ごきげんもよう


ガラルで一番のホテルのロンド・ロゼは何もかもが最高。私が何か言う前にエスパータイプみたく予知してあれこれしてくれるスタッフさんとイェッサンたちに、超絶品のご飯(もちろんママのお料理やカレーも負けてないけどね!)。お風呂はプールみたく広くて、キルクスタウンの温泉から毎日送ってもらってるお湯が出てくる。上がった後に迷わずダイブしたベッドは、バイウールーみたいにフッカフカ……こんなゴージャスなお部屋使わせてもらうだけでもチャンピオンになってよかったって思ってる――それに、ネズさんと近づけたことだって。

こんなこと言ったら絶対炎上するんだろうなあ。もちろんだからそういうことは言わない、でもって代わりにあのひとみたいにシャウトしちゃおっと。ここ最上階だし防音しっかりしてるし、いいよね?

「やったー!ついにネズさんからオッケーもらえたぁ!」

最高なのは今の気分も空模様も同じ。私は今日開かれたガラルスタートーナメントで勝った。圧勝って言ってもいいくらい。それももちろん嬉しいけど理由はもう一つ。ずーっと「デートしたいです!」ってアタックしてたネズさんに今日ついに「いいですよ」って返事もらえたから。ネズさんと組めるようになってから、手持ちのわざも構成も練りまくって考えに考えて、サポートも攻撃もバッチリなパーティにしておいて良かった。

「ノイジーですねプレサンス、落ち着きなよ」

さっきロッカールームで話した時のネズさんの声を思い出しながら(別に面と向かってそう言われたわけじゃないけど)頭の中で思い描く。それだけでもう勝手に顔がニヤニヤしてきちゃう。今の私には、窓の外の曇り空さえ輝いてるように思える。

「空を雲が占めている割合によって、晴れか曇りか決まるのよ。今日は9割以上が雲で隠れているから曇りね」……って、ヨロイじまでルリナさんに会った時教えてもらったっけ。そう言ってた通りに、今日は絶賛曇り。窓の外の空はいわタイプが大集合してるみたく濃い灰色の雲に覆われてる。今日も昨日もそうだったし、きっと明日もどんよりしてて、今にも雨でも降ってきそう。ガラルはそんなお天気になる日が多い。

これまでの私だったら、曇りの日を最高なんて思うわけなかった。暗いし、気分までなんかどんよりしちゃうし。

だけど……ネズさんのこと気になり始めてからは嬉しくなったんだ。だって好きな人がご機嫌になってたらこっちも嬉しいじゃん。これもヨロイじまで、今日みたいなお天気の日に「こういう天気の日はアニキ機嫌がいいんよね」って、マリィがくれた大ヒントのおかげ。

だから、そういう気分のとこにアプローチしたらいいイメージ持ってもらえるかもって思って、ネズさんにこっちから連絡する日はなるべく曇りの日を選ぶようにした。ネズさんが私のことまだそんなに意識してくれてないのは何となく解ってたから。「振り回されてばかりで大変ですよ、プレサンスには」とか、ヨロイじまで会った時なんか「ゲッ……」とか言われちゃってたし。

「着信ロト、着信ロト!ネズからロト!」

スマホロトムの着信アラーム(当然ネズさんの曲!)が流れ出す。そうだ、電話する約束だったんだ。試合後はお互いメディアの対応もあるし、それに加えてネズさんはニューアルバム出すためのプロモーションを本格的に始めるみたいで打ち合わせにすぐ向かったから、あとで時間取ろうってことで。

「もしもしプレサンスですっ」
“おれです。今日はお疲れ様でした。きみの手持ちにはずいぶん助けられましたよ。それじゃ本題ですが、リクエストをどうぞ”
「この間スパイクタウンに新しくできたカフェ気になってます!」
“オーケー。確かに受け付けましたよ。待ち合わせは……”

本当はもっとおしゃべりしたい。でもネズさんは用件とか必要なことだけまとめたいみたい……忙しいのに時間作ってくれてるんだろうから、長引かせてもあんまり良くない。解ってるの、遠くないうちにまた逢えるって。それでも、そうはいっても寂しいな――そう思いながら色々決めて、電話を切る直前。

“そうだ、プレサンス。曇りの日にきみからメッセージが来るうちに、まあ……きみのことは悪く思わなくなりましたよ”
「ほ、ほんとですか!?」
“ええ。当日は曇るといいですね、変な言い方でしょうが。それじゃプレサンス、おれはこれで”
「は……はいっ!」

こうかはばつぐん、ってきっとこういう感じだと思う。テレビ通話の画面の向こうで、ネズさんが初めてちょっと笑ってくれた。デートっぽいことの約束もできた。ヒントくれたマリィに大感謝。この間「バトルカフェのモルペコマフィン、タイミングが合わんけんなかなか手に入らん」って溜め息吐いてたからたくさん奢ろうかな?ちょうどバトルカフェの運営会社がスポンサーに就いてくれたばっかりだし。

まだ私は見たことのないネズさんの「ごきげんもよう」って、どんなふうなんだろ。曇りの日が、こんなに楽しみで待ち遠しくなるなんて……デートの日が、早く来ないかなあ。



目次へ戻る
章一覧ページへ戻る
トップページへ戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -