輪(後)


プレサンスに報告を終えたダルスは、ウルトラメガロポリス中心部にある自分の居室を目指していた。実はプレサンスのもとを訪れる前、チームの他のメンバー全員に「報告に行ったら良い加減に家で休んで」と、半ば追い出される形で送り出されていたのだ。最初は押し切ろうとしたが、言われてみれば確かにここのところろくに休息も取っていなかった。そのせいか疲労感が少しずつ湧き上がってきたところだったから、このようなありさまでは示しがつかないだろう、と考え従うことにして。

科学の力で作り出した光の下に、直線的な道が伸びている。アローラの道は、都市部こそこの世界の様子とさほど変わらないが、それ以外のエリアではまるで違った。自然の造形になるべく手を加えないようにしているとかで、危険が及ばないようにするための最低限の整備がなされている以外はほぼ手付かずのまま。「曲がりくねっていて見通しは悪いが、そういった点も次に何と遭遇するのかわからないことに繋がり面白い」とダルスが言ったら、プレサンスは「私もダルスさんとおんなじこと思ってた!」と頷いてくれた。

……それだけではない。昼は太陽の強い日差しに、夜は柔らかな月と星の灯りに。街も山々も海も、分け隔てなく照らされていた……。

異世界の地を踏みしめ歩いたいつかを思い返しながら、ダルスはプレサンスはまだ泣いているだろうか、と案ずる。人影がまばらになった道に彼の足音が響く。だがそれ以上に耳の奥では、先ほど聞いてしまった彼女の啜り泣きがまだ木霊していて。膨れ上がってきた感情を、すれ違う人々の手前抑えながら居室に辿り着き、ダルスは。

「くそ……っ!」

右手で拳を作って壁を叩いた。こうしてみたところでグローブに覆われた手にジンと鈍い痛みを感じるだけで、そして事態が1ミリも動きはしないことなど、十分知ってはいても。

苛立っていた。プレサンスにでもチームにでもない、他ならぬ自分自身に対してだ。彼女の力になれない歯がゆさ。「科学力がすごいのだからきっと大丈夫」と信じてくれたのに、不安にさせてしまっている無力感。確かアローラで見た劇のワンシーンでは、何か悲しいことがあって落ち込む女に「1人で泣くな、おれがいる」とか相手役の男が言うと、女は立ち直ったかのような反応を見せていた。それを真似れば良いのか?いや、この状況でそんな歯の浮くような、しかも事態の解決に何の役にも立たないセリフを真似て何になる。それに、プレサンスはおれにそんな言葉を掛けられても困るだけだろう……ダルスは薄い唇をギリッと噛んだ。

全てのワープホールが突如閉ざされ、早くもひと月が過ぎた。あの日の翌日に直ちに結成したチームの皆も、客人にして恩人のプレサンスに今こそ報いようと結束して本当に良くやってくれている。

しかし、あれこれ試してみてもいまだ成功に至っていない。それに、その間にプレサンスの様子は不安から来るのだろうストレスのせいで随分変わってしまっていた。いくら自ら望んで訪れたといっても、元の世界とのよすがは、原因こそ判明したものの様々な意味で――ホールにせよ、手持ちやロトムにせよ――絶たれたままだ。ずっとこのままかもしれないのだ。不安を感じるな、などとどうして強いることができる?プレサンスの心身に現れるその影響は隠しおおせないところまで来ていたし、それに気が付かないダルスではない。

例えばプレサンスの顔だけに限っても、クマなど見当たらなかったのに濃く目立つようになっていたばかりか、もう少しふっくらしていた頬が削げ落ちていた。顔色も良くない。水は飲めても食欲は落ちたのだろう、ブロックも置いてあるのにあの減り具合では何日も口にしていないはずで、デスクの上で手付かずのまま。気力も削がれてしまったか、「遠くへ行かれては困るが、事前に言ってくれれば居室の近場を散策しても構わない」と伝えてあるのにそうしているふうでもない。

「プレサンスさん、部屋に籠りきりのままふさぎ込んでいるようなんです……」

ある日、代わって様子を見に行ったミリンは心配そうに話していた。プレサンスの気丈な振舞いは見せかけに過ぎなくて、不安が日に日に強くなっているのは十分過ぎるほど見て取れた。そして今日、ダルスたちの前では露わにするまいとしていた内心がついに堰を切って溢れた、というわけだろう。

そもそも、報告なら通信機器を与えて行えば楽に済む。なのにそうせず毎度わざわざプレサンスのもとを訪ねるのは、彼女の顔を色々な意味で見ておきたいからだった。それはある意味良い選択でもありしかし良くない選択だったともダルスは思う。彼女の顔を見られるけれど、日増しに元気を失くしていく様子を目の当たりにしてしまうから。

