エイプリルフール(曽紅)
エイプリルフールと言うものは、嘘を吐いても良い日らしい。
嘘…嘘と言う事にすれば言えるかな。
言いたいけれど言えない言葉を。
「モミジー、モミジー」
「クレハだよ!どうしたの小鳥遊君」
「んー…俺…さ、モミジの事好きなんだよね。彼女になって欲しい」
「……へ?」
いきなり告白してみたら、岡崎は口をぽかんと開け素っ頓狂な声を出した。
まあ、そりゃ驚くよなとは思うけど。
暫く待ってみると、ようやく理解したのか大きな声を上げわたわたと慌てた様子で喋りだす。
「あええ!?私も小鳥遊君は好きだけど!でもそっちの方向とは思ってなかったですよ!?どうしよ!アイリスちゃん!?アイリスちゃんに相談する!?」
「なーんて」
「嘘」と言えば岡崎はまた静止してしまった。
感情豊かな彼女の表情がコロコロ変わる様は、いつも見ていて楽しい。
再び待ってみれば今度は頬を膨らませ怒り始めた。
「もう!小鳥遊君そう言うのはよくないよ!」
「ゴメンゴメン」
「うぐぐぐ…!」
「今度菓子奢るからさ、許してよモミジ」
「クレハだよ!仕方ないなあ!じゃあ明日ね!」
菓子に釣られて、あっさりと機嫌が直った岡崎を見送ってから帰路に着く。
ああ、慌てた時に「好き」って言ってくれてたなあ。
嬉しい。
友達の意味だとしても、俺は彼女にとって価値のある存在なんだ。
エイプリルフールについた嘘は叶わないと聞く。
良いんだそれで、元々叶わないのだから。
…叶わない願いを嘘にして、良い思いが出来たんだから。
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