし、書き上げた手紙との睨めっこをまだ続けるつもりみたいだ。しかしまずいな彼女たち、今度は梓さんだけでなく愛理ちゃんまでターゲットにしかねない。頻度が高くならないようには心掛けているが、僕が自分からオーダー取りだとか仕事以外の目的で彼女に話しかけているのが気に入らないとみえる。別に(悲しいことに)愛理ちゃんのほうからベタベタしているわけではないのに、それでもとにかく彼女たちの中ではそういうことになっているんだろう。愛理ちゃんが校則で禁止だからとSNSをやってはいないことは把握済みだし、この点については炎上させられる心配はないはず。だが、悪意を持った他人が勝手に彼女の情報をあることないことどこかへ書き込むかもしれない。もしそうしたことに及んだら虞犯少年とみて、裏で手を回しサイバー犯罪対策課か生活安全部あたりを動かして補導させようか……何せポアロにやって来るなり「ポアロなう」だとかSNSに投稿するような情報リテラシーに欠ける手合いなんだ、もう本名だとか学校名だとかはとっくに特定済だから難しくはない。

そこまで考えながら会計をして、水出しコーヒーをボトルに入れ替えて、まためげずに愛理ちゃんに近づいて訊く。

「どんな外見の人だったのか教えてくれませんか?愛理さんが見逃してしまっても、もし僕が見つけたら教えてあげられるかもしれませんし。目は多いに越したことはないと思うんですが」

作戦変更。話すきっかけが欲しいしどんな奴なのか知りたい。力になるよ、と仄めかせばあっさりと教えてくれた。相変わらず視線は窓の外へ向けられているけれど。

「んー……ちょっと吊り目で、背はそんなに高くなかったですね。髪は黒髪で、でも男の子にしては長いのかも、っていう感じでした。先々週ランチの時間帯くらいにポアロから出てきたから、きっとお客さんだったんだと思うんです」
「なるほど」
「かっこいいなって見とれてたらボクもこれから行くよ、ってスマホで通話し終わってすぐ、お店の前に停めてあったバイクに跨って行っちゃいました。あとそうだ、話してる時に八重歯が見えました」
「……へぇー」
「でもわかるのはそれだけで、名前も知らないんです……ひょっとして遠くに住んでて、あの日たまたま米花町の辺りを通ってポアロでお茶しただけなのかもしれないんですけど……会えないのかな、もう」

うっとりした表情でそんなことを語らないでほしい。ほんの何秒かだろうによくそこまで見ていたものだ。「その可能性はありますね」なんて相槌を打ったけれど……。

君の言う通り、たまたま米花町の辺りを通っただけだったらいいのに。二度と来なければいいのに。ともかく先々週、バイク乗り、黒髪で八重歯が生えてると。僕はその日は組織の件でもともと休むことが決まっていたから生憎見ていない。梓さんに訊いてみようか、マスターにも…だが待てよ、心当たりが約一名いる。その日にポアロを訪れていたかどうかは知らないが。

「僕も探してみますが、見つかるといいですね」
「はい」

せめてもう一言だけ、もう一秒だけでも言葉を交わしたくて、心にもない言葉をかけた。営業スマイルにひびが入るのを押し留めながら思う。愛理ちゃんが長く居てくれるのは願ったり叶ったりなんだ。ただその目的が、来るとも解らないその相手とやらを待つためというのはいただけない。僕が恋するきみが誰かに恋する様子を見るのは辛いものがあるから。とはいえ、来るわけないとか可能性を否定したら帰ってしまうかもしれないわけで。全く、痛し痒しだ……また5人客がお勘定を頼んできてレジカウンターに入った。愛理ちゃんが僕の目の届くところに居てくれるだけいいということにしようか、と思いながら。

すると釣銭を返してすぐ、視界の端にバイクが店先に停まるのが見えた。愛理ちゃんが素早く反応し、途端にハッとした表情を浮かべるのも。そして5人グループが出ていった矢先、先ほど音の止んだばかりのドアベルがまた音を奏でた。店内に駆け込んできたのは、愛理ちゃんが教えてくれた特徴そのままの。

「……いらっしゃいませ」

――まさか、な。新しくお冷を注ぎながら僕がそう言ったのと。

「あ……!あのひと、っ!」

愛理ちゃんが窓の外に向けていた視線を引き剥がし、今入って来たお客さんの方を大きく目を見開いて見つめながら、唇だけでそう呟いたのは同時だった。

「梓さーん、ボクにクリームソーダとカラスミパスタお願い!あと蘭くんにはアイスティーで園子くんにはカフェオレね、コナン君にはジュースで!3人ともあともうちょいで来るってさ!」
「かしこまりました。パスタ増量します?」
「うん頼むよ、腹ペコなんだ」

僕でなくキッチンにいる梓さんと会話を交わしながら、先ほど空いたばかりの奥のテーブル目がけて突き進んでいく彼……いや、「彼女」に愛理ちゃんの目は釘付け。もっとも、相手は食い気のせいか視線に感付く様子もないが。

……!もしかして。確かにボーイッシュな見た目だからとはいえ。嘘だと言ってくれ。

「どっどどどどうしましょう安室さん!あのひと、っ、あのひとなんですっ!」
「お、落ち着いて」

愛理ちゃんの目は潤んで、頬も明らかに上気していて。嘘じゃなかった間違いない、なんてことだ……そのまさかだったとは!

「でも、ランとソノコって言った……君付けだったけど女の子の名前ですよね、きっと」
「でしょうね。ただ愛理さん、あの」
「お付き合いしてる子、いるんだ。でもここで諦めたら……よしっ!」

小さいが上ずった声で僕に囁いたその直後、心底がっかりした様子でつぶやきを漏らした。かと思えば、せっかく綺麗に書いた手紙を握り締め皺が寄りそうになったが、すんでのところで気が付いて慌てて離して。いつもなら色々な表情を間近で見られたと喜ぶところだろうが今はそうも言ってはいられない。諦めずに告白を決行する気なのか?止めた方がいい、だって……。

「あ、あの!」
「へ?」
「突然でごめんなさい、これ!読んでいただけませんかっ」

ああ、遅かった。顔を右手で覆ってしまった。僕が止める間もなくその相手につかつかと歩み寄っていった次の瞬間には、店内中に響き渡るボリュームの声でそう言ってから、ピンクの封筒に赤いハートマークのシールで封をした、どう見てもラブレターと判る手紙を突き出したんだ。

店内がたちまち静まり返った。お客さんがお喋りを止めて一斉に2人に注目したせいだ。聞こえるのは湯沸かしポットが立てている微かな音くらいのもの。そして唯一違う方向を向いている、というより気が付いていないのは、お気に入りのカウンター席でうつらうつらしている鶴山さんだけだ。

「この間あなたに一目惚れして、そのっ」
「ちょ、ちょっと待てよなんだこれ?事態が全く呑み込めないんだけど!」

八重歯を覗かせながら口をあんぐり開けて驚く、さしものJK探偵(そして、奴の妹でもある)――世良真純も、このcase(事件)をclosed(解決)に導くことはおろか、彼女自身も言うように事態を理解することさえできずにいるようだった。とはいえ無理もないか。馴染みの喫茶店に行ったら、同年代の同性が、一目惚れしたなんて言いながらいきなりラブレターを突き付けてくるのだから。

「今さっき女の子の名前言ってましたから、もうお付き合いしてる子がいるのかもしれないですけど、でもフラれてもいいからどうしても渡したくって」

そこにドアベルがまた鳴って、少し空気を震わせてすぐ消える。次に聞こえてきたのは、女性二人に子供の足音。

「ちょっと蘭、世良ちゃんどうなってんの!?ていうかあの子誰?!」
「知らないわよ来たばっかりなのに急に言われても!」
「安室さん、あの女の人どうしたの?」

後から来ると言っていた通り、連れ立ってやって来たばかりの園子さんも蘭さんもコナン君も。洗い物をする手が止まっている梓さんも、他の店内のお客さんも、そしてもちろん僕も固唾をのんで見守っていたが。

