聖夜に寄せて―sideYou


にやにや、でれでれ。多分私の今の顔を見たらきっと誰でもそう言い表すしかないと思う。顔がそんな状態になってるのが自分でも鏡を見なくてもわかるくらいだから。
今旅から一旦帰ってきて部屋のベッドにねっころがった私が手に持ってるのは白に銀ラメが散った封筒。おととい届いたんだって。ブルーブラックのインクで住所はもちろん私の、それに裏面には差出人の名前が書いてある。今まで数えきれないくらい書いてきた自分の名前も、あのひとが綴っただけで何度も見返してはうっとり見とれちゃうくらいだからふしぎ。字が綺麗だからなおさらそうなのかな。
しかもいい香りもしてくる。きつすぎずにほんのり香ってて…字と、そして香りと。ここにはいないけれどあのひとのかけらがここにある。
パタパタという音を立ててヤヤコマが1階から飛んできた。カロスで最初に捕まえた子。でれーっとしてる私のそばに着地して不思議そうに首をかしげながらピピ、って小さく鳴く。
「ねえ見て見て、いいでしょ?博士からカードもらったの」
嬉しくて思わず見せびらかした。ただ興味はわかなかったみたいでちょっと見てすぐにそっぽ向かれちゃったけど。

カレンダーはもう12月を半分以上過ぎた。カントーから越してきた私はカロスで初めてのノエルを迎えようとしている。
きっかけは画家のママがカロスの展覧会に入選してその副賞で留学することになったから。それにくっついて今年のはじめにハクダンシティに越してきてからもうすぐ1年。早いなあ。
これまで他の地方のことっていえばジョウトとかホウエンとか、あとシンオウのことくらいしか知らなかった。だからこっちの習慣のこととか、1日ごとにいろいろ発見や驚くことがたくさん。でもパパが転勤族だったから今までいろんなところに住んだ分の適応力でそれなりに楽しくやれている。
で、発見と言えばノエルのことだってそう。恋人同士で過ごすものだってずっと思ってたらこっちじゃその日は家族で過ごすものなんだって。生まれて初めてできた恋人のプラターヌ博士にそう教えてもらった。
知った時は最初は正直言ってちょっとがっかりした。ミアレシティのライトアップが綺麗で有名なのは知ってたから、当日に一緒に見に行きたかったのに。でもそれはかなわないんだ…。
そしたら博士は次にこんな誘いをかけてくれた。「カードを交換しようよ」って。

その前に、なんでプラターヌ博士と私みたいな子供が恋人になったかっていうと―
引っ越してきて少し、暮らしにちょっと慣れてきたころ。パパの知り合いのひとから、博士がポケモン図鑑を渡す子をもう1人探してるんだけどどうか、って話を持ちかけられたのが始まりだった。
私はもうトレーナーになれる年はとっくに過ぎているけど、これまであんまり旅に出たいとは思わなかった。転勤族の宿命というかカントーの街にはほとんど住んだことがあるから、見知った地方をいまさら旅する気にはなれなかったせい。
だからそこに降ってきた話は願ってもないものだった。そもそもパパには悪いけどママに付いてきたのはまだ見たことのないカロスがどんなところか知りたかったから。あと何年かはカントーに戻ることはあっても基本こっちで生活するってママは言ってたし、折角のチャンスだと思って受けることに決めた。
そして研究所に初めて行った日のこと。約束の時間に行ったのはいいけれど博士が急用でいなかったから助手さんにしばらく待ってるように言われて。応接室のソファに通されて出されたジュースを飲みながら周りを眺めたら、そばにすごく色合いが綺麗な絵があって思わず目を奪われた。満開の花畑にカントーでは見たことのないポケモン―あとでフラベベって言うんだって分かった―が飛び交っていて。あんなに素敵な絵、初めて見たから見惚れちゃった。
そしたらやってきた博士に「はじめまして…おや、その絵がお気に入りになったのかな?」って訊かれたの。博士って言うからには勝手にもっとおじいちゃんなのかなって思ってた。でもとってもおしゃれでかっこいい人で正直イメージに結びつかなかったからびっくりしたっけ。
それはそうと色合いがとってもいいなって思ったんです、って答えたら「僕もその絵の色合いがいっとう好きなんだ、おそろいだね」って、満面の笑顔で褒めてくれて。
それがきっかけで図鑑を渡されてからもそのこと以外についても話すようになって、色々あって告白されておつきあいし始めて…ほんとに今年はいろいろあった。


