かわいがってね


足はコタツにすっぽり入れて天板には顎を乗せて。いつも以上に背中を丸めて、でもって録りためた『世界ニャース紀行』をなんも考えずに視て、おまわりさん兼しまキングやらされてるっていう激務の疲れを取る…と。冬の公休はこうしてのんきして過ごすに限るってね。『世界ニャース紀行』ってのはおれの気に入ってる番組だ。世界のあちこちに棲息してるニャースを取り上げてる不定期放送の番組で、普段はテレビなんかうるさいんでほとんど点けなくても、これだけは必ず録画もするし、リアルタイムで視れる時は例え仕事中だろうが交番にあるポータブルテレビで視てるくらいなんだわ(職務怠慢だとかおカタいこと言いなさんな、どうせほとんど誰も来るでなし)。
“歌舞練場で可愛がられているこのニャースは、舞妓の一人、サクラさんの花かんざしが気になるようで…”
そんなナレーションを聞きながら、テレビの中のニャース――今日はジョウトのエンジュシティ特集で、ちょうど踊りの稽古を終えた舞妓に撫でられてるシーンだ――に釘付けのおれ…に、横からじっと注がれる視線。仕事柄視線には敏感にならざるを得ねえワケだけどよ、茶を淹れてコタツに戻って来たばっかの可愛い嫁さんがニコニコしながら見てくるってなら話は別だ、神経尖らす必要もないわな。
「おればっか見て飽きねえかい」
しばらくしてエンディングのテロップが流れ始めた。直後に“マギアナ高地に幻のポケモン・ミュウを追う!”とかいう別の番組の始めの方が録画されてたけど、まあ後で消しとくか。録りためたやつもこれで終わりっていいタイミングになったんで、目をテレビから引っぺがして嫁さん――プレサンスのほうを向いてそう訊いてみたら。
「ぜーんぜん!」
「…そうかよ」
まだニコニコしたままきっぱり言い切るのがまあ可愛いもんで、ガラにもなく口元がダラッとなっちまったよ。そういや前にも同じこと訊いたら、あん時は「普段キリッとしてるクチナシさんがぼーっとしてリラックスしてる感じがするのが可愛くて好きだし、旦那さんのそういうとこ見てると幸せなの!」ときたもんだ。まったく、褒めすぎにもほどがあるっての。照れたんで思わず「いくら旦那だからっておじさんに可愛いってのはどうかと思うぜ、第一そりゃプレサンスに使う言葉だろ」とか似合わねえこと言っちゃったらさ、そりゃあもう嬉しいだのもう一回言ってだの大はしゃぎで…。それはそれでいいんだけどよ、舞い上がり過ぎたのか、その日の晩飯に出すものに塩を使うはずだってのに砂糖を入れちまったのは、あの一回きりで勘弁してほしいとこだけどな。
「こんなにコタツ入ってばっかりいて、おまわりさんの干物ができちゃっても知りませんよ?はい、そうならないようにお茶どうぞ」
「あんがとさん。プレサンスは気が利くなあ」
「ふふ、どういたしまして」
勧められた茶をありがたく飲むことにした。こういうとこ、プレサンスは気遣いにしろ何にしろ、押しつけがましくもなんともなくてさ。丁度いい距離感を保つのが得意ってのかな、一緒にいて心地いいってのか。なんか、いいよなあ。とにかく、いいんだよ。無性に心からそう思って、礼を言いながら頭を撫でてやったあと湯呑を口に運んで…うん、美味い。おれが仕事中に交番で淹れるやつとは比べ物にもなりやしねえくらい。
「そうだねえねえ、今日こそあれしましょ!」
「ん?あれってなんだ」
「えっとー…」
プレサンスは後ろの戸棚を振り向いて、そこの引き出しをゴソゴソやり出した。クソ、おれ以外の方向くなって、スネちゃうよ?戸棚にすら妬きそうになるとかどうなってんだか、マジで重症だな。
「ほら、耳かき!膝枕して耳かきっていいよなっていつか言ってたでしょ、でもせっかくいい耳かき買って来たのになんとなくやるチャンスなかったし」
「ああ、そういやお流れになりっぱなしだったな。今やってくれるってんなら頼むとするかね」
「はーい」
旦那に甲斐甲斐しく尽くすなんざ、今時古臭いって思うやつの方がずっと多いんだろうな。けどよ、外野が何抜かそうがおれには最高の嫁さんなんだよ。亭主がいつかボソッと言ったことを覚えててしかも叶えたいとか、健気だねえ。何回おじさんのこと惚れ直させたら気が済むんだか。
「じゃ、隣に失礼しまーす。大丈夫?首痛くないですか?」
「んー…」
「聞いてます?もう」
おれのもっと近くに寄って正座した嫁さんの膝――というか正確には太ももだけどな――にありがたく頭を乗っけて。プレサンスは怒ったフリで(本当に怒った日にはこんな声じゃねえんだ、キレた守り神さんとどっこいどっこいの怖さってあたりで察してくれ)訊いてくるけど、痛くない…って言ったつもりがこれだよ、まいっちゃうねえ。でもこればっかは大目に見てくれよ、嫁さんが膝枕で耳掃除してくれるなんざ、そりゃあ最高に極楽で思わずデレデレになっちゃうし首が痛いとか吹き飛んじまうに決まってるっての。
「わ、クチナシさんたらニャースが気持ちい時みたいな顔してる」とかなんとか楽しそうに言うもんだから、何となく「にゃーん、ごろごろ」とか言ってみせたら、ツボに入ったのか大笑いしててさ。
「っ、ふふ、クチナシさんがにゃーって言った!かーわいいああもうどーしよホントっ!」
こりゃ耳かきが始まるまではまだかかりそうだな。
でも本当にいいもんだなあ、うん。こうして可愛がられるってのもさ。きっとこれからおれは、撫でられて耳掃除されて、デレッとしてるニャースときっといい勝負になるんだろうよ。



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