「やー……ごめん、夢を壊しちゃうけどさ」

真純さんがやっと事態を呑み込んだらしく、頬を掻いて苦笑いしながら口を開いた。愛理ちゃんにはある意味残酷な真実を明かそうと。

「まあ間違われてもしょうがないし、そういうことしょっちゅうなんだけど」
「え?」
「ボクさ、女なんだよな」
「……え」

その時の愛理ちゃんときたら!緊張した顔から呆然とした表情へとみるみるうちに変わって――。

「おんなの、こ?」

そしてそう呟いたきり固まった彼女の手の中からするりと、手紙がカウンター席の下へと滑り落ちていった。


そんなすったもんだから、十数分後。

「あ、あっははははは……」
「わっ笑わなくたっていいじゃないですかあ!」

何やかやで店内はまた話し声だとかが満ちてきて、から騒ぎもひとまずは収束に向かいつつある。

「大丈夫?おねーさん。とにかくまずは事情を聞かせてよ」

コナン君のそんな提案を受けて、愛理ちゃんたちは同じテーブルに着いていた。そして彼女から事の顛末を聞いた真純さんは、テーブルに突っ伏して笑い転げている……という次第だった。

かわいそうに、隣に座った愛理ちゃんは顔を真っ赤にして半ベソだ(ちなみに合流した蘭さんとコナン君は、事情を聴いてしばらくポカンとしていたし、園子さんは下を向いて笑うのを我慢しているかのように体を震わせていた。真純さんが大笑いしている手前、自分まで笑っては悪いという園子さんなりの気遣いなんだろうか?)。

確かに、片や愛理ちゃんは聖マドレーヌ女学園、片や蘭さんたち3人は帝丹高校と、それぞれ違う学校に通っていて今の今まで面識がなかった。だから、愛理ちゃんが赤井の妹の見た目や言葉遣いから、同性とは知らずに男だと勘違いしたとしても無理はないことだろうな。

「ごめんって!男に間違われるってのは割とあるし慣れっこなんだけどさ。ラブレターをもらうのは初めてだったもんで……でも嬉しいよ、それって第一印象だけですぐにボクのこと気に入ってくれたってことだろ?きっかけはどうあれ好かれて悪い気がする奴なんかいないしな!」
「いたっ」

バシバシと愛理ちゃんを叩く音がして、その方向を思わず軽く睨んでしまった。もうちょっと優しく扱ってあげてくれませんかね?各々がオーダーしたメニューが出来上がってカウンターの上に出されるのが目に入ったから、それを取りに行こうとしながらも聞き耳を立てるのは忘れずに。

「なあ、ボクは付き合うってのはよくわかんないからそういうのはできないけどさ、友達ってことじゃダメか?ここで会ったも何かの縁っていうだろ」
「は、はい!それじゃあお友達としてよろしくお願いします!ごめんなさい、お名前訊いてませんでした……私、跡良愛理っていいます」
「ボクは世良真純!真純でいいよ。よろしくなっ!愛理くんって見た感じボクらと変わんなさそうだよな、いくつだ?」
「私高2なんですけど、みなさんは?」
「えーうちらも!っていってもそこの眼鏡のガキんちょは見ての通り違うけどね。なんだタメじゃない、私鈴木園子!よろしく」
「私は毛利蘭、この子はうちで預かってる江戸川コナン君っていうの」
「よろしくね、愛理おねーさん」
「ええ、よろしくね。えっ待ってねえ毛利って!もしかしてあの“眠りの小五郎”の?!」
「そうそうそれで、私と園子と世良ちゃんとは帝丹高校の同じクラスで……」
「そうなんだ!私は聖マドレーヌ女学園に通ってるの」
「マジ?うちの親戚もそこの大学だった!」

やはりそこは同年代、少し話せばすぐ打ち解けたようだ。よかった、本当によかった、文字通り「友達止まり」になっただけで。恋が予想外の形で破れることになった愛理ちゃんには悪いが、僕にとっては十分ハッピーエンドだ。胸を撫で下ろしたいところだった――が。

「秀兄がもしキミに会ったら面白い奴って気に入りそうだなー」
「兄、って。お兄さんがいるの?」
「うん、実は……」

不意に聞こえてきた奴の名の、出所の方を反射的に振り向けば。こっちを向いて座っている厄介すぎる探偵は、八重歯を見せて不敵な笑みを向けてきた。「いいだろ?羨ましいだろ?」その目は間違いなくそう言っている。

……上等だ、受けて立とうじゃないか――兄が兄なら妹も妹だな。心の中で吐き捨ててファイティングポーズを構えるのを思い浮かべたとき、彼女の背後にはなぜか、ジークンドーの構えで受けて立とうとする奴の姿が浮かんできた。



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