それでカードを贈り合うことになった時の話に戻るけど…博士からそう誘われた時、あるお話を思い出した。
昔読んだ本のシーン。タイトルは忘れちゃったんだけど、ある女の子が好きな人にプレゼントを用意したかったんだけどでもできなくて、だからせめてクリスマスカードだけは丁寧に作ろうってがんばるの。その挿絵がすごく素敵で印象に残ってて、いつか好きなひとができたらしたいなってずっと思ってた。
だからそう言われた時、賛成したはいいけど後先考えずにその話をしちゃって恥ずかしくなった。やっぱり子供だなあなんて笑われるかなって。慌てて変なこと言ってごめんなさい、って謝った。
でも博士の反応はっていうと、笑ったりなんかしなかった。それどころか
「僕もあの本好きだよ!君はやっぱり素敵なセンスの持ち主だね」って。それに続けて「こうして感性を分かち合えるからプレサンスが大好きなんだ」って言って、ぎゅーってしてくれた。
すっごく嬉しかったなあ…はあ、思い出すだけで顔がデレデレしちゃってしょうがない。

さて…ずいぶんもったいぶったけどそろそろ開けていいよね、うん開けちゃおう、よし開けるぞ。うっかりビリッと破らないように気を付けて、そーっと、そーっと…ペリ、ノリがはがれる。
私が贈ったのはフシギダネ、フシギソウ、フシギバナがツリーを飾り付けてる様子を飛び出す仕掛けに仕立てたもの。ママの指南も受けながらあの本になぞらえてがんばって手作りしたけど気に入ってもらえたかな…博士はどんなのを贈ってくれるんだろう。慎重に剥がし終わった封を開いて中身を取り出す。
出てきたのは白い天使の形をしたカードだった。2つ折りになってる。中に何かメッセージが書いてあるのかな。プレゼントを開けるときみたいに心臓をトクトク言わせながら開いた。―そこには。


『これを読んでくれているプレサンスへ。

いま、どんなノエルを過ごしていますか?素敵なノエルのひとときを過ごしていますか?
君が楽しく過ごせていますよう。心からそう願って愛しのプレサンスへ贈ります。

君を愛するプラターヌより』


きれいな字でシンプルに書かれたメッセージに目はもう釘づけ。控えめに光る銀ラメがきれい。読み終えるのがもったいなかったからゆっくりゆっくり読んだ。さっきは興味のなさそうだったヤヤコマまで気が変わったのか覗き込んできた、と思ったらカードのはじを噛みはじめた。慌てて取り上げながら最後の「り」の字をかみしめたら、一気に顔がぽーっとして―次の瞬間私は文字通り〈だいばくはつ〉した。

「きゃーどうしよ!どうしよ!愛しのプレサンスだって!愛してるって!私を愛してるって!やーんもう嬉しい!」

ヤヤコマが慌てて避難して驚かさないでよ、って言いたそうに鳴いた。ごめんね、でも今はこうさせて!
そのまんま叫びながらゴロンゴロンベッドを転げまわった。足はジタバタ、顔は真っ赤。ストレートな言葉が照れくさいやら嬉しいやらでもうできることがそれくらいしか思いつかない。
それにこのメッセージで思い出したけどあの言葉も嬉しかった。
家族で過ごすもの、って聞いてちょっとがっかりした時。表情には出してないつもりだったけど博士は気づいたのかこう言ってくれた。
「じゃあ、僕とプレサンスがゆくゆくは家族になればいいよね」そうしたら一緒にノエルを過ごせるよ、って。

しばらくは意味がつかめなくてぼけっとしてた。でも少しして分かって―顔真っ赤になった。
私、博士のああいう大らかでそれでいてよく気がついてくれるところが好き。それにしてもその言葉通りになったらどんなにいいか…!

―もっとも。
「いたっ」
ベッドの上にいたっていうのに忘れてどたばた動き回ったせいで、床に落っこちて現実に引き戻されたけど。
多分ヤヤコマが話せたらばかじゃないの、って言うんだろうなあ。でも気にしないで開き直っちゃお。おでこをさすりながら呟いた。

ええそうですとも、私は大ばかですとも。きっとカロス…じゃなくてこの世で一番のプラターヌ博士ばか。きれいな字もあの優しさもぜーんぶ大大大好きです!はいはい悪うございました!

…なんて、誰に言うでもないけど。よし、ベッドによじ登って仕切り直し。今度は暴れずにうっとり余韻に浸ろう。そう決めて目を閉じた。

博士、だいすきなプラターヌ博士。すてきな贈り物をありがとう。ずーっと大事にします。あなたにも素敵なノエルがやってきますように。
目を閉じたままそっとカードに唇を寄せたらほのかな香りにあのひとの優しい笑顔が浮かんで、私の口元はいっそうほころんだ。



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