七人のクリスマス

「ねえ!クリスマスをやりたいの!」


屋敷中にそんな声が響いた。


「クリスマス…って何。あやね」

「クリスマス、外ノ世界デハ12月24日ヲクリスマスイブ、25日ヲクリスマスト言イ、パーティヲシタリ、真夜中良イ子ノ所ニハサンタクロースト言ウ人物ガプレゼントヲ置イテイクソウデス」

「そうそれ!さっき図書室で見たの!やりたいなあ」


そんな本で見た情報を急に言われても…と姉妹が困惑する中、茉莉子は瞳をキラキラと輝かせている。
因みに今は24日で、前日な上クリスマスの知識が殆どない七人が今から準備するのは難しいと思うのだが…。


「まあ、茉莉子がやりたいなら…ぼかぁ良いと思うけどね」

「ええ!?」

「わーい!麻衣大好き!」

「あたしも別に良いけど」

「私も!」

「真理亜も!」

「私モ興味アリマス」


とこの姉妹、どうやら次女に相当甘いらしい。
何の反対意見もなく、六人全員がやる気を出した中で
『満里奈は?』
と聞かれてしまえば


「……分かったよ」


と答えるしかなかった。
きっと六人の心は楽しみだと晴れる中、満里奈の心だけは不安でどんよりと曇っている。
まあ、やるからには全力を尽くすしかない。


「はあ…食材の残り大丈夫かな」

「満里奈、予定より早くなくなってもどうせ直ぐに届くんだぜ…」

「麻衣って、母さんの事好きじゃないわりには遠慮なく使うよね」

「利用出来るものは使う、それはそれこれはこれって言うだろ…」


成る程…何て都合の良い考えだ。
実際そうなのだが、実は家計が火の車だったらどうしようと一瞬考えてしまう。
まあ、先程本で調べた感じだとメインはターキーやケーキの様だし、野菜は大丈夫な筈。
パーティの時ぐらいマイナスな事を考えるのはやめようと、満里奈は心に言い聞かせた。


「じゃあいつも通り雛と私が料理で…麻衣とあやねがお肉調達で…飾りつけは桜と真理亜ね」

「私は?」

「茉莉子は…状況に合わせてどれか手伝って」

「えー!?」


いつも基本的に二人一組でやっているから仕方ない。
飾り付けを三人でやらせるのも良いけれど、他の組が手こずる可能性もある。
重要な役だと伝えると茉莉子はあっさりと納得した様だった。
単純で助かる。


「よし、頑張るか」


こうして前日に、クリスマスパーティの準備が始まった。


――――――――――――


「、…衣……麻衣、サボリハ満里奈ニ怒ラレマス。帰ッテ他ノ人ノ手伝イヲスル予定ノハズデス」

「んー」

「麻衣」

それぞれが当てられた仕事を始めてから数時間後。
すっかり白く染まった森の中、サクサクと雪を踏む足音と声だけが響く。
やる事自体は終わっているが、帰り道とは全く違う方向へ歩き出した麻衣をあやねは必死に追いかけていた。
しかし、いくら声をかけても生返事ばかりで、そのままどんどん距離が引き離される。
このままでは見失ってしまう、こんな雪景色の中では迷子になってしまうかも知れない。
鶏肉はこちらが持っているしもう先に帰ってしまおうか…そう諦めかけた時、ピタリと麻衣の足が止まった。


「んー…ぼくはさ、サンタって絶対いねえって思うんだけど…もし実在してたとしてもこんな場所に来てくれると思うかい」

「…サンタデスカ、実在シテイタトシテモ外ノ世界ノ住人ナノデ、ココヘ来ルノハ不可能ダト思イマス」

「だーよなあ…」


急にどこかへ歩きだし、止まったと思ったら謎の質問、そして今度はしゃがみ込み雪を掻き分け始める。
一体この姉は何をしているのだろうか。
あやねが疑問に思い口を開こうとした時、麻衣が再び喋り始めた。


