乙女デー
ごっつ遠いとこから色々あってパルデアに来てなんとかやっとる、チリとうち。もう何年帰ってへんやろ? こっちいる日の方が長くなってもうたかもしれん。せやかて、何だかんだ時々はあの味が懐かしなるし。
っちゅうことで。毎年おひいなの日は、奮発してローリングドリーマーのいっちゃんお高いちらし寿司にクリアスープと、「チリ&プレサンス 3.3」って書いたプレート(あと、ドオーやうちのディグダの飴ちゃん細工)載っとるムクロジのケーキでお祝いしてん。なんたってうちらが「ええ仲」になった日でもあるんやし。しかも今年は「チリおねーちゃんとプレサンスおねーちゃんが、おひなさまのおにんぎょーになったところかいたのです!ハッサクおじちゃんやアオキおじちゃんもいますの」ってポピーちゃんがくれた、ホンマかぁいい絵も飾っとるんや。
せやけどなあ、今年はせっかくのお祝いの日やっちゅうにえらい邪魔が入ってからに。
「チリ。入んで」
ドオー柄のカバーかけたダブルベッドでヘバっとるチリにちっさい声で言うて、そーっと近寄ってく。「具合どないなん」って訊いたら、チリは真っ青なしかめっ面して「ん゛ー」なんて唸った。うちがちょい前にベッドん横(チリが外したピアスの山の端っこ、ギリ空いとる隙間)に置いといたカンポーやく服〈の〉んでんけど、それでもしんどいんかなあ。
「あちゃー、チリの美人さんぶり台無しやないか。今月も貧血エグいん?」
「せやねん。それにぽんぽんもなぁ……なんせ絶賛“出血”大サービス期間中やさかい」
普段やったら絶対「誰うま!」って爆笑しながらツッコんどる。でも今は止しとこ。面接んときとも、そうやないときとも正反対の、アレのときのぐったり目な声。おまけに「しんどそ」って心配になってポロッと言うたうちに、チリは目ぇギューッと閉じたまんまなんも答えんとコックリするだけやってんから。
四天王の仕事んときに来よったら鎮痛剤と根性で耐えとるゆうねんけど、この分じゃ今月のは相当キとるんやろな。全然軽いうちと違ごて、チリはいつもお月さん重いらしいんや。いつもみたく軽口叩くどころやのうなるし、ニコニコさんな顔もどっか行ってまう。
――で。それにも1つおまけで。
「なぁなぁプレサンス〜、チリちゃん一生のお願いあるねん……ぽんぽんに手ぇのっけて、そんでもってうんとナデナデしてやあ」
実はアレの間めっちゃ甘えたさんになんねん、チリ。同性やし解らんでもないけどホルモンとかそういうんの関係なんかな、乙女モードゆうやつ?知らんけど。
それは置いといて、普段はうちのほうがベタベタしすぎて、チリに「プレサンスってネッコアラなん?」てちょい本気で呆れられてまうこともようある。せやけどそれがひっくり返るんや。ポケモン勝負強おて、男前やのに気さくでビシッと締めるときは締めるチリが、やで。チリがしんどいときやっちゅうに、なんでうちはこないなこと考えるんやろな。そいでもどーしても思ってまうねん、うちのチリがかわええて。たれ目の上目遣いでうちの方見よったらキュンてなってまってしゃーないし?イケメンときどき甘えたとかな、もうズルいわ!
「チリのためならこんくらいなんぼでもしたるわ、一生とか言わんと」
「なんや今日さらにイケメンやんプレサンス。チリちゃんまたときめかしてからに……こういうこと、したなるやろ」
イケメンはチリのほうやん……って思っとったら。そう言いながらチリが、布団めくった下から乗っけとったうちの手に、細長ぉて指のシュッとしたお手々伸ばしてきて――うちらの手ぇは、キュッて引き締まっとるお腹の上で恋人つなぎなった。チリは歩くときいっつもポケットに手ぇ突っ込んどるし、出しとっても大抵あのグローブしよる。せやからなんも着けとらんとこ見たりこうして触れ合ったりできるん、実は(チリの手持ちのコ以外なら)うちだけなんや。
「はーぬくいわ、バクーダくらいぬくい」
「そら何よりや。って、うち燃え尽きてまうやん!?1万℃のマグマ溜めてんねんであのコ」
「なはは!」
笑ろえるくらいには良うなったんかな。顔もさっきよりちょい赤なっとるし、繋いだときはひゃっこかった指先もポカポカしとる。
「まだ、ええ?プレサンス」
で、そんなおねだりのあと……チャレンジャーが面接に合格したときみたくニコッとされたら、なあ。たまらんて。ずっと見てたいんをほんのちょこっと我慢してチラッと時計見た。よっし、頼んどったデリバリー来るまでもうちょいあるな。それまでずーっと、チリとこうしとこ。
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