茉莉子1
 


「茉莉子、作品を作るのに必要な材料があるんだけど、調達してきてくれないかな」

「うん、じゃあ行ってくるね」


今日の任務は、とても簡単なものだった。
任務命令は毎日の様にあり偵察の様な事をする時もあるが、基本は今回の様に材料調達を頼まれる場合が多い。
だが彼の望む材料の中には、何に使うのか全く謎なものが入っている事もよくある。
前回も鶏を連れてこいだなんて言われたが、今回は市販のものが多くとても楽。
…普通に買えるものぐらい自分で行けとも思うが。
茉莉子にとっては、特に不満はない様だ。
それに素直に従っていれば、この前の様にチョコレートパフェを買ってくれる可能性もある。
しかし、残った意識が最優先するのは、逃げ出す事でも何でもなく食べ物とは。
……とにかく、彼女はご褒美の為に今日も任務を頑張るのだ。





キーンコーンと、チャイムの音に目を開ける。
どうやらゲートが出来た場所は学校の屋上の様だ。
このゲート、毎回望んだ場所よりずれた位置に出てくる事が多く、どうも茉莉子はこれが少し苦手らしい。
まあ、自分の能力ではないので仕方ないのかも知れないが。
上手く制御出来る様になればどこかのピンクドアみたいに好きな場所へ行き放題。
そう考えるととても便利なものである。


「今日のものは……あれ…アルコールランプ?」


…何でそんなものが必要なんだ。
しかも裏面に小さく書かれていて、このまま見逃していたらどうなっていたか。
買い物だけで済むと思っていたのにそうはいかない様だ。
まあ、リストにあるなら学校に出たのは運が良かったのかも知れない。
最近の学校ではアルコールランプは使われないとも聞くが、きっと残っているだろう。
窓から直接侵入しようとも考えたが、準備室の場所が分からないので中から行く事にした。
…が、扉に手をかけたまま動きを止める。


「…(足音が近付いてくる。どうしよう)」


制服を着ていればまだ誤魔化せたかも知れないが、こんな所へ来るとは想定していなかったのでそんなものはない。


「…仕方ない、気絶させよう。あとついでに場所を教えてもらう」


…中々物騒な事を考える。
気配を消し待ち構えていると、カチャリと扉が開く音。
男子生徒だろうか、一人がパンを抱えて出てきた、そこを平手打ちする。
すると、叩かれた生徒は思いきり端へ吹き飛んでしまった。
…そんなに強く叩いただろうか


「………お…俺、何かした…?ていうか誰だお前……ぐふ…っ」

「?あれ、この人」


赤髪の男子生徒はよく見れば、平凡少女の周りにいた彼ではないか。
…まあ、突っ伏したまま動かなくなってしまったので、準備室の場所も含め何も聞けなくなってしまったが。
やはり自力で探し出すしかない様だ。
耳を澄ます…近付いてくる足音は、ない。
今なら行ける筈。
また人が来る前に早く終わらせようと、校舎内へ足を踏み入れた。


――――――――――――


「…主、ただいま」

「あ、お帰り茉莉子」


あれから、数時間後。
初めは楽だと思っていたのに、まさかこんなに苦戦する事になったとは。
学校というのは人が多く、目的の準備室も中々見付からず、見つかる度に攻撃や逃走を繰り返していたらこんなにも遅くなってしまった。
救いがあるとすれば、アルコールランプがあった事だろうか。
…これならまだ鶏の方が楽だったかも知れない。
しかし、そんな苦労なんてどうでも良いとばかりに主は視線を動かす事もなくトランプタワーに熱中している。
せめて調達してきたものを使って、早く作品作りをして欲しいのだが。
そんな、流石に不満を感じたその時


「ああ、今日頑張ったみたいだからね。今度美味しいパフェを買ってあげるよ」

「え……うん、ありがとう!」


なんて、上手く丸め込まれた。
…きっとどんな事があっても、チョコレートパフェがあるなら頑張れる。
唯一の楽しみと言ってもいいものだし、それほど存在の大きいものなのだ。
茉莉子は明日も忠実に任務をこなす。
…ご褒美の為に。



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