だが、その一方で……ともかくだ、ああした状態からまたプレサンスを救う解決策はただ1つ、アローラへの帰り道を作ってやること以外には無い。ボールや図鑑端末の異状の原因になった物質を除去することは、解析を進めていけば不可能ではなくなるだろうが。

……だと、いうのに!そうしなくてはならないというのに!ダルスは苛立ち紛れにもう一度拳で壁を打った。ベッドやデスクなど最低限のものしか置いていない飾り気の無い部屋、身を投げ出すようにドサリと音を立ててベッドに腰掛け、頭をきつく抱えて――。

「なぜ……信じてくれと、プレサンスに伝えておきながら……!何の解決策も、見出せないばかりか」

客人に「不自由を掛けない」などと約束したあのとき、芽を摘み損ねたばかりにとっくに育ち過ぎてしまった葛藤を、ダルスは自分を非難する言葉と同じように絞り出していく。

「……報告を口実に顔を見に行っては、プレサンスがああして不安に押し潰されていくのを目の当たりにしながらも、彼女が確かにおれらの世界にいると実感しては内心では喜んで……このまま、帰したくないと思ってしまうのだ! 帰ることがかなわなくなれば良いなどと、願ってしまうのだ……!!!」



幼少期に読んだ、ネクロズマが光を奪った出来事についての子供向けの資料。ダルスはそこに”本来の光”という言葉を見つけてからというもの、それにどうしようもなく惹き付けられてやまなかった。科学の光とどこがどう違うのだろう、と気になったのだ。

なのに、もっと知りたくて大人向けの難しい資料を背伸びして読んでみても、求める答えは載っていなさそうだったし、周りの大人たちに訊ねてもみな「わからない、知らない」と言うばかり。このウルトラメガロポリスで自分たちを包むのは科学の光だけとなっていて久しかったので、今にして思えば無理もないことではあった。

しかし好奇心が旺盛なダルスは、そんな”調査結果”が大いに不満でならなかった。そこでこんな決意をしたのだ。

「おおきくなったら、ほんらいのひかりというものをじぶんでリカイするのだ。それだけでなく、ウルトラメガロポリスにそれをとりもどすのだ」

子供心にそれが自らの人生を捧げるべき全てだという直感があった。

やがて成長し、次第にネクロズマの封印が綻びを見せ始めるようになったころ。ウルトラ調査隊発足を知って、尻込みする人々をよそにダルスは即座に志願し、いくつものテストをパスした。異世界でも耐えられるよう、様々のトレーニングを受け準備を整えたのち、ようやくアマモとともにアローラの地を踏んだのだ。

ついに自然の光を浴びたときは、ただただ感動に打ち震えた。遮光に優れたゴーグル越しだというのになんと眩い……いやそれだけでなく、人工の光と違ってこんなにもあたたかいのだろう!「遠いいつかになるとしても、必ずやこの光をおれらの世界にも取り戻すべくミッション遂行に邁進しよう」アマモとともにそう誓い合って決意を新たにした。

あたたかかったのは光だけでない、あの地の人々だってそうだ。幸い危害を加えられはしなかったものの、遠巻きにされることもあるにはあった。奇異に映っても仕方がない出で立ちだろうから当たり前だけれど。

だが、大抵はみな最初こそ大なり小なり驚くような反応を見せはしても、ダルスたちの方から一歩踏み出して助けを求めさえすれば、人々は何くれとなく世話を焼き手を貸してくれた。のちにポニ島の大峡谷手前で出会った、ハプウと名乗った少女が「人もポケモンも助け合い。別世界の方でもビーストでもまずは受け入れる……それがアローラというところだと思うのじゃ」と話していた通りに。

――そして、受け入れ、力になってくれた人々の中心にいたのが、プレサンスだった。

ダルスが最初にプレサンスに覚えたのは親近感に過ぎなかった。自分やアマモと同じように遠くからこのアローラの地へ来たばかりなのでは、という気が何故か強くして、確かめてみれば実際そうだという。降り立ったばかりのまだ不慣れな異世界で、よそから来たばかりの者同士という共通点を誰かに見出して安心したい、という意識がそうさせたのかもしれない。

しかし、行く先々でプレサンスに出会い接するたび、ダルスはいつしか親近感というには無理のある気持ちを彼女に抱くようになっていたのだ。

決定的なきっかけはよく覚えている。見事ウルトラネクロズマを鎮めてからしばらくして、プレサンスはあれほど強大だった存在を、ごく小さなモンスターボールについに収め従えてしまった。ダルスとアマモにそのボールを見せながら――張りつめていた表情を緩めて、笑顔を見せたあのとき。ダルスの鼓動はどうしようもなく高鳴った。あれは、ついにミッションが果たされ、光を取り戻す第一歩を踏み出したのを実感したことから来る興奮だと言い聞かせた。

その後、何度かにわたってアローラの各地を一緒に歩いた際、仕掛けられたポケモン勝負に、アマモの応援を受けながら協力して(といっても、ほとんどプレサンスがさり気なくお膳立てをしてくれていたおかげだということはダルスももちろん解っているが)勝利を収めたときの喜び。あれは、ウルトラメガロポリスには無いポケモン勝負という文化に通じた者に尊敬の念を抱いただけに過ぎないのだ、と暗示をかけることに努めた。

――本当は、ダルスは心の奥底ではそんな自分に違和感を覚えていたというのに。本心に蓋をしようとしながらも、絶えず疑念は尽きなかった。あの興奮は、プレサンスの笑顔をそばで独占したいと熱望させるものなのか?尊敬の念とは、プレサンスと共に過ごすひとときが一秒でも長ければと願わずにいられない理由になり得るのか?

