NO DATA!


アカデミーの職員室はいつだって賑やかだ。教職員同士の「テスト問題どうしますかねー」「1−Aの子なんだけど……」などのやり取り、訪れた生徒たちからの質問、めいめいの連れているポケモンの鳴き声に満ち溢れている。

「ううん……」
「? どうされたんですか、ジニア先生」
「……」

一方。そんな様々な明るいざわめきの中、事務員であるプレサンスと、彼女を目の前に呟く生物学教師ジニアの間に漂う雰囲気は何やら一味違うようで。

どうしましょう、そんなに真剣に見つめられたらドキドキしちゃうのに。しかも学校最強大会のときみたいな、ジニア先生のことが気になるようになったきかっけのキリッとしたお顔で――プレサンスは、想い人にじっと視線を注がれることに戸惑いと、それを上回り込み上げてやまない嬉しさとを同時に感じながら彼を見つめ返す。お仕事中なのにこんなこと考えちゃったらいけないかしら、だけど止めてなんて言えない、言いたくないのはどうしてかしら?とも考えつつ。だがそこでジニアがいつものへにゃりとした顔に戻ってまたドキリとする。物知りなところはもちろんだけれどやっぱりこの笑顔に私は弱いんだわ、と改めて思いながら、口を開きかけた彼の言葉を待つ。

「実は……プレサンスさんを見ているだけで、なんだかドキドキしてたまらないんですよお、ぼく」
「まあ!ジニア先生もそうなんですか!?」
「『も』?ということは」
「どうしてなのかよく解らないんですけれど私もジニア先生にお会いするとそうなるんですっ。もちろん今だって」
「わあーわあー、それじゃあおそろいなんですねえぼくたち!」
「嬉しい〜」

ああプレサンスさん、いつ見ても本当に素敵だなあ。ところでどうしてぼくはプレサンスさんと初めて会って以来、彼女がテラスタルしているみたいに輝いて見えて仕方がないんですかねえ。あの現象はもしかしたらポケモンだけでなく実はヒトにも何かしらの影響を及ぼしているのかなあ、でもだとしたら何故プレサンスさんなんでしょう?……ジニアはプレサンスに見とれつつ、同時に科学者の性として仮説を立ててしまう。そういえば研究員時代は、研究に関係の無い書類だとかを提出するのはいつも遅れ気味で、クラベルからはそのことでお小言をちょくちょく頂いたものだった。けれど、プレサンスさんが転職してきてからというもの格段に減っている(全く無くなったとは言っていないけれど)。そんなことで彼女を怒らせたり悲しませたりしたくない、いつでも“テラスタル”していてほしいから。


……ところで、ジニアとプレサンスがそんなやり取りを繰り広げているここは職員室。となれば当然他の職員の目もあるわけで。

あれを甘い雰囲気と言うのだろうか、とサワロは考えた。ちょうど先ほどハルトがくれた念願のあまスパイスを、どう料理に取り入れようかと思案していた頭の片隅で。

「ピュアか!?」……ミモザは今にもそうツッコみたくなるのを押さえつつ、この二人が病気だとしたら恋の病とかいうやつかも、と思った。

セイジは「感情がアンダースタンドできないと言葉にするのは難しいねんなー」と苦笑いした。今日は彼の肩に乗りたい気分らしいパモは、いつも通り静かに、しかしじっとプレサンスとジニアを見つめている。

我関せずとばかりに宿題の採点を進めていく(ただしその目は片や宿題と、片や卓上に置かれたスマホに表示されている『東災難北から見るパルデアの過去』『ラベン博士の功績を巡る』『くたばれ現代史』なる本を扱う通販サイトのページとの往復に忙しい)レホール。その横で、ある意味プレサンスとジニア以上に「解っていない」キハダは「仲が良いのは良いことだな!」とばかりに満面の笑みを浮かべて頷く。

微笑ましそうに件の二人を見守ったあと、タイムは次の授業のため職員室を出て行った。ハッサクは四天王の仕事で今日は不在だが、もしここにいたら「小生ジニア先生とプレサンスくんの美しい仲に感動がどま゛り゛ま゛せん゛!!」と号泣していただろうか。

そこへ入れ替わりに現れたるクラベルは、先日のジニアの質問をふと思い出す。共にとある出来事を経て教職に就いたわけだが、かつての研究員時代からの付き合いでもある分色々と相談に乗ってきた中で、最近「事務員のプレサンスさんを見ると心拍数が上昇して顔も赤くなってしまうのですが何故なんですかねえ」と、ジニアに心底不思議そうに訊ねられたことを。

問われたあのとき、事情を知らなかったクラベルは大真面目に人体生理学に基づく推測と仮説をジニアと披露しあったけれど、でも今は解る。プレサンスを前にした彼の様子を見たからには。

その“ドキドキ”に「生物学的大発見」と言える名を付けるなら、それはきっと――。



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