「何か茉莉子とか期待してる顔だしさ…ここは姉ちゃんが代理でもやってやろうと思ったんだけどどうかね」

「代理デスカ」

「望んでる物はあげられないんだけどなー…。怒られたくないなら先帰っていいよ。寒いし」


成る程、そう言う事か。
普段は満里奈にでも押し付けて、その辺りをふらふらとしている事も多い麻衣。
だが、気分なのか何なのか時々長女らしい事をする。
今は外からこちらへ迷い込んできた物や花何かを探しているのだろう。


「…麻衣、私モ手伝イマス。共犯デス」

「お、良いねえ」


恐らく満里奈はあやねがいるなら大丈夫だと思っている筈だ。
苦戦していたとでも言えば多少帰りが遅くなっても怒られないだろう。


「まあ雛には言ってあるし、多分何とか誤魔化してくれてるけど…あーやねちゃーん」

「ハイ」

「…明日楽しみすね」

「ハイ、喜ンデクレルト良イノデスガ」


手や顔を赤くしながら二人でプレゼントになりそうなものを探す。
…サボりもたまには良いかも知れない、そう思うあやねだった。


――――――――――――


「あーもう疲れたー」

「桜ちゃんまだ半分なのに諦めちゃダメです!」

「桜ー、頑張ればプリンあげるけど」

「ちょっと真理亜作業スピード遅すぎ!」

「だって真理亜は物に釣られてないもん!」


二人が外で準備をしている一方、屋敷では料理と飾りの製作中。
時々疲れた何てぼやくものがいるけれど、桜はわりと物で釣れるので、意外と単純なんだなと最近気づいた。
それにしても、二人の帰りが遅い。
窓の外を眺めてぽつりと呟く。


「二人とも遅いなあ…」

「外は寒いからきっと鳥さんも少ないし頑張っているのですわ」

「そっか、じゃあ仕方ないか」

「雛ちゃーん!これどうするのー!?」

「茉莉子お姉様、それはそんなに泡立てる必要はないんですのよ」

「それ作り直しのレベルなんだけど」

「わわわわ!指が仲良しですー!?」


…今は外の二人を気にしている場合ではないらしい。
茉莉子はメレンゲをどうやったのか異常な程泡立てているし、真理亜はボンドで指がくっついてしまいパニックだ。


「ごめんね満里奈あ…」

「うん、別に良いから次は成功させて」

「はーい!」

「多分いったいけど剥がすよーっと」

「あああ痛い痛いいたーい!」

「お湯に指つけてきなさい」


本当にどこかへ意識を逸らしている場合じゃない。
自分も狩りのやり方を覚えて一人で外に出てみたいな、何て逃避はしたいが。
はあ…と何回も溜め息を吐くそんな満里奈とは対称的に、雛芥子はにこにこと笑っていた。


「ふふ、満里奈お姉様。大変ですけれど、楽しいですね」

「ソーダネー」

「でも明日はもっと楽しくて良い日になりますわ。だから張り切って豪華な食事を作りましょうね!」

「…うん、そうだね」


満里奈自身も、何だかんだクリスマスと言うものが楽しみではある。
大変ではあるけれど、全員でちゃんと協力すればきっと何とかなるだろうし、少し失敗してもまた来年やれば良い。
…難しい事も暗い事も考えず、皆と同じように自分も楽しもう。


「雛、ケーキめいっぱい大きくしようか。折角だから」

「まあ!良いですね!」

「あたしチョコが食べたいんだけどなー、チラッ」

「じゃあじゃあ、沢山作るのはどうかな!」

「良いけどあんたらちゃんと食べてよ」

「はーい!」


不慣れな事だらけで大変だけれど、楽しいしやり遂げればきっと達成感も凄いだろう。
こうして賑やかに、クリスマスへ向けた準備は進んでいくのだった。

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