違う。おれは、プレサンスのことを……ダルスは知ってしまった。多くの異性に言い寄られようと、今までずっとリカイできずにいたその感情の名前。それを理解しすぎてしまったことを、理解したのだと。

プレサンスへの想いを自覚した時、ダルスはすぐに諦めようとした。色恋沙汰に現を抜かすわけにはいかない、これからだってミッションは続くのだ、遂行の妨げにしかならない感情を抱くべきではない。そもそもプレサンスはアローラに、おれはウルトラメガロポリスに生きる身。もし、もしも好き合ったとして、同じ世界で共に生きてゆくことはかなわないさだめだろう……とにかく様々な表現で「許されざる想いなのだから封印しろ」と言い聞かせてきた。

ウルトラホールが閉ざされてしまったあの日、別れ際に呟いた「そうだよな」という言葉もその気持ちの表れだ。プレサンスは、帰らなくてはいけないことを解ってくれてのものだと取っただろう。だが、ダルスとしてはそういった意味で呟いたわけではなかった。あのときは、彼女に帰ってほしくないばかりに手首を掴んでしまったし、もう少しで「どうか帰らないでくれ」という言葉が口をついて出そうだった。そこに「帰らなくては」と先に言われたから、自分を戒め釘をさす目的があってのことだったのだ。ほら見たことか、プレサンスは困っていたではないか。すなわち、おれのことは良くてせいぜい異世界の友人程度にしか思っていないのだ――そう言い聞かせようとして。ともかくプレサンスのことが頭をよぎる度にそうしていけば、やがては断ち切れる。そのはずだった。

しかし、結局は無理だった。蓋をすればしようとするほど、ダルスは無意識のうちにプレサンスのことばかり考えてしまう。

例えばこれも以前アローラで、好き合っているらしい男女が、もの言わない代わりに互いを愛おしそうに見つめ合っているところを見かけたとき。日差しを受けているから、というだけでなく、彼らは文字通り輝いていて、ダルスはひどく羨ましくなった。幸せそう、とはああいうことだろうと納得がいった。そして彼は思ったのだ、おれもいつかゴーグル越しでなく直にプレサンスと見つめ合いたい、屋内はさておき何分程度までならば屋外で外しても体に影響が出ずに済むだろう、と。寝るのも忘れて関係のありそうなデータを漁り、もう少しで突き止められそうなところまで来ていた。恋心を断ち切ろうとした直後だったにもかかわらず。

あの一件が起きた日だって、ダルスは本当ならアマモと一緒にプレサンスを案内するはずだった。だが、彼女を待ち合わせ場所で待つさなか、アマモは突然「きょうだけど、おじゃまグソクムシはたいさんするね!あたしもウルトラメガロポリスにかえるまではいっしょにいるけど、あっちについたらようじをおもいだしたってことにしてぬけるから!」などと言い出した。ダルスは言葉通りに受け取って「別に用事など無かっただろう。もしやおれの知らない間にプレサンスと仲たがいでもしたのか?気まずいからと逃げるのはどうかと思うけどな」と返したのだ。

そうしたらアマモはすぐさま「もう!そうじゃないよ!」と怒り出した。そのまま「ダルスはプレサンスさんのことすきなんでしょ、たいちょうはどうかしらないけどあたしやミリンにはバレバレだよ!ほんとのもくてきだったちょうさはもうおわってるし、これからはアローラにそんなにいききできるわけじゃなくなるかもしれないんだよ?せっかくプレサンスさんがきてくれるチャンスなんだよ、デートでいいとこみせちゃいなよ!っていうことだよ!」と、ほとんど一息で言い切る怒涛の勢いで押し切られ……結局、プレサンスと2人きりで過ごすことになったのだ。

アマモも親切なのか余計なのかわからないことをしてくれたものだ。結局、ダルスはまたプレサンスを諦めたくないという気持ちがぶり返した。ウルトラメガロポリスで見るものすべてに目を輝かせているあんな顔だとかを、すぐ隣で見て……どうして、断ち切れる?早くウルトラホールを開くべくそれに没頭し、彼女と顔を合わせる時間は必要最低限に留める。それは、プレサンスが図らずもこの世界に留まることになったこの状況が続けば、という思いを封じたいがためでもあったのだ。

