迷い込んだ図書館
 


梅雨時、予想外の雨にはとても困る。
今日は光咲ちゃんと一緒に遊びに来ていて、さっきまでは晴天で楽しく遊んでいたのに。
突然降ってきた雨に驚き、取り敢えず避難しようと裏道を通りながら私達は見つけた建物に入った。


「こんな場所あったっけ」

「いや、あたしの記憶ではなかった筈だけど…」


建物を見る感じだと図書館みたい。
とても広い。それでも、棚に入りきらない本があって床に沢山積み上げられてる。
視線を反対側にやると、テーブルにさっきまでなかったタオルが置いてあった。


「……光咲ちゃん、タオルが増えたよ」

「えー、センパイが見逃してただけっしょ」

「でもここ自体変な所だし…お化けとか出たらどうしよ…!」

「ゆ!?ゆゆゆ幽霊なんてそんな!出るわけがない!」


不気味だとか不安だとか、とにかく色々で怖がる私達。
…光咲ちゃん、幽霊苦手なんだね。
そんな携帯のバイブレーションみたいに震える人初めて見た。


「あ、で、でも、タオル出してくれたなら良い幽霊なんじゃないかな」

「いや幽霊何ていないっつってんでしょ!?仮にいたとしても善良な奴はいない!きっとタオルで体拭こうとした瞬間にぶわっとなって異界へ連れていかれあわわわわわわわわ」

「うわあ!?ご、ごめん!何かごめんね光咲ちゃん!だから落ち着いて!」


うーん…………どうしよう。
まだ雨強いけど、光咲ちゃんが心配だし出た方が良いのかな。
こ、ここは先輩の私がしっかりしないとだし、濡れちゃうけど出よう!
そして走って帰ってアイリスちゃんが作った美味しいお菓子を食べる!
決めたなら早く行こう。
手を握り扉に手を掛けたその時、光咲ちゃんの頭上に一冊の本が落ちて来る。
そして「出たああああ!?うあうえっあ、え?うわあああああああ!!!」と、何か凄い悲鳴を上げながら、光咲ちゃんは気絶してしまった。


「え、光咲ちゃん……!?」


私が驚いていると笑い声が聞こえ、すぐ隣に謎のお兄さんがいた。
綺麗な橙色の髪に、ぴしっとしたベスト姿。
でも笑顔なのに、瞳は笑っている感じがしなくて何か怖い。


「ひぃ!?幽霊!?」

「違いますよ。本やタオルは俺の仕業だけど」

「な、何でこんな可哀想な事を」

「んー…そんな雨で濡れてる状態で本の周囲を歩き回った事への怒り、勝手に入っておいてまるでお化け屋敷の様に扱った事への怒り、ただ単に面白いから、さてどれでしょう」

「絶対面白いからだよね!?」

「はい、大正解!」


おめでとうございますーだなんて拍手されても…うん、祝われて嬉しくないの初めて。
そんな事より色々と説明して欲しい。
ちらっとお兄さんの方を見ると、私の考えが分かったかの様に喋りだした。


「え、説明?…まず最初に、俺は幽霊ではないけど人間でもない」

「え、あ…うん、何かそんな感じします…」

「君達が此所にいるのは、偶然次元が歪んで偶然俺の家の一室に繋がって偶然君達が入ってきたから、ですね」

「へ?じ、じげん?の歪み?」


は…早くも私には分からない事が出てきたよ!
困った、凄くアイリスちゃんに助けてほしい。
うんうん唸ってると「別に理解しなくても平気なんで」と言われる。
何か、やっぱりからかってるのかなあ。


「ま、偶然が重なって此所に来てしまった結果運悪く俺の暇潰しにされた、それだけですよ」

「成る程!お兄さん性格悪いですね!?」

「アハハ、よく言われる。悪魔だからね、種族的に」


あ、そ、そうなんだ…凄いサラッと言いますね。
確かに本人は悪びれる様子も何もなくただ楽しそう…あ、悪魔って恐ろしい…!
いやでも、種族の問題よりこの人自身の性格の問題が大きいと思う!
ゲームとかで物知りな人(本が多いし多分)は性格が悪い事があるけど本当なんだと実感!


「…色々考えてるのを邪魔するけど、雨上がりましたよ」

「え、本当だ!…えっと、じゃあ帰ります!」

「うん、クレハちゃん帰りたいって気持ちが溢れ出てるしね、重い物を運ぶし気を付けて」


…ん?私名前言ったっけ?
そっちが気絶させたのに光咲ちゃんは物扱いされるし、本当に謎、謎な人だ。


「と、とにかく雨宿りさせてくれてありがとうございました!えっと」

「名前、緋桐で良いですよ。これからも会うと思うので、宜しくお願いします」

「はい!分かりま……え?」

「君の事気に入ったからね、ああ、そんなに厳しい事はしないから安心してください」

「え、え…………」


えええええええええええええ!?
何と言うか…凄い私がアイリスちゃんに怒られそうだなって、こんなのとつるむな!みたいな。
でも、悪い人ではないだろうし大丈夫かな?性格はともかく


「お、お手柔らかにお願い…!」

「はいはい、分かりました。多分ね」


ある意味で不安がいっぱいだけど、緋桐さんに見送られ取り敢えず私は光咲ちゃんを連れて家に帰った。
気絶してる光咲ちゃんを見て、誰と知り合ったとかより前にアイリスちゃんに怒られたのは言うまでもないです…。





(うわああ幽霊!幽霊は!?)(あ、光咲ちゃんおはよう)(あれ、ここセンパイの家だ……)



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