満里奈3

太陽が落ちるまで遊んで、叱られた事、
森で迷子になって、歩き続けた事。
迎えが来て、我慢してた涙が溢れて一緒に泣いた事。
喧嘩して、そっぽを向いた事。
次の日に、ごめんなさいと仲直りした事。
そんな思い出も、いつか全部忘れてしまうのだろうか。





「ただいまですー!」

「お帰りー」


元気な声とともに、勢い良く開いた扉。
今日、五女である真理亜が、数日ぶりに帰ってきた。
荷物をぶんぶんと振り回しながら、変わらない笑顔に安心する。
真理亜は母さんの手伝いをしているらしく、数日屋敷にいない事も多い。
その理由は…。


「そう言えばこの荷物持っていきなさいって言われたんですー」

「あー、それあたしが頼んだんだよ真理亜。ポケットにメモ入れたっしょ」

「じゃあ桜ちゃんにあげます!」

「あざーっす」


…真理亜が記憶を忘れるから。
勿論、姉妹の名前等大事な事は覚えているし、1日から数日程度は覚えている事もある。
いつ忘れるかもムラがあるけれど、とにかく少しずつ何かを忘れていく。
昔の事を忘れる時もあれば、つい昨日の事を忘れる時も。
あとは…決まって母さんと何をしていたのかは忘れてしまう。


「満里奈ちゃん!」

「え…あ、何、真理亜」

「帰り道に見付けたんです、ケロちゃん飼っても良いです?」

「…お外に離してきなさい」

「ガーン!」


…カエルが好きな事は忘れないから、真理亜にとって重要らしい。
しかし、どうしてこうなってしまったのだろう。
記憶を戻したり、治す方法はないのだろうか。


「…母様がやってるのかも知れんなあ」

「え?」


ふと、いつの間にか両隣に麻衣と茉莉子がいて、麻衣がポツリと呟く。


「母様は何やってるか分からんからね…記憶が消える、または母様が記憶を消しても問題がないと判断して真理亜は都合が良いのかもよ」

「んー…お母さんって確かによく分からない時あるかも。あまり信じたくない話だけど…」

「母さんはでもやりそうって思えてしまうのが…」


実際、母さんは謎が多い。
顔も声も、頑張って思い出そうとしても思い出せない。
ただ、声が聞こえれば何故か母だと分かるぐらいで。
それに、皆言う通り何をやっているのか、何故娘達が外の世界へ出たがる事を拒むのか、とにかく娘にも分からない事が多すぎる人だ。
だから、口には出さないけど真理亜を除いて皆麻衣の様に少なからず不信感や不満を抱いている。
…まあ、麻衣は反発が強すぎて何かと母のせいにしがちだけど。


「ふあー…」

「真理亜、眠いならベッドに行こ?」

「もうちょっと起きてます…また忘れちゃうかも知れないから……」

「大丈夫!忘れちゃうならその分楽しい思い出を増やしていけばいいの!」

「…うん!茉莉子ちゃんお休みです!」


…まあ、何が原因でも早く治してあげたいのは変わらない。
皆もきっとそう思っている。


「…ジョジョゼッペ」

「桜だから」

「じゃあさっちゃん…もしさ、真理亜の記憶の件に母様が関係してるならどうするよ」

「あのババア殴る」

「即答とはすげえぜ…」

「ま、まず話し合いしようよ。まだ決まったわけじゃないもの。お母さんだって真理亜を治そうとしてくれてるのかも」

「茉莉子がそう言うならここは従うぜよ…」


う…うん、きっと大丈夫…な筈。
今まで、何があっても七人全員力を合わせてやってきた。
だからどれだけ時間が掛かっても、きっとあの子を元に戻してあげられる。


「一応医学書でも読もうかな…」


母さんが関わってるかどうか、今はどうでも良いしその件は他に任せるとして、色々な可能性を調べないと。
焦らず確実に、進んで行こう。

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