……だが。もちろんプレサンスにも言った通り全力を挙げている。しかしそのさなか、気が付けばこの状況が続く限り、彼女が同じ世界に居てくれるのだと喜び、しかもずっとそうなってしまえば、と望む自分が顔を出しているのだ。このまま続けば良い、だと。よくも。プレサンスの期待に応えることができないばかりか、気丈に見せながら不安でたまらない彼女に顔向けのできないことを考えるなど……思考は堂々巡り、それこそ輪を描くかのように抜け出せないループの中にダルスはいたのだ。

「なんだ……?」

そのとき、どこからともなく声がしてきた。しかも意志を持ってダルスに囁き掛けている。幻聴か?ろくに休んでいなかったせいだろう。しかし彼がそう考えて振り払おうとすればするほど、その声は大きくなってくるばかり。幻聴を耳にすることだけでも、空気を震わせることもなく聞こえてくるだけでもおかしいのに――その声は、何故自分と全く同じ声なのだろう……。

――おまえらは実に気の毒なことだ。欲をかいた先祖の過ちの代償を長きにわたって払わされてきたのだからな。確かに闇の中にあっても光を灯すすべは得た……本物のそれを知ってなお、正反対に冷たいこちらの光もこれからもそう呼ぶかはともかくとして。

おまえは誰だ?何が言いたい!

――おまえの中の闇の部分、とでも言おうか。そんなことはどうでも良い、翻ってアローラはどうだ。あちらでもおまえらと同じように科学の力で光を作り出すこともあれど、決定的に違う点がある。おまえが焦がれてやまなかった本来の光に満ちているということだ。太陽の日差しは大海原さえ遍く照らしていた。月と星々の光は島々を静かに包んでいた。さらにかがやきさまのおかげで、Zクリスタルの光といいぬしポケモンのオーラといい、あの地には十分すぎるほどに光に溢れていた。そうだったな?

……ああ、そうだったな。だがそれがどうした。

――しかし、だ。太陽や月の光はともかく、Zクリスタルの輝きといったものはアローラの地がもとより持つものではなかった。そもそもはおまえたちの世界のものだったのだぞ。与えられたことに感謝もしなければ返しもせず、その上あろうことか、かがやきさまの神聖なる光を、Zワザなどといってポケモン勝負の道具扱いしている!そんな恩知らずこの上ないあの世界へ、プレサンスを、おまえたちにとっての――いや、おまえにとっての”光”を帰すのか。焦がれたそれがこうして同じ世界に、傍にあるようになったというのにむざむざと!

っ……!うるさい、おれらを助けてくれた地を恩知らずだなどと!それにプレサンスには、プレサンスの世界があるのだ……大事な人々がいて、光差す場所へ帰る日を不安を押し隠しながら待ち侘びている……あのような姿を見るのは辛い……帰して、やらなくては……それが、おれの責務だ……。

――よく言えたものだな?プレサンスがこの世界に留まらざるを得なくなったことを密かに喜んで、この状況が続いてしまえばと願っていながら!元の世界へ帰れなくなるかもしれない、というとてつもない不安を味わう羽目になったのだ、ウルトラメガロポリスに嫌気が差しそれきり二度と訪れる気は起こらないだろうからと。ならばこちらから会いに行けばいい話だろう、だと?まあ一理ある……しかし、今回のようにいつまたウルトラホールが閉ざされ接続できなくなるともしれない。そうなってしまったときに後悔しても遅いではないか。

やめ、ろ……!

――何よりプレサンスを元の世界に帰しては、またこの世界は暗くなる。あの娘はZパワーリングを持つが、自身はその光ともまた違う輝きを……まさしく周りを明るく暖かく包む、太陽のような輝きを放つ存在だ。彼女が居なくともアローラには十分すぎるほどの光があっただろう?与えすぎた分を、まだとても足りないが返させるだけのこと。ネクロズマを鎮めたことで、必ずやいつかは再び光が降り注ぐ。だがそれまでに一体幾年を待たなければならないと思っているのだ?遠すぎるいつかを待つなど耐えられるのか?

それは……。

――簡単なこと。この際、「光」の帰り道など作らず、ウルトラメガロポリスに留め置いてしまえ……。

… … …

「そう、だな。その通りだ、そうしてしまおう。おれは一体何を悩んできたのか」

ダルスは姿も見えなければ声もしないその相手の言うことに頷きながら、同時に自分の中に突如としてふつふつと何かが煮えたぎり出したのをはっきり感じて呟いた。

「帰すものか。逆に返してもらうぞ、光を……プレサンスを」

初めて光満ちる地に降り立ったときの感激が、アローラへの憧憬が、たちまちドロドロとした妬ましさ、そして憎しみへと名前そしてすがたを変えていく。プレサンスへの想いに完全に囚われたダルスの中の闇が、とうとう光――良心や理性といったものを根こそぎ喰らったのだ。

