おかしをくれたら


10月31日、時計は日付と同じ10時31分を指したところ。ただし、夜の。テーブルシティ名物のハロウィンパーティーはきっと今最高に盛り上がってるんだろうな。私はそうするのちょっと恥ずかしいから眺めるだけにしてるけどそれでも楽しいんだ。ただ今年は残業になっちゃったから行けないの残念……そろそろ休憩しよっかな。インスタントのお茶を淹れてから、おあつらえ向きに今日もらったお菓子を口に放り込んでいく。お昼までに撮った写真をスマホロトムのスライドショー機能で見返しながら。

我がパルデアリーグは割と自由っていうか緩いっていうかだから、職員もこの日はお菓子配ったり仮装して仕事したりして良いよってことになってる。今年は、トップとポピーちゃんがお揃いで魔女っ娘(そういえばあの首から提げてる鍵の形したポーチからアメ出して配ってたから、ありがたくもらって食べた……でもよくよく考えたら私があげる方だったよね?)。ハッサクさんの吸血鬼はすごく似合ってた。コルサさんと用意したとか、あの格好で今日のアカデミーの授業するとか聞いたっけ。チリさんは「今年はネタに走ったるねん」とか宣言してパンプジンの着ぐるみ姿でピースサインしてたけど、それでもイケメンなんだからすごいよ……ところでそういえば、アオキさんはどんな仮装するんだろう。ちょっと良いなって思ってる人のいつもと違うすがたを思い浮かべてみる。外回りが多いから内勤の私はそんなに会えるチャンス無いけど、確か今日は直帰じゃなかったはず。トップの指示ならなんだかんだこなす人だし、びっくりするようなカッコしてるかも?

「お菓子をもうちょっとくれたら残業頑張っちゃうぞ。なーんて」

スライドショーがそろそろ一周しかけてる。お菓子はみんな一口サイズだからあっという間に平らげちゃった。でももうちょっと欲しい。ひとっ走りデリバードポーチに行こうかなって思い立ったけど、そのときなんか言葉だけでもハロウィンっぽいことがしたくなって、冗談でそう言ってみた。そしたら。

「菓子ならありますが」
「きゃー!?」
「どうも……」

声がしたからびっくりして振り向けば、アオキさんがいつにもましてくたびれ感たっぷりで帰ってきたとこだった。少し恥ずかしくなったけど、それを忘れたいのもあって手早くお茶を勧めた。いつも一言多くて嫌われてる役員に出さなきゃいけないときに用意する適当なのとは違う、アオキさん用にちゃんと美味しくなるように温度を調整しておいたお湯を使って。「プレサンスさんの茶はいつも美味いです」って言ってくれるのが嬉しいから。

「そういえばアオキさんはどんな仮装したんですか、写真見せてくださいよ」
「生憎ですが撮影はしてないんで」
「なーんだ」
「見ていて特に楽しいもんではないかと。それより」

アオキさんはくたびれたカバンをごそごそやり始めた。

「プレサンスさん、よろしければどうぞ」
「わ、みんな私の好きなお菓子!ありがとうございますっ」
「それなら何よりです。プレサンスさんに差し上げるためだけに用意してたんで……」

いつも通り無表情っぽいアオキさんの目に、今までに見たことないくらいいたずらっぽい光が見えた。



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