麻衣2
昨日は夜更かしをし過ぎた。
昼頃になっても治まらない眠気と戦いつつ、あくびを一つ。
今日は予定がある訳でもないし、このまま一日中眠っていようか。
さあ、眠りの世界へ行こうと負けを認め目を閉じる。
しかし、そうはいかないのか突然ガシャンと大きな音。
…驚いて眠気がどこかへ行ってしまった。
自分の部屋へ向かってくる足音があると言う事は、ただ物を壊してしまったとかそう言う事ではないのだろう。
「麻衣!麻衣!見て!白い猫さん!」
白猫を抱えて入ってきたのは茉莉子だった。
絶対他の、もっと大事な用があると思うのだが、来る途中捕まえた白猫に夢中でそんな事は忘れてしまったらしい。
「麻衣の親戚さんかなあ」
「えっ」
「えっ?」
「ぼかぁ猫でも構わんがね、そしたら君らも猫になるで…」
「あ、じゃあ私達も猫だったの?」
「…」
違う、そうじゃない。
前々から思っていたが、茉莉子はほんの少しバ…天然なのかも知れない。
「おばかー…おばかー」
「頭が空っぽの方が夢が詰め込めるって何かの歌でも言ってたもん!」
「ヘーソウナンダー、ところで…そろそろ本題を聞きたいんだがね…」
「あ、そうだった、えっとね…」
これ以上付き合っていると時間が過ぎて終わりそうだと、自分から本題を切り出す。
猫に夢中になっただけで、一応内容を覚えてはいたようだ。
慌てた様子もなく彼女にとっては、危機感を感じる事ではないのかも知れない。
が、ガシャンだとかバリンだとか物の割れる音が段々増えているので早めに解決させたい。
「満里奈と桜が大喧嘩なの」
「割れる音は…」
「食器の投げ合い」
…妹達は随分と危険な喧嘩をしている様だ。
元気なのは良い事だが、危ないのは少し困る。
まあ、これでも長女だ。
仕方ない、止めにいこうと立ち上がろうとした所…
「あ、麻衣のお気に入りの器も割れちゃったかも…」
「今すぐ二人を外に連れてこい」
…取り敢えず一回ずつチョップをする事は決定した。
「……」
一時間後。
無理矢理止めて二人を外に連れ出す。
喧嘩の理由は未だ分からないが、キッチンの床に破片が散乱、一部は壁に突き刺さっているのを見たら、お気に入りがとか以前の問題。
外で座らせてから結構な時間が経ったが、二人はお互いの顔を見ようとすらしない。
「結局、何で喧嘩してるのよ…はい、満里奈からー…」
「……桜が自分の食べたお皿片さないから叱ったらうるさいババアって」
「…桜」
「だって家事当番のあっちが片付けたって良いじゃん!あたし悪くないし!あのおばさん普段から口煩いんだって!」
「なんですって!?」
言い方を変えた所で悪口には変わらない気がする。
そして、喧嘩の理由がこれなら感想は一つ。
「…すっげえどうでもいい……」
「良くない!私まだ15なのにババア…ババアって…!」
「いや皆15だから…数時間程度の差でおばさん扱いかあ、驚きだぜえ…」
「ババアはそこの満里奈だけだし。茉莉子や真理亜や雛芥子はなんかもう、若いし麻衣もそんな煩くないし…」
うん…どっちかを黙らせた方が良い気もしてきた。
片付けもあるし早く解決させたいのだが、桜に話を聞いた所で満里奈の悪口ばかり出てくる気がする。
まあ、反抗期とツンデレは分かり合えないかも知れない。
…仕方ない、満里奈が少し可哀想だがもう終わらせてしまおう。
「桜ちゃん、反抗期が色々言いたいのは分かるぜ…今の君からしたら確かに満里奈は口煩いおばさんかも知れんなあ…」
「ちょっと!」
「でしょ!そうでしょ!やっぱり麻衣はわかってくれるじゃん!」
「でもまあ、満里奈も君の事を思って言ってるんだぜ。本当は家族の事が大好きなんだよ…うぇひひ」
「は…はあ…っ!?」
よし、狙い通り。
性格上こう言えば絶対否定するし、怒りの矛先がこちらへ来る事は分かっていた。
あとは自分が暫く逃げ回れば良いだけ、掃除も他の妹達がやってくれるだろうし、これで楽が出来る。
「じゃあ桜掃除よろしくー…」
「え!?」
「ちょっと麻衣、どこ行くの。止まって、止ま…止まれ!」
「え……えー、マジかよ…」
……二人が森の方へ消え、桜はぽつんと一人取り残された。
まあ、自分にも原因があるので掃除をする事自体は構わないのだが。
麻衣にはさっさと逃げられたし、満里奈もそれを追いかけて消えてしまったので、掃除が大変そうだ。
でも、あのおば…じゃなくて満里奈の本音は分かったし良しとしよう。
ああやって、真っ赤になって否定するのは図星の証だ。
実に分かりやすい。
「…さて、掃除すっかな」
「ねえねえ、お手伝いするー?」
立ち上がると、二階の窓から茉莉子がひょこりと姿を見せる。
どうやら、ずっと聞いていた様だ。
「うん、掃除手伝ってよ」
一人より二人。
誰かが帰ってきた時にまだ散らかっていたら、何て言われるか。
素直に手伝いをお願いすると、そのまま窓からふわりと降りてきた。
…せめて玄関から来いよ。
でも、自分は思うだけで煩く言う気はない。
まあ良いかで済ませると、掃除用具を取りに二人で倉庫へと向かった。
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