帰すまい。もう決めたのだ、誰に何を言われようとも。高揚感が疲労感を消し吹き飛ばすのがわかる。

「そうだ、プレサンスにはずっとウルトラメガロポリスに居てもらうのだ。なに、しばらくは戸惑うだろうがおれが誰より傍にいて支えになれば良い、色々と助けられたことへの恩返しというものを生涯をかけてするのだ。そして時が経てばそのうち慣れ、いつかはまた今までの輝きを取り戻すだろう。何故なら人間にせよポケモンにせよ、生き物は置かれた環境にやがては適応するものだからだ」

ダルスは独り言ち続ける。

「現におれらに残された資料では、この世界から本来の光が失われたことで生態系そのものさえ消滅の危機に瀕するほどの多大な影響が及び、そのころ既に高い科学力を誇っていた先人たちとてそれから逃れられなかったという……だがそれでも、人工の光を作り出すなどしてどうにか生き延び子孫を成してきた。だからこそおれもこうしてこの世に生を受けたのではないか」

それに、彼の地――もう名前を口にすることさえ嫌になった――のポケモンたちにしてもそうだ。これまでの住処とはまるで異なる環境に置かれたが、生来のすがたから変異を遂げリージョンフォームなるものを獲得、そうして数を増やしてきた種がいくつも存在していることも調査の結果判っている。プレサンスの手持ちだって、ウルトラメガロポリスでそのようなすがたへの変化を遂げる可能性もある。そうなれば是非とも調べてみたいものだとも思う。

「ともかく、これらの適応の事例から導き出される論理的結論として、プレサンスも時間は要するだろうが、いつの日かはウルトラメガロポリスに順応し、天に召されるまでここに留まることを選ぶに違いないということが言えるはずだ」

そんな勝手な理論で自分を納得させ1人頷くと、ダルスはベッドから立ち上がった。興奮に操られ、居ても立っても居られなくなったのだ。

「そうと決まればスーツは……プレサンスもウルトラワープライドに使う時のために既に持っているが、しかし何かが足りない……プレサンスがウルトラメガロポリスに迎えられ、そしておれのそばにあるという証になるようなものが欲しい。何か、何か無いか……そうだ!」

うってつけのものを思いついたダルスは、すぐさまそれをしまってあるデスクに駆け寄った。引き出しを性急に開けながらよみがえるのは、あの地でのあるときの記憶――。



「贈られたものに文句を付けるつもりで言うのではないが、この輪は他の個体の作るものに比べて小さくはないか?」

調査の一環として、ダルスはアマモがプレサンスの手持ちと触れ合う様子を――彼女にばかり目が行かないように気を付けながら――テンカラットヒルで観察させてもらっていた。

するとしばらくして、心が安らぐ香りがすぐ横からしてきた。見回せば、順番の最後だったキュワワーがいつの間にかダルスのもとに寄って来て、ふよふよと彼の近くを漂っていたのだ。理由が解らず戸惑っていたが、プレサンスは「ダルスさんにも遊んでほしいみたい」と言うではないか。

すぐさまこれは何かの役に立つ(調査のためというのももちろん、プレサンスの頼みとあれば引き受けるべきだ)と判断し、相手をすることしばし。ぎこちない手つきではあったが撫でていたら満足してくれたようで、キュワワーは持っていたレイをダルスの手首にフワッと掛けたのだ。アマモは「こんどはあたしがかんさつするね」と、端末にデータを入力する役をダルスから代わってしていたが、その様子を見て歓声を上げた。

「わあぁいいな、おはなのわっかだ!」
「欲しいか」
「もらったのはダルスだからあたしはいいよ、でもちょっとだけかしてほしいな。よくみてみたいの」
「わかった。ほら」
「ありがとう!キレー!」

そんなやり取りののち渡してやりつつ、ダルスはキュワワーについて文献に書かれていたことを思い出す。プレサンスの手持ちにいるポケモンに関する文献はもう諳んじることができるくらい読み込んだが「癒しをもたらす香りを漂わせる。また、好意を持った相手に友好のしるしとして花で作った輪を贈る習性がある」などと書かれていたのを覚えている。文字だけで知るのと実際に接してみるのとでは大違いだ、本当だったのか。それにああしてポケモンに好かれるのはやはり嬉しいものだ、とレイを見やった。

ただ、同時に疑問も浮かんできた。確か文献に添えられていた写真の個体は、これの倍以上の大きさの輪を提げていたはず。だが贈られたそれは、同じ輪でも指輪や腕輪と呼ぶには大きすぎるし、他の個体の提げているような胸の下まで届くほどの長さでもなく――そう、首輪と呼ぶ方がしっくりくる。するとプレサンスは苦笑い交じりにその理由を教えてくれた。

「私のキュワワーってすごくきまぐれで飽きっぽいとこあって。レイを作ってる途中でも、飽きたらそこで切り上げて完成ってことにしちゃうみたいで、だからいつもそれぐらいの大きさにしかならないんです」
「そうか、なるほど……!個体の性格が作るものにも反映されるというわけだな。ベベノムもそうだ、同じ種族でありながらも個々の違いは大きい。トレーナーに始終甘えたがる個体もいれば血の気が多い個体もいる。あいつらは何かを拵える習性は持たないが、もしするならきっと違いが出て面白いことだろうな。実に興味深い!」

ダルスは合点がいって普段より少し早口になり語尾が跳ねた。アマモがすかさず「はしゃいじゃってー!」とからかい、プレサンスはクスリと笑っていた。

ともかく「ポケモンが作るものにも各個体の性格が表れ、作ったのが同じ種族であっても一様のものが完成するわけではない」……か。また1つ、興味深い調査結果が得られた。プレサンスがボールへ戻す直前、ダルスが感謝の気持ちを込めてキュワワーを撫でてやると、もう一度楽しそうにくるりと体を回転させたのだった。



そんな経験に感銘を受けたダルスは、スーツの補修に用いる予備の金属素材を使って、見よう見まねで同じサイズの輪のようなものを作っていたのだ。いつかはプレサンスに捧げようとタイミングを窺いつつ、しかし彼女への想いを諦めようとしていたのもあってなかなか踏ん切りがつかずにいたが……今こそ、そのときのはずだ。花は美しいがすぐ枯れてしまう、その点素材に金属を選んだのは正解だった、耐久性にも優れていて容易に壊れはしないから。キュワワーが作る輪の意匠を象ったものだしプレサンスもなじみやすいはずだ。

だが待てよ、ただのありふれた輪などプレサンスは喜んではくれないだろう。それなら、彼女が褒めてくれた科学力をふんだんに取り入れて――。

「まずはあの機能も……この装置も欠かせない。あとは……これだ」

引き出しから工具一式と、それからチップを取り出した。チップは、エーテル財団と協力関係を結んだとき、緑のゴーグルを掛けた男が半ば押し付けるようにして渡してきたものだ。「お近付きのしるしに、支部長たるわたしの素晴らしき研究成果をほんの一端ですがお贈りしましょう。これは暴走するポケモンの制御に特に優れるものでして……」とかなんとか言っていたような。覚えていないし思い出す気も無いが。

支部長云々はどうでもいいとしてあれを応用できないだろうか、向こうの機械の仕組みを知るのに役に立てようと保管しておいてよかった。分解せずともスキャナにかければ中身は見える。

「仕組みは単純だ、これに多少手を加えて、この輪に組み入れて……!!!」

ダルスは本来の目的だった休息も忘れて、狂気に執り憑かれたかのように作業を進めていった。



こうして集中すること数時間――“それ”はとうとう完成を見た。天井の照明の下、鈍く光っている。ダルスはあらゆる角度からためつすがめつしてみたが、我ながらなかなかの出来だ。プレサンスが身に着けたとき、金属の破片や尖った部分で怪我をしないようにさらに磨きも掛けておいたし、その点でも問題は無いだろう。ダルスは一睡もしていないのに目も頭も異様に冴えていた。あとは、早く彼女のもとへ届けるだけだ。

「……?」

耳がいつの間にかシャットアウトしていたのかもしれない。訪問者が来たことを告げるチャイムがうるさいくらいに響いていることに気が付いた。せっかく高揚感に浸っていたところだというのに。ダルスが少しばかり機嫌を損ね、“それ”を携えたまま、いつも以上にムスッとした顔になって出てみれば。

「よかったあ……」

そこには胸を撫で下ろすアマモの姿があった。

「どうした」
「ど、どうしたって……つうしんいくらいれてもでてくれないんだもん、ダルスったらどうしちゃったかとおもってみんなしんぱいしてるからあたしみにきたんだよ!だいじょうぶ?やすめた?」
「……ああ」

そういえば通信端末に何度か着信が入っていたようだ。だが、作業を妨げるなという気持ちをぶつけるようにベッドに放り投げてしまっていたのだった。休めたか、という問いにも半分上の空で答えつつダルスは思う。早くプレサンスのもとへ行きたいのだがな……いくら心配だったからといっても押しかけなくとも良かっただろう。アマモをどういなしてここを離れるか、そう考えかけたときだ。

「だいニュースだよ、RRがきえたからウルトラホールがまたひらけそうなんだって!」
「何だと!」

ダルスは目を見開いて叫ぶように聞き返した。プレサンスの帰り道が開かれるその時が、こんなにも早く訪れてしまったのを知らされて驚き焦ったのだ。だが彼の内心を知る由もないアマモは、おそらくミッションがようやく上手くいったことからか、弾んだ口調で話を続ける。

「ミュウツーってほら、カントーにいるっていうすっごくつよいポケモンのしりょう、エーテルざいだんのビッケさんにみせてもらったでしょ?かんそくたいは、あれくらいつよいポケモンが、いちどになんびきもすごいエネルギーをまとってとおっていったせいで、RRがふくれすぎてウルトラホールがけされちゃって、さすがにルナアーラ1ぴきのちからだけじゃあかなわなかったんだっていってたよ。でも、だれかがみんなやっつけたからもうだいじょうぶそうだって。ねんのためにもうしばらくくうかんのようすをみて、あんていしてるのがかくにんできしだいになるみたいだからいますぐってわけじゃないらしいけど。ね、これからいっしょにプレサンスさんのとこにいってつたえようよ。きっとよろこぶよ!」
「……」

ああそうだ喜ぶだろうとも、プレサンスはな。だがおれは全く喜べない!今すぐにではないにしても、確実にそのときは来てしまうのだから。彼女が、離れてしまう日が……。

させはしない。急がねば。ダルスがそう思いながらアマモの脇をすり抜けると、“部屋から出ていく”という意志を読み取ったのだろうAIが自動扉を閉めた。

「ダルス?どうしたのさっきから……なんだかヘンだよ。それに、なにもってるの?」

アマモをそこに置いたまま歩き去ろうとしたダルスだが、彼女は仲間の異変を察したか、訝るような声色で訊ねてきたので立ち止まった。おそらくこれが他人だったら反応もしなかっただろうが、せめてものよしみというやつだ、必要最低限のやり取りくらいには応えることにする。

「何でもない。それからプレサンスの部屋にはおれだけで行く」
「えーっどうして!いっしょにいこうっていったでしょっ」
「さきほどおまえが話していたことをそのまま伝えれば良いのだろう?何よりプレサンスは疲れている。朗報をもたらすためとはいえ2人で押し掛けて良い理由にはならない」
「そっかあ……うん。よろしくね」

アマモは積極的に賛成した……というより、気圧されたために同意したといったほうが正確そうだ。ダルスは返答を聞くが早いか歩き出す。そのまま早足でウルトラメガロポリスを突き進み、これまでで一番早くプレサンスの部屋に辿り着いた。インターホンを鳴らそうとすると、気が急いたばかりに指先に力がこもってガッと耳障りな音が立った。

“オナマエトゴヨウケンヲドウゾ”

「ダルスだ。プレサンス、開けてくれ」

もどかしい、早く。誰何する電子音声にそんな気持ちを募らせたダルスが早口で言うと、すぐに“オハイリクダサイ”という声が続けてした。ドアが完全に開ききるのさえ待ち切れず、彼はその隙間から体をねじ込むようにして室内へ入る。

「ダルスさん!」

果たして迎えたのはプレサンスの声。しかも張りを取り戻していて――不安を隠している様子など微塵も感じさせない笑顔を浮かべている。久方ぶりに見るそれは無理して作っているふうでもない、心の底から嬉しそうだ。おれの訪れを喜んでくれているのか?少し期待をしかけたが、そんな都合のいい考えはすぐに打ち消された。

「さっき少し前にミリンさんが、RRが消えたからウルトラホールがまた開けそうだって教えてくれたんですっ」
「……!」

そうだ。何らかの事情でプレサンスのもとへ行けない場合には、ミリンに報告と様子見を代わってもらっていた。その時にあいつから伝えられたのか……ダルスは内心でほぞを噛んだ。盲点だった、あの日そのようなことを頼むのではなかったな。しかしだから何だというのだ?それを知ったところで、何が何でも、帰り道が繋がろうとプレサンスはここにいてもらうのだ。

「本当に、本当にありが」
「プレサンス。きみは帰さない」
「えー、そんなあ……冗談きついですよ」

ダルスはプレサンスが礼を述べるのを遮って告げたが、彼女は本気にしたわけではないようでふふっと笑うだけだ。

「……」

解らないのか。ならば、解らせるだけだ。プレサンスはベッドの上で上体を起こしたままの状態だったが、ダルスは彼女のもとへつかつかと歩み寄る。見下ろすプレサンスの顔には、次第に故郷に帰れるのを知った喜びに代わって、当惑と怯えの表情が浮かび上がりつつあった。長身のダルスが無表情で無言のまま歩み寄ってくるのに威圧され、しかも「帰さない」などと、これまでの約束を反故にするようなことさえ言い出したせいで混乱したのだろう。

どうして。プレサンスは本能的に危機感を覚えた。距離を取ろうとして、しかしそのまま壁際のベッドで後ずさりをする。ダルスはそのまま後を追うように、ベッドに乗り距離を詰めていくうち――とうとう、壁際に追い詰めた。彼の様子からして冗談ではないことを悟ったらしく、プレサンスは恐る恐るといったふうに口を開く。

「うそです、よね?帰してくれるって……」
「プレサンス。きみはウルトラメガロポリスにとっての光であると同時におれの光なのだ。科学の力で作った光より遥かに暖かい。アローラで目にした光ともまた違ってより優しく心地よい。二度と離れたくなどない。だからここに留まってもらう」
「そんな……だ、第一わけが解らないですよ私のこと光なんて言われても!私はただの人間でポケモントレーナーで……」
「いや、プレサンスはまごうことなき光だ」

ダルスはきっぱりと答えるや、携えていた“それ”をプレサンスの首周りに巻き付けた。“光”はもう、おれの目の前以外のどこにも見えはしなくなる……!こみ上げてやまない陶酔感に支配され、自分でも驚くほどの早業になった。

「ひゃあ!な、なんですかこれっ」
「友好のしるしだ」
「ダルスさん?さっきから、本当に何言って……」
「プレサンスのキュワワーに倣ったのだ。好ましく思った相手にそのしるしとして自分で作った輪を贈る習性があるのだろう?あれに感銘を受け真似て拵えた。きみがウルトラメガロポリスに迎えられたという証に」

だがプレサンスはほとんど聞いていなかった。どうして?なんで?ダルスさんはどうしちゃったの?帰してくれるんじゃないの?逃げないと大変なことになりそうなのに、どうして体が動かないの……?恐怖に身を竦ませる彼女をよそに、ダルスの口から零れる熱に浮かされたような呟きと彼の手の動きは止まらないままだ。

「この世界は広大だが万一おれとはぐれても案ずるな、首輪には直ちに探し出せるよう発信機も内蔵してあるのだ。更におれしか知らない解除コードを組み込めば……」

ダルスがプレサンスには理解の及ばない、というより理解したくないことを並べ終えたそのとき、カチリという音が立った。野生のポケモンが、モンスターボールにとうとう捕らえられたときに立つ音のようでもあった。

プレサンスから「あ」と声にならない声がまた出る。彼女は夢なら醒めてと願った。けれど、首筋にゾッとするほど固く冷たいそれが食い込む感触がして、ああ、これは悪夢よりひどい現実なのだと無情にも思い知らされる。

「いや!こんなもの要らないからアローラに帰してくださいっ!」
「な……やめろ、外さないでくれ!」

思わず懇願する言葉がダルスの口をついて出た。友好のしるしとしてプレサンスに贈ったというのに、目の前で“こんなもの”呼ばわりさえたうえに全力で拒絶される様子など見たくなかったのだ。

だが半狂乱に陥った相手にはまるで届かない。「いや、いや、こんなもの付けたくない!助けて、誰か助けて」そんなうわごとをまき散らしながら、プレサンスは首輪を首から1ミリでも遠ざけたいとばかりにもがく。彼女にしてみれば、まるでここに繋がれたままもう帰ることはかなわないのだ、と宣告を受けたようなものだったから――。

だが、突然小さくパチンという音がして。

「、っ」

プレサンスは次の瞬間、体を駆け巡った電流に小さな悲鳴を上げた。こんなのおかしい、こんなのってない。受けたショックのせいだけでなく、あまりのことにどんどん気が遠くなっていく。

パパ、ママ、ニャース……リーリエ、ハウ。グラジオ、ククイ博士……みんな……どう、しよう。かえりたいのに。たすけて……ああ、目の前が真っ暗……この、世界みたいに――。

… … … … …

そのままとうとう気を失ったプレサンスが崩れ落ちる寸前、ダルスはすんでのところで彼女を抱き止め、悲し気にかぶりをふった。

「おれだけが知るパスコードを入力しない限りは外れない、と説明するところだったというのに。無理に外そうとしても、首輪に組み込んだAIがその動作を察知次第気絶する程度の電流を流すシステムも組み込んである」

今の状態のプレサンスに届きはしないのを知りつつも続けた時、良心のかけらが不意にダルスに何かを囁きかけてきた。そうだ、これはとても似ている――。

「おれらの先祖は欲張り、ネクロズマの光をすべてコントロールしようとした……だが結果はどうだったか?ネクロズマを傷つけ……」

プレサンスとその友人の少年に、その昔このウルトラメガロポリスに起きたことの原因と顛末を教えたことがあった。なんと皮肉な、あの時話した内容とこうも似ているとは。時代は輪(まわ)るというやつだろうか。

おれも同じような運命を辿るのかも、な。ダルスはふと思った。プレサンスを帰したくないと欲張ってコントロールして、彼女を別の意味で傷付け、きっと嫌がって帰りたがるだろうプレサンスをこの世界に押し留めようとして……それこそ輪のようになって抜け出せないループが、その先にあるのだろう。

「だがそれでも構うものか、だってとうとうきみを手に入れたのだから。ずっと一緒だ……プレサンス」

ダルスは天井から降り注ぐほの白い光を反射する輪をそっとなぞって、プレサンスに囁きかける。返事が無くてもどうでも良かった。

首輪に反射した光は、アローラに降り注ぎ溢れるそれとは比べ物にならないほど、寒々しく